ヒルムシロ は第9週のサブタイトルです。
寿恵子との関係が徐々に深まっている万太郎。寿恵子も万太郎の来店を待っています。
そんな二人の関係に割り込んできそうな実業家・高藤が登場しました。
二人の関係はどうなるのでしょうか?そして、万太郎の実家・峰屋はどうなるのでしょうか?
そんな第9週のまとめです。
第8週「シロツメクサ」のまとめ。
主な登場人物
槙野万太郎 神木隆之介 植物が大好きな語学の天才。
西村寿恵子 浜辺美波 白梅堂の娘。
井上竹雄 志尊淳 番頭の息子。東京での万太郎の相棒
波多野泰久 前原滉 東京大学植物学教室・2年生
藤丸次郎 前原瑞樹 東京大学植物学教室・2年生
高藤雅修 伊礼彼方 薩摩出身の実業家。恋のライバル
西村まつ 牧瀬里穂 寿恵子の母。白梅堂店主
田辺彰久 要潤 東京大学植物学教室・教授
徳永政市 田中哲司 東京大学植物学教室・助教授
大窪昭三郎 今野浩喜 東京大学植物学教室・講師
倉木隼人 大東俊介 十徳長屋・元彰義隊
倉木えい 成海璃子 隼人の妻。
阿部文太 池内万作 白梅堂の菓子職人
江口りん 安藤玉恵 十徳長屋の差配人
宇佐美ゆう 山谷花純 十徳長屋・小料理屋で働く
牛久亭久兵衛 住田隆 十徳長屋・落語家
堀井丈之助 山脇辰哉 十徳長屋・東大の落第生
及川福治 池田鉄洋 十徳長屋・棒手振りの行商人助
広瀬佑一郎 中村蒼 名教館の同級生。工務省の役人
笠崎みえ 宮澤エマ 寿恵子の叔母。新橋の料理屋のおかみ
野宮朔太郎 亀田佳明 植物学教室に出入りする画工
第9週のストーリー
種まき
万太郎は日本中の植物の名を明かし、植物図鑑を作るという大きな夢を見つけました。その第一歩として、植物学雑誌の創刊を目指していました。
しかし、植物学雑誌の創刊には田辺教授の許しが必要なのですが、なかなか聞くタイミングを得られないでいました。
万太郎はすっかり仲良くなった波多野と藤丸を家の呼びました。
「もし、もしわしらが植物学雑誌を作ったら、外国の方も読みたいと思うじゃろう」
その時、標本を布団代わりに寝ていた丈之助が笑い出し、起き上がりました。
「自信家、万ちゃん自信家。で、君らどんな雑誌を作ろうとしてる訳?」
しかし、中身はまだ何も決めていません。
「わしは・・・わかりません。ただ、植物画は描きたいがです」
まだ中身は決まっていませんが、こじんまりと発行するつもりは万太郎にはありませんでした。
「これは種まきですき。雑誌は日本に植物学という種を撒くためですき。撒くときはたくさんぶわーっと撒かんといかんですき」
峰屋の心配事
そこに仕事を終えて、竹雄が帰ってきました。みんなに竹雄を「相棒」と紹介します。
「で、金はどうするのよ?なんとかなるか、万ちゃんの実家太いんだし」
雑誌を創刊するためにはお金が必要です。丈之助は万太郎にお金をどうするのかと尋ねました。しかし、それも万太郎にはどうしていいのかわかりません。
波多野と藤丸は万太郎の実家を知りませんでした。竹雄は「土佐の峰屋ゆう造り酒屋」と説明しました。
「酒蔵?そうなの?俺の実家も酒問屋だよ。隅田川の手前、千住で問屋をしてる。だったら、ご実家は今、大変なんじゃないか?うちの父は言ってる。これから先、日本中の酒蔵が軒並み潰れていくんじゃないかって」
藤丸の実家の話から、造り酒屋の心配事を話してくれました。西南戦争があってから、政府の財政はガタガタな状態だというのです。そして、その財源を酒の税金を上げて徴収しようとしていました。地租改正(米から金での納付)が行われていましたが、それも上手く行っていなかったようです。
「けんど、言うたち税金じゃろう。決まった額を払ったらええだけじゃろう。うちは、なんちゃあ心配ないがです、のう竹雄」
万太郎は家のことを何も知りません。竹雄も心配かけないように明るく振る舞うのでした。
寿恵子の父が亡くなった理由
白梅堂で働く寿恵子。寿恵子は「槙野さん今日も来なかった」とタンポポに話しかけていました。
そんな時、寿恵子に声をかける人物がいました。
「西村寿恵子さんですね?私は高藤の秘書を務めておりますカシマと申します。高藤よりこちらのお嬢さんに使いとしてやってまいりました」
その使いを見て、強張る寿恵子のおっかさん。
寿恵子は使いと一緒に、高藤の屋敷にやってきました。
「またお会いできましたね。正式に舞踏練習会へのご参加いただきたいと思いまして」
そう言うと、イギリスの紅茶を出して高藤は寿恵子を迎え入れました。
「身に余る光栄に存じます。ですが、私には到底務まらないと思います。先日初めてこちらに伺い、よくよくわかりました。元より不相応でございます。私は根津の菓子屋の娘ですから」
寿恵子は丁寧に断りました。
高藤は寿恵子のことを調べていました。寿恵子の父親は彦根公(井伊家)の家臣です。そして、明治維新後に陸軍に入っていました。
陸軍ではフランス敷居の軍隊を作ろとしていました。そして、フランス式は乗馬の方法も違います。日本では右側から乗るのですが、西洋式では左から乗ります。そして、その乗馬の際の落馬事故で、寿恵子の父は亡くなったのでした。
寿恵子の新しい世界
「言ってみれば、西洋のやり方が御父上の殺した。あなたも、西洋を憎んでいるのですか?」
高藤にそう聞かれた寿恵子は、はっきりと答えました。
「いいえ、私は無理やりに押し付けられて亡くなったとは思いたくありません。父は生前私によく本を読んでくれていました。冒険や困難に立ち向かう話を好んでいて。それに父は新しいやり方をするのなら、まずは自分からというのがあったんだと思います。父はただきっと、西洋のやり方に挑もうとしたのだと私はそう思っています」
その言葉を聞いて、高藤は感心しました。反対している寿恵子の母には、高藤が直々に出向いて説得すると約束します。高藤は、自分の意見をはっきり言い、新しい時代を生きる寿恵子を気に入ったようです。
高藤は部屋に外国人女性を招き入れました。その女性はクララ・ローレンスと言い、アメリカから西洋の文化、ダンスと音楽を教えるためにやってきた人でした。
そして、クララは別室に寿恵子を連れていくと、ドレスを仕立てるために採寸しだします。採寸のためにクララが近くにやってきて、びっくりする寿恵子。さらに、帯をほどくように言われて、断ります。
「ドレスの方が動きやすいのよ」
抵抗されたクララは、無理強いをするわけではなく、そう言って踊って見せました。ダンスするクララを見て、興味を持った寿恵子。クララの手を取り、教えてもらうことにしました。
そして、採寸のために自ら帯を取ったのです。
その後の峰屋
この頃、政府は近代化政策を実施するため、多くの税収を必要としており、酒への課税を厳しくしていました。
これまでは、酒の税金は販売した分に課せられていました。しかし、酒を造った時点で課税される「造石税」に変わったのです。これは、酒が売れようと売れまいと、課せられる税金です。そのため、売る時に納める「庫出税」とは違い、不出来でも、酒が漏れてしまっても納める必要がありました。
それもあって、酒蔵で熟成させる(売らない)とお金にならないので、できたものを全部売るという方針に変わったのでした。
そんな役人に対応したのは、綾です。おばあちゃんは、屋敷の奥にいました。
「役人は何の用じゃった?」
おばあちゃんにそう聞かれた綾は、細かいことを省いて大まかに説明します。
「税金の改めでした。おばあちゃん、この先考えんと。政府は深尾のお殿様とは違う。いざって時に峰屋を守ってくれる訳じゃない」
庭が見える場所に座るおばあちゃん。峰屋の話は全部綾に任せて、あまり聞いていないようでした。聞いていないことを察した綾は、おばあちゃんに寄り添います。
「おばあちゃん、あとで茶店行こう。ええろう、蜜豆食べたいき」
もう年老いてしまったおばあちゃんの背中を綾はさするのでした。
田辺教授の機嫌
最近、田辺教授の機嫌が悪い状態が続いています。
講師・大窪に学生のレポートの質が悪いと怒っていました。そんな状態では、植物雑誌の話をすることができません。
それでも、万太郎はタイミングを見て、田辺教授の部屋に話しに行きました。しかし、万太郎が話しかけても、田辺教授は返事すらしません。
イライラしている田辺教授を見て、万太郎は諦めて帰ろうとします。そこで目に留まったのは、テーブルの上に置かれたバイオリンでした。
「音楽。。。西洋の音楽は日本とは違うがでしょうか?友人がシェイクスピアゆう作家は日本の勧善懲悪とは違うて、生身の人間そのまんまを書こうとしゆう、そう話しておりました。音楽もそうながでしょうか?」
これには、田辺教授が「興味があるのか?」と聞き返しました。脈ありのようです。
「この前、野宮さんと西洋の植物画を眺めましたけんど、日本のとは影の付け方が違ごうて、なんと言いますが奥行きがあるというか」
これには田辺教授が食いついてきました。
「いい着眼点だ。人間の心や体への探求、それが西洋の芸術の根幹にあると私は考えている。音楽においてもそうだ。週末に室内演奏会を開く、聞きにくるか?学生として同伴してみろ」
そうやって万太郎は、田辺教授とお出かけの約束を取り付けることができました。
手紙に書かれていないこと
万太郎が家に帰ってくると、峰屋から手紙が届いていました。
「拝啓、万太郎。お手紙ありがとう存じます。おばあちゃんも私も、峰屋のみんなも息災でございます。おまんが大学の研究室に出入りを許されたこと、おばあちゃんも大そうお喜びでした」
そう書いてあるものの、峰屋ではおばあちゃんが倒れていました。綾は店の者に医者を呼びに行かせ、おばあちゃんの傍に付き添います。
「なんちゃあない、胸がちくっとしただけじゃ。綾、万太郎には知らせな。本当にもうなんちゃあないがじゃき」
おばあちゃんは万太郎に心配をかけないように言い、綾もそのことは手紙には書きませんでした。手紙に書かれていないことは、万太郎は知る術がありません。
手紙を読み終わった万太郎は、峰屋から送られてきた酒・峰の月を探します。それを倉木に渡し、また東京を案内してもらおうと言うのです。
「雑誌に書くためにも、わしはまだ見たことのないものと出会いたいき。これも峰屋のためじゃ」
万太郎はそう言いますが、竹雄には植物採取が峰屋のためになるのかわかりません。
「政府が酒屋から金を搾り取ったち、それで国の力を外国に示せる訳じゃない。それより、わしら植物学者が雑誌で政界の度肝を抜いちょる。その方が遥かに国の力を示せる。ほんなら、政府も馬鹿らしゅうなるじゃろう」
広い意味では万太郎の言うことも一理あるのかもしれません。竹雄は、峰の月を万太郎に渡しました。
男にすがって生きる生き方
高藤の所から帰ってきた寿恵子は、店を閉めると夕飯の手伝いをします。寿恵子のおっかさんは、ダンスを習うことにした寿恵子に怒っているようです。
「まだ怒ってるの?高藤様からのお申し出を断ることなんでできないでしょ?」
それはおっかさんもわかっています。
「ダンスのクララ先生が素晴らしい方の。たったお一人で、亡くなった旦那様の志を継いで、西洋からいらしたのよ。先生に教わってみたいの」
おっかさんは「教わったらいい」とは言うものの、やっぱり納得は出来ていません。
「行くのはいいけど、おとっさんに顔向けできないマネだけはしないでおくれよ」
寿恵子は「はーい」と簡単に返事をします。それを見ていた文太はおっかさんに話しかけました。
「大丈夫ですよ。お嬢さんはあれでいてなかなかしゃっきりしてらっしゃる」
それはおっかさんもわかっているつもりです。
「私はただ殿様だろうが金持ちだろうが、男に縋っていく女にだけはしたくないんだよ」
そのおっかさんの言葉を聞いて、文太は笑いました。
「それはお嬢さんに伝わってると思いますよ。おかみさんがそうですから」
宴会
十徳長屋では、竹雄たちが万太郎の帰りを待っていました。万太郎は夜明け前に倉木の案内で出かけています。
倉木の妻・えいと子供たちも帰りを待っていますが、子供たちはもう寝る時間です。えいが子供達を寝かせようとしますが、子供たちは倉木の帰りを待っていたいと言うのでした。
あまりにも帰りが遅いので、竹雄は万太郎が体調を崩したのではないかと心配です。倉木に背負われて帰ってくると思った竹雄は、医者を呼びに行くと言い出します。しかし、差配人・りんに「病人もいないのに?」と言われ、思いとどまりました。
その時、遠くにゆらゆらと提灯の明かりが見えました。万太郎と倉木が帰ってきたのです。
やっと帰ってきた二人と、長屋の人達で峰の月を飲みます。外に机と椅子を出し、りんは酒の当てを準備してくれました。
万太郎は一度家に帰り、採取してきた草を桶に水を張って浮かべていました。
「今日は葛飾の小合溜ゆう沼地に行ってきての、この子は沼の底に根を張って、葉っぱが水に浮いちょった。浮いちゅう葉は楕円形で、水の中に沈んじゅう葉は細いがじゃ。浮いた葉が水面をばーっと覆ちょって、まるでちっこい筏のようじゃった」
その草を浮かべた桶を持って、万太郎は宴会に参加します。
ヒルムシロ
そこにゆうが帰ってきました。少し酔っているようです。
「ヒルムシロ?なんでこんなところに」
万太郎が桶に入れてきた水草を見て、ゆうはそう言いました。その言葉を聞き逃さなかった万太郎。ゆうの肩に手を置いて、引き寄せます。
「おゆうさん、おゆうさん今、今なんとおっしゃいました?おゆうさんがこの子の名前を」
万太郎の行動に驚いた及川は、万太郎を羽交い絞めしてゆうから引きはがしました。
「知らないわよ。ただヒルムシロって言っただけよ。ヒルが乗っかる筵みたいでしょ?うちの田舎じゃそう呼んでたから」
万太郎はゆうに田舎はどこかと尋ねます。その時、長屋の人達の目はゆうに注がれていました。
「ごちそうさま。疲れたから寝るわ」
ゆうは田舎のことは答えず、自分の家に帰っていきました。ゆうが話したがらないので、田舎のことは誰も知りませんでした。訳アリなのかも知れません。
宴会が終わると、万太郎は部屋に戻ってヒルムシロと呼ばれた草を観察していました。土佐から持って来た水草の標本にも、似たような水草があります。
地方によって、呼び方が変わる草花はあります。万太郎はそんな草花にも、一つずつ名前を決めていかなければならないと思うのでした。
朝から出かけていた万太郎ですが、植物のことになると寝るのを忘れて没頭するのです。
馬子にも衣裳
田辺教授と一緒に万太郎は、約束通り演奏会にやってきました。
万太郎は、田辺教授から離れ室内をキョロキョロと見て回っています。やっぱり目に付いたのは、大きな花瓶に飾られた花でした。
その時、演奏会を催した高藤が入ってきました。隣には高藤の妻・弥江も一緒です。さらにその後から、ドレスを着た若い女性が入ってきます。それは、寿恵子でした。
万太郎の目は寿恵子に釘付けです。その視線を感じ取ったのか、寿恵子も万太郎を見つけて二人で驚いていました。その場で会話を交わすことはできず、席に付くと演奏会が始まりました。
ピアノの演奏をするのは、ダンス講師でもあるクララです。クララはピアノの演奏をしながら、歌も歌っていました。
演奏会が終わると、万太郎は寿恵子に目配せして、人気のない部屋に呼び出します。
「ようけ聞きたいことがあるじゃけんど、とにかく・・・綺麗じゃ。言葉が・・・なんじゃ・・・綺麗じゃ」
万太郎は寿恵子のドレス姿に見とれ、言葉が出てきません。とにかく「綺麗じゃ」を連発すると、寿恵子は「馬子にも衣裳」だと笑うのでした。
綺麗と言えばと寿恵子は、クララの歌った歌が綺麗だったと言いました。寿恵子は英語ができないので、何を歌っていたかはわかりません。
「ザ・ラスト・オブ・サマー。夏の最後の薔薇と歌っちょりました。夏の終わり、他の薔薇たちは枯れて行って、最後に一輪だけ薔薇が残っちゅう、そういう情景を歌っちょりました」
高藤の暴挙と学会誌
二人で話しているところに、高藤の声が聞こえてきました。二人で誰もいない部屋で話していたと知れれたら大問題です。万太郎は椅子の後ろに隠れました。
高藤が現れると、寿恵子は疲れて一人になりたかったと話します。高藤は、寿恵子を紹介するから来るように寿恵子にいいました。
寿恵子は素直に「はい」と答えると、高藤は寿恵子の腰に手を回します。それに驚いた万太郎は、音を立ててしまいます。高藤は誰かいるのかと探しますが、寿恵子が機転を利かせて足を痛がって高藤の気を引きました。
高藤は寿恵子の靴を脱がせ、足を触ります。赤くなっていると言い、寿恵子をお姫様抱っこするのでした。寿恵子は抵抗しました。しかし、高藤は気にせず寿恵子を連れて行ってしまいました。
万太郎は、頃合いを見て部屋から出て、教授の所へ行きます。教授は政府の役人と話をしていました。西洋音楽の感想を聞かれた万太郎。
「まっこと美しゅうて胸が痛い。愛しさとは苦しいものですね」
それを聞いた政府の役人は、さすが教授の教え子だと教授を褒めます。気分が良くなった教授。そのタイミングで万太郎が、雑誌の話しを切り出しました。気分のいい教授は、万太郎の言葉をあっさり受け入れます。
「植物学の雑誌?ちょうど今年、植物学の学会を発足させたんだよ。だがまだ活動はしておらず、機関誌もない。いい機会だから君たちが作ろうとしている雑誌、それを植物学会の学会誌とすればいいだろう」
大窪を味方に
翌朝、教室でぼーっとする万太郎。そこに波多野と藤丸が登校してきました。万太郎が雑誌創刊の許しをもらえたことを伝えると、二人は大喜びです。喜んでいるところに、大窪がやってきました。
「今、田辺教授から。。。余計なこと拭き込みやがって。植物学会で学会誌を創刊するだなんて。事務局長は俺なんだ、俺の許しもえず、なんでお前が直談判する。植物学会は発足したばかりだ。俺には講義もあるし、教授たちの雑務もある。なのに学会誌。。。」
万太郎が仕事を増やしたことに怒っているようです。
万太郎は、雑誌作りの全ては自分達がやるので、大窪の手を煩わせないことを説明します。しかし、雑誌作りにかかる費用は学会に負担して欲しいと頼みました。
大窪は経費は当然負担すると言うのですが、万太郎が仕切っていることも気に入りません。
「そりゃわしが一番自由ですき。時間がある者が働く、それが当たり前ですき」
大窪は、万太郎が大学に出入りさせてもらっている恩を返すためにやるのだと勘違いしてくれます。しかし、万太郎はせっかくのいい方向に勘違いしてくれたのを訂正します。
「違います。その御恩は大きすぎて、労働だけでは返しきれません。わしの一生を植物学に捧げること、それでお返ししようと思っちょります」
そして万太郎は、雑誌の巻頭の挨拶を大窪に頼みました。大窪はまんざらでもない様子です。
「よし学会誌、しっかりやれ。徳永助教授には俺から話しておく」
どんより重い物
万太郎はウサギ小屋の前で波多野と藤丸と話しています。
「名目は何でもええがじゃ。わしは印刷のやり方が知りたいし、もちろんみんなと一緒に雑誌を作りたいがじゃ。お金の算段も付いたし、教授様様じゃ。万事快調、望み通り」
言葉は元気ですが、万太郎は元気がありません。引かれた筵の上に寝転がる万太郎。二人に「どうした?」と心配されます。
「わし佐川におった時、何かあったらこうやって狛犬の神社で寝転びよった」
しかし、うさぎは狛犬じゃありません。万太郎は元気のない理由を何も語りませんでした。
それから、万太郎は元気がありません。ある日、家でぼーっとしているところを差配人・りんに見られました。万太郎は家の標本を整理するのと、論文の題材を探そうと思っていましたが、何も手につかないのです。
「これまではわし、草花の研究を始めたらそれきり他のことは頭の中から消えました。けんど、どういてもどういても消えんものがあるがです。かわいらしい、花のようなお人です。その方が男に抱えられてイチャコラ・・・そのことを頭から追い払うにはどういたらええがでしょうか?」
りんだけでなく、えいもゆうも出てきました。万太郎が恋していると指摘する3人。
「そうじゃと思っちょりましたけんど、そうじゃないがです。これは、そんな綺麗なもんじゃない」
万太郎の心にはどんより重い物があるのでした。
ゆうの過去
万太郎はいつも草花に恋をしています。しかし、今回の寿恵子への思いは、そんな明るく浮き立つようなものではありませんでした。
「あのね、どんなに柱に縛り付けられても、心はいうこと聞かないものよ。私もそうだった。私、能登の生まれなんだけどね、沼がいっぱいあって、鳥も渡ってくるところだったよ」
訳アリのゆうが、自分のことを話し始めました。
ゆうは名主の息子がずっと好きでした。しかし、その息子は隣の村の名主の娘を嫁に取ることが決まっています。ゆうは諦めるべきだとわかっていても、諦めることができませんでした。そして、自分から鳥を見に行こうと誘ったのです。心から願って、たった一度きりの思いを遂げたゆう。
それから名主の息子には嫁が来て、ゆうは辛くなって村を捨てて東京にきたというのです。そして、茶屋で働き始めたゆうは、薬種問屋の息子に見初められて結婚しました。子供も生まれましたが、亭主が心変わりして離縁されてしまったというのです。子供は薬種問屋の跡取りということで引き離されました。
「昔の話し。思い出すの辞めようと思ったけど、誰かさんがこんなの採ってくるんだもん」
万太郎が採って来た「ヒルムシロ」を見て、ゆうが忘れようとした過去を思い出したのです。
えいの馴れ初め
ゆうの告白を聞いて、えいも自分のことを話してくれました。
「私もあの上野の戦の夜。うちの人が血まみれで逃げ込んで来なければ、侍と夫婦になるとは思いませんでした。私は嬉しかった。だって、彰義隊の行列で見かけたことのあるお人でしたから。だからね、血まみれのあの人を介抱しながら、このケガが酷ければいいなって思ってました。死なない程度にね。酷いケガならもう戦場に戻らなくていいでしょう」
えいは恥ずかしそうに馴れ初めを話してくれると、みんなに口止めしました。
そして、万太郎は3人に勇気づけられます。
「万さん、誰かを好きになって綺麗なままでいようだなんてちゃんちゃらおかしいんだよ。自分の丸ごと全部でその人のことが好きなんだからさ」
「牧野さんに好きなものが増えたって勉強がおろそかになる訳じゃないでしょ?もっと力になるんじゃないですか?」
「私はすごいことだと思うけどね。こんなに草花が好きなお人が、人間のことで悩んでるんだよ。そんなお相手、最初で最後かもしれないよ」
みんなに元気づけられた万太郎は、寿恵子に気持ちを伝える勇気をもらいました。
最後にりんは、万太郎の恋敵は誰かと聞きました。
「高藤雅修様です」
万太郎の答えに3人は驚きます。庶民でも知っている有名な実業家です。流石に「勝ちっこないよ」と万太郎を止めます。
「勝ちます。いってきます」
万太郎は背中を押され、止められても聞かず、寿恵子の元へ行くのでした。
カエルの国のお殿様
万太郎は身なりを整えて白梅堂へ行きました。店にはおっかさんがいて、寿恵子はいません。寿恵子の帰りが遅くなると聞いた万太郎は、店にあるお菓子をほとんど全部と、カルヤキを買い求めました。
お菓子を準備してもらっている間、万太郎はおっかさんにノートを渡しました。それは、演奏会で歌われた歌に出てきた植物を、万太郎が描いた絵です。絵を見ていると、文太ができたてのカルヤキを持って出てきました。
「寿恵子さんのお父上とお母上でいらっしゃいますか?わし土佐から参りました牧野万太郎と申します。寿恵子さんに申し入れたい儀があります。けんど今は、まだ言えんがです」
おっかさんは、万太郎が何を言いたいかを察しました。そして、寿恵子に良縁があれば、万太郎を待たずに嫁がせると伝えました。
「わかってます。わしはわしにできる一番の速さで、お嬢様を迎えにきます。ほんじゃきここへはしばらく参りません。やるべきことがあります。自分で決めたことですき、それを放りだしてはわしはわしでのうなります」
万太郎は代金を支払い、カルヤキを受け取りました。そして、博覧会の時から大好物だったことを伝えます。それにピンときたおっかさん。
「あなた様もしかして、カエルの国のお殿様?」
万太郎はそれには答えず、菓子の礼を言うと、走って行ってしまいました。
その万太郎が向かった先は、大畑印刷所。神田にある石版印刷の会社でした。
最後に
寿恵子への思いを一旦置いて、雑誌創刊の夢に突き進む万太郎。
それにしても高藤は、妻がありながら寿恵子を狙っています。時代的に、愛人を持つことが当たり前だった時代です。寿恵子の母も武士の愛人だった訳で、今の時代からは考えにくいですね。今は、すぐに不倫だと問題になってしまいます。
そして来週は、印刷技術の習得のようです。
しかし、そんなことをやってていいのでしょうか?高藤の手は、寿恵子の襟元まで近づいています。
来週も楽しみです。