シロツメクサ は第8週のサブタイトルです。
東京大学への出入りを許された万太郎。竹雄も仕事がみつかりました。
そして、運命の人・西村寿恵子との仲もちょっと進展したようです。
ただ、万太郎を快く思わない人も東京大学にはいて、どうなるのか心配です。
そんな第8週のまとめです。
第7週「ボタン」のまとめ。
主な登場人物
槙野万太郎 神木隆之介 植物が大好きな語学の天才。
西村寿恵子 浜辺美波 白梅堂の娘。
井上竹雄 志尊淳 番頭の息子。東京での万太郎の相棒
西村まつ 牧瀬里穂 寿恵子の母。白梅堂店主
笠崎みえ 宮澤エマ 寿恵子の叔母。新橋の料理屋のおかみ
田辺彰久 要潤 東京大学植物学教室・教授
徳永政市 田中哲司 東京大学植物学教室・助教授
大窪昭三郎 今野浩喜 東京大学植物学教室・講師
広瀬佑一郎 中村蒼 名教館の同級生。工務省の役人
波多野泰久 前原滉 東京大学植物学教室・2年生
藤丸次郎 前原瑞樹 東京大学植物学教室・2年生
野宮朔太郎 亀田佳明 植物学教室に出入りする画工
高藤雅修 伊礼彼方 薩摩出身の実業家。ライバル?
倉木隼人 大東俊介 十徳長屋・元彰義隊
倉木えい 成海璃子 隼人の妻。
阿部文太 池内万作 白梅堂の菓子職人
江口りん 安藤玉恵 十徳長屋の差配人
宇佐美ゆう 山谷花純 十徳長屋・小料理屋で働く
牛久亭久兵衛 住田隆 十徳長屋・落語家
堀井丈之助 山脇辰哉 十徳長屋・東大の落第生
及川福治 池田鉄洋 十徳長屋・棒手振りの行商人助
第8週のストーリー
反対
寿恵子は、叔母のみえがもってきた話しをおっかさんに話します。
「ねえおっかさん、この間のみえ叔母さんの話し。私、行ってみたい。鹿鳴館、行ってみたい」
しかし、おっかさんは反対です。寿恵子にとっては、場違いな場所だと思っています。そして、好奇心だけで行きたいと言う寿恵子をおっかさんはしかりつけました。
それでも、寿恵子の好奇心は留まるところを知りません。おっかさんは、寿恵子のことを心配して反対するのです。
「その山を登って行くためにおっかさんとみえ叔母さんは、小さい頃から置屋で厳しく躾けられた。おとっさんはあんたに、地に足が付いた真っ当な幸せをお望みだったよ。あんたは妾の娘でも、れっきとした彦根のお武家の娘なんだ。おとっさん生きていたら鹿鳴館なんか許すはずがない」
亡くなったおとっさんのことを言われて、寿恵子は反射的に反論しました。
「おとっさんの心、決めつけないでよ。おとっさん私にくれた本、全部冒険の話しだよ。狭い村を飛び出して、見たことのない世界に飛び立つ。おとっさん生きてらしたら、ちゃんとお願いしたよ。鹿鳴館は見たことのない世界だもん、きっとおもしろい。くだらない憧れで何が悪いの」
それでもおっかさんは納得しません。
「いい加減にしなさい。おすえ、おとっさんがどうしてお亡くなりになったか忘れたの?冷めちまったじゃないか」
そう言うと、この話しはこれで終わってしまいました。
学生の忙しさ
万太郎は、朝早く植物学教室にやってきました。しかし、早すぎてまだ鍵が開いていませんでした。
職員が来て植物学教室の鍵を開けてもらうと、まず掃除から始めます。窓を拭き、メダカに餌。植物学教室にいれることに幸せを感じる万太郎でした。
掃除が一通り終わると、万太郎は標本づくりを行います。その頃になると、学生たちがやってきました。
「なんで朝がくるんだろうな。空が白んでくると絶望するんだよ」
植物学教室の2年生は2人だけ。その1人の藤丸は、英語が苦手で、教授に質問されるのを恐れていました。
「僕たち二年生で植物学教室に来て1年目なんですが、この教室教授の方針で講義も全部英語なんですよ。論文も英語で書かなきゃいけなくて、藤丸すぐ胃が痛くなるんですよ」
そんな時は植物採取に行けばいいと言う万太郎ですが、そうも行きません。
「この教室では、大学の長期休みの時に植物採取のために旅行の計画がたてられて、計画的に採取に行くんです」
万太郎は草花はどこにでも咲いているので、立てた計画通りに採取に行くという方針には、歯がゆい物を感じるのでした。
「そういうことをしていると勉強に追いつけなくて。講義の準備、宿題と試験。それから論文。それだけですぐ夜になって、朝がきちゃうんですよね」
よそ者
万太郎が乾燥させた植物を見ていると、講義の声が聞こえてきました。
案の定、藤丸が指名されますが、上手く答えられません。藤丸は、田辺教授に英語で叱責されていました。講義が終わった後、ウサギを見ている藤丸。藤丸は癒しを求めていました。
そんな藤丸に万太郎は、東京の植物を教えて欲しいと声を掛けます。しかし、藤丸には断られてしまいました。
「いいですよね、あなたは。宿題も試験も論文もない。好きなように来て好きに勉強して、好きに帰るだけじゃないですか。しかも教授に気に入られてる。なんですか、土佐の繋がり?教授が繋がるべくして繋がったとか、すごいですよね。失礼します」
そんなことがあっても、万太郎は植物学教室に通っていました。
しかし、万太郎と目の敵にする助教授・徳永には無視されています。そして、他の学生からも相手にされないのでした。
そんな時、見慣れない男性が植物学教室にやってきました。万太郎は挨拶をすると、男性は「画工」だと言い、間宮と名乗りました。
「わしはこの世にこんなお仕事があると初めて知りましたき、あの見せてもらえませんろうか?わし、植物画が好きながです。けんど、今まで植物画を描く人に会うたことがなくて。お願いですき、野宮さんの絵、見せてもらえませんか?」
しかし、飲み屋は「見せられませんよ」と冷たく言うのでした。
待ち人
寿恵子は、店番をしながら万太郎が書いてくれたボタンの絵を見ていました。そこに文太が、できた菓子を持ってやってきました。
「これお嬢さんが?」
ボタンの絵を見て驚く文太。寿恵子は描いてもらったものだと説明します。
「ちっといいですか。これお借りしてよろしいですか?すぐにお返ししますんで」
そう言うと、文太は店の奥に絵を持って行ってしまいました。
寿恵子は、できたお菓子を並べます。その中には、万太郎が好きなカルヤキもありました。
「来ないかな」
寿恵子は、万太郎を待っているのです。
それからしばらくして、文太が新作のお菓子を持ってきました。ヨモギを練り込んだ餅を葉のようにしたヨモギ餅です。
文太は、寿恵子から絵を借りると、ヨモギの餅の部分を葉の形にして、仕上げたのです。評判になりそうだと喜ぶ寿恵子。文太はおっかさんに新作を見せに行きました。
その時、店の暖簾の下に洋装の足が見えました。寿恵子は、万太郎だと思い、店を飛び出します。
「牧野さん!牧野さん待って!」
しかし、呼び止めた洋装の若者は万太郎ではありませんでした。
寿恵子は道端のタンポポに話しかけます。
「今日も来ないのかな」
ホラ話
万太郎は差配人・りんを連れて、竹雄の働く洋食屋へ行きました。りんは、洋食屋に来るのは初めてのようです。
世話になるお礼と、自分自身が元気になるために、万太郎は洋食屋に来たのでした。
「どうしたんだい、元気ないんか。にしても、大学に通えるなんてね。小学校も出てもないのに大学に通うなんて愉快だね」
りんは、いきなり大学に通うことになった万太郎を「ホラ話みたい」と表現しました。ただ、一文にもならなそうな植物学を勉強して、家賃が払えるのか心配です。
その時、竹雄が料理を運んできました。ビシッと洋服を着ています。りんは竹雄のズボン姿を見て、「体の半分が足だね」と言います。そんな足の長い竹雄は、洋食屋に来ていた女性達にキャーキャー言われていました。
りんは突然、核心をついてきました。
「仲間に入れてもらえないのかい。そりゃそうだよ、他所からくる者は怖いよ。しかも玄関じゃなく、いきなり縁側から上がり込んだようなものだろう。泥棒なのか、お隣さんなのか、福の神なのかもわかんないしね。うちだって、みんなでドクダミを抜いて大騒ぎしたから、万さんの人となりがわかったけど、わからない者は気味悪いよ」
万太郎は、よそ者としてどう振る舞えばいいのか、悩むのでした。
寂しいがよ
万太郎は部屋で考え事をしています。その同じ部屋では、竹雄が洗濯物を畳んでいました。
万太郎は働く竹雄のことを「キランソウみたい」と例えました。ピンときていない竹雄に絵を描いて見せるます。
そして、キランソウの花は紫色で良く目立ち、店の女性客がキャーキャー言ってる姿に似ていると思ったのでした。
「わしには綾様という心に決めたおかたがおりますき」
そう言うと、絵の上手な万太郎に自分の絵を描いてくれと頼む竹雄。それを高知の峰屋に送ると言うのです。万太郎が描きながらつぶやきます。
「大学は植物学を目指す人らがおる。憧れた、夢のような場所じゃ。けんどのう、寂しいがよ。佐川で一人きりでおったときよりのう。目の前に同じ目標を持つ人らがおる。それにまともに話すこともできん」
そんな弱気な万太郎を竹雄が「人並なことを言ってる」と笑い飛ばしました。
「それがなんです。今更人と話せんばあで、何を落ち込むがか。若は峰屋を棄てたがです。研究室のお人らはさぞご苦労されて大学の門をくぐられたがでしょ。けんどわしは、棄ててきたもんの重さなら、若は引けを取らんと思うちょります。若は覚悟を持ってここにおるがでしょ。なら、相手がどう思おうと好きにしたらえい。どうせ若は草花にも勝手に話かけゆうがじゃないですか」
万太郎は竹雄に言われ、目の前の視界が開けたようでした。
そんな万太郎が描いた竹雄の姿は、お世辞にも上手とは言えなできでした。
シロツメクサ
朝、顔を洗う万太郎。夜明けと共に出かける準備します。そして、万太郎が倉木の家の前に立っていると、隼人が出てきました。
「倉木さん、お願いがあります。わしに東京の地理を教えていただけまんでしょうか?緑の深い場所はどこにありますろうか?東京に山はありますろうか?昔から変わらん場所は、倉木さん教えて下さい」
万太郎の熱意に押され、隼人は教えてあげました。そして、隼人の案内で植物採取をした万太郎は、東京大学へ向かいます。万太郎は一方的に学生たちに話しかけます。
「今日、高田馬場界隈に行って参りました。東京にも山があるがですね。あと、今の東京ならではのところも。西洋料理のオムレツ、知っちょりますか?わしの相棒が西洋料理屋に勤めちゅうがですけんど、同じ卵料理でもフワフワしちゅう。秘密は牛の乳じゃそうで。牛乳はすぐに腐るき、搾りたてを毎日店に運ばんといかんそうで。帰りに雑司ヶ谷の牧場にも寄ってまいりました。藤丸さん、どうぞ」
そう言うと、藤丸に風呂敷を渡しました。風呂敷にはシロツメクサがくるまれていました。
シロツメクサは、外国からの荷物に割れ物がある時、クッションの代わりに詰められていたと言うのです。しかし、そのシロツメクサを藤丸に渡す意味がわかりません。
「牛らが美味そうに食んでおりましたき。ウサギに」
万太郎の心遣いに藤丸は「牧野さん、ありがとうございます」と言うのでした。
逆らってはいけませんよ
そこに画工・間宮がやってきました。
「来たばかりなのに、もう打ち解けてるんですか?上手くやってるじゃないですか。これでひとまず安泰じゃないですか。教授の役に立つうちはここにいられますから」
そう言われ、万太郎は教授の役に立つためにいる訳ではないと反論します。
「いいんですよ、本音は。私だって植物のことはわかりませんから。生活のためですから。描けば給金をいただける。ですから、この絵を誰かに見せていいのかもわからない」
しかし、絵を描くだけといっても、簡単ではありません。そこで、万太郎は自分が描いた竹雄の絵を見せました。
「あはは・・・最低ですね、最低だ。いや、ここに来るまで福井の中学校で図画教師をしてたんですが、生徒に人の絵を笑うなとあれほど言ってたのに」
大笑いする間宮。万太郎は「わしが描けるがは植物だけ」と言って、自分が描いた植物の絵を見ました。それを覗いた間宮は、絵の上手さに驚くのでした。そして、間宮が描いた絵を万太郎に見せます。
間宮の絵は、全体を書くだけでなく、花の詳細や断面まで書かれていました。人物画もありますが、植物が上手に描かれています。
「陰影をつけるのは西洋画のやり方です。教授が好む植物画はコーネル大学のものですから。私は教授に引き抜かれました。牧野さん、絵を笑ったお詫びにひとつ。この教室では、植物を愛することよりもっと大事なことがある。逆らってはいけませんよ」
憧れの殿方
白梅堂にみえがやってきました。店番をしていた寿恵子に話しかけます。
「この間の返事聞きにきた。鹿鳴館、行くでしょ?」
しかし、おっかさんは許してくれません。
「おすえの気持ちはどうなの?これからは女の時代よ。女が自分の才覚でのし上がれる時代がきたの。私が必ず、玉の輿に乗せてあげるからね」
しかし、寿恵子は鹿鳴館に行きたい気持ちはありますが、玉の輿に乗るつもりはありませんでした。
「ただ知らない世界を見てみたいだけなのに。なんで男の人の話になるの?」
みえは「それが女の幸せ」だと言うのです。女の幸せが男にしかない。寿恵子はその辺が良くわかりません。
「まさあんた、17にもなって・・・ちょっと、恋くらいしたことあんだろう?憧れの殿方、言ってごらん」
寿恵子は悩むと「馬琴先生」と言います。
しかし、馬琴は江戸時代の作家です。明治の世では、すでに亡くなっています。
「ダメだよ。あんたうちの娘になりなさい。姉さんがちゃんと育てないから」
みえは寿恵子を引き取って育てようと思いますが、おっかさんに「妹でも出入り禁止にする」と怒られてしまいました。そして、おっかさんは寿恵子に塩を撒くから塩を持ってくるように言いつけます。
「あーら、お塩なんてまいていいの?今日は白梅堂さんに注文にきたのに。明後日の夜、上生菓子を50個、おすえに届けさせて欲しいのよ」
完全な標本
藤丸は、万太郎にもらったシロツメクサをウサギに食べさせています。隣では、波多野がシロツメクサを花壇に植えていました。
「田辺教授の植物採取って綿密で大がかりじゃない?なのに牧野さんはさ、毎日が植物採取なんだね」
少しずつ、学生たちにも万太郎の行動が認められてきているようです。
その頃、万太郎は標本づくりと検定作業をしていました。
「この箱の標本も検定してええがでしょうか?」
箱の中にはたくさんの植物が入っていました。しかし、「完全な標本じゃない」と言われ、検定する必要はないと言われてしまいます。万太郎には、完全な標本というものがわかりません。
「花も果実もついた、検定に必要な重要な性質全てを兼ね備えた標本のことだ。この教室で名札を付けているのは、完全な標本だけだ」
田辺教授の意向で、この植物学教室に収蔵される標本は一級品でないといけないということのようです。そして、不完全な標本は検定することができないと言われてしまいました。しかし、万太郎は反論します。
「いや、できますき。これは、タチツボスミレでしょう。で、これがマルバスミレ。これがツボスミレ。学名を描いて一緒に収蔵した方が。。。」
「勝手な真似をするな」と講師・大窪に叱られてしまいました。
しかし、大窪がいなくなると、不完全なものにも学術名を書いておくことにしました。
田辺教授
不完全な標本を見て、万太郎はかわいいと言います。しかし、学生たちは田辺教授はそうは思わないと言うのです。
「教授は美しい物がお好きで、美しいとは完全な物だけを指す、そうですよ」
それは海外の詩に出てくる表現で、田辺教授がそれを引用して言う言葉のようです。そして、教授は留学者の役目として、植物学だけでなく文化的な発展のために政府に協力していました。今は、詩の改良に取り組んでいます。
「これまでの俳句や和歌じゃなくって、西洋風の新しい詩を書くそうですよ。それにローマ字。漢字は外国人には読めないから、いっそ無くした方がいいと。今はなんと言っても、鹿鳴館。来年開館予定の外国の賓客をもてなすところなんですが、田辺教授は井上外務卿に呼ばれていろいろ頼りにされてるんですよ」
波多野は田辺教授のことを教えてくれました。そして万太郎は、忙しい田辺教授の代わりに植物学を進めるのは徳永助教授かと聞きました。
「あの方は元々法学部志望なんです。ですが、英語ができなくて開成学校を退学されたそうで。その頃ちょうど田辺教授が留学から帰ってきて植物学の教授に就任されることになって、教え子の縁で徳永助教授に声をかけられたそうです」
徳永助教授は、自分の地位を守るために必死なのだと教えてもらいました。
その後万太郎が田辺教授の部屋に手紙を届けに行くと、机の上には楽譜の書かれた本が置いてありました。
「これが、教授の植物学。。。」
いろいろな葉っぱ
大学からの帰り際、久々に白梅堂による万太郎。店番をしていた寿恵子も、万太郎が来たことが嬉しそうです。そして、万太郎に見せたいものがあると、寿恵子は奥に入って行きました。
「牧野さん、今文太さんが50個作っていて、一つもらってきちゃいました」
そう言って見せてくれたのは、ボタンの花を模した餅であんこを包んだお菓子でした。
「これはなんと腕のいい職人さんがいらっしゃるがですか。本当にようわかっちょります。ボタンの葉はまさにこれじゃき。おおらかにギザギザして、先が三つに分かれちゅう。なによりこの艶があるところが、もうそっくりですき。菓子の風情がそっくりじゃ」
そして、万太郎はノートを取り出すと、おもむろに描き始めます。
「同んなじ葉っぱでも、もうちっとあんこを包みたくなったらツボスミレ。ツボスミレの葉っぱは、先が三つに割れてもうて、団扇みたいじゃき。あんこがはみ出んで済みます」
寿恵子は万太郎の描いた絵を見て感心しています。
「けんどわしが一番好きな、一番大好きな花ながは、ボタンと葉と同じ先がギザギザして、先が割れちゅうがじゃけんど、この葉は五葉がひと所から出ちゅうがです。葉っぱだけでも愛らしいのに。ここからすっきり茎が伸びて、花が咲く」
万太郎が一番好きな花と言って書いたのは、万太郎の母が好きな花でもある「バイカオウレン」でした。
万太郎の新たな夢
「バイカオウレン、聞いたこともないです」
寿恵子にそう言われた万太郎は、バイカオウレンのことを説明しました。
「冬でも枯れん常緑の植物です。元はと言うたら、この花の名前を知りとうて植物を」
そこまで言うと、万太郎はお母ちゃんのことを思い出して涙ぐんでしまいました。そんな万太郎の話しは、寿恵子も楽しんで聞いています。
その時、万太郎はすごいことを思いつきました。慌ててしまって、上手く言葉にできません。万太郎は寿恵子に近づき手を取ると「見つけた」と伝えました。
「寿恵子さん、わしはまだ名前もつけられちゃあせん草花の名前を明かして名付け親になりたい、そう思っちょりました。けんど、それじゃあ足らん。こうしてバイカオウレンの絵と文があったら、この花を見たことない人にも知ってもらえます」
万太郎は日本国中の草花を全部明らかにして、名付け親になって、絵と文を付け植物図鑑を作りたいと思ったのです。
万太郎は、自分のライフワークにしようと心に決めました。あまりの嬉しさに、寿恵子にお礼を言うとすぐに帰ってしまいました。
取り残された寿恵子は、万太郎が置いて行ったノートを見ます。そこには上手に描いている草花と、上手とは言えない竹雄の絵がありました。
「あ、どうしよう。馬琴先生だ」
尊敬する馬琴の姿を万太郎に見ていたのでした。
みんなの夢
万太郎は藤丸と波多野、そして長屋の丈之助を連れて、牛鍋屋に来ていました。
「牧野さんすごい働きですよ。僕たちも槙野さんのおかげで変われましたし。これから僕たちは日本の植物学を始めて行くんだと」
波多野は万太郎からの影響があったことを認めました。それを聞いた丈之助は、「俺たちこそが最初の一人」なんだと熱弁します。
丈之助は文学部です。小説を改革しようと思っていました。
「落第したのもそのせいで。欧米の文学は日本の勧善懲悪ではなく、もっと先に進んでいる。この生身の人間を論ぜよ。だが今の日本はこれだ。ござそうろう、これで心の内が語れるか!」
熱く語る丈之助。波多野も自分の夢を語ります。
「キノコについて研究したくて。菌類全般、カビと細菌の違いとか」
そして藤丸も続けて語ります。
「僕はもっと見えないものをやりたくて。例えば変わり種の朝顔が流行ったことがあったでしょ。あれはかけ合わせで作るんですけど、思い通りのものを作れるのではないかと」
そして万太郎は、日本中の植物を明らかにして、雑誌を出したいと言うのです。その雑誌があれば、それぞれの研究成果を発表することができます。そして、新種も発表する場にもなります。
しかし、問題もあります。植物学教室の標本を使うのであれば、田辺教授の許可が必要です。万太郎は、どう話しを持って行くか悩むのでした。
ライバル
その頃田辺教授は、ピアノの演奏を聞きながらお茶を飲んでいました。参加していたのは、管弦楽協会理事・名須川正宗、政府高官・佐伯遼太郎、実業家・高藤雅修です。
「文明の新しい時代には、新しい音楽が必要なのですよ。鹿鳴館の演奏ですが、陸海軍の音楽隊で固定するのではなく、雅楽警護の麗人も入れて編成するのがいいのだと思います」
田辺教授はそう言って同意を求めました。
音楽だけでなく、鹿鳴館でダンスを踊る女性の訓練の方が大変だという意見がでました。
「舞踏会ろやったからと言って、西洋諸国に追いつけるとは思わない」
そう発言したのは、実業界の高藤です。
その時、部屋に呼び入れられた人物がいました。それは、お菓子を持って運んできた寿恵子です。高藤は、寿恵子の姿を見て、一目惚れしたようです。
「女将から舞踏練習会のことは聞いていますか?」
そう聞かれた寿恵子は、明るく答えます。
「うかがいました。そして、西洋の音楽がたいそう美しいものだと。あ、わたしはこれで。失礼します」
帰って行く寿恵子の姿をいつまでも見つめる高藤の姿がありました。
幸運を連れてきてくれた
万太郎が植物学教室で植物の絵を描いていると、波多野と藤丸が四つ葉のクローバーを持ってきました。
シロツメクサの葉は三つ葉ですが、その中で四つ葉を見つけて大騒ぎです。そこに田辺教授がやってきて、みんなは静かになってしまいます。田辺教授は、机の上に置かれた不完全な標本を見つけました。
「これは?不完全な標本はこの教室に必要ない」
それを聞いて、万太郎は反論します。
「美しいですき。花や果実は植物の盛りです。けんど、それだけが美しい訳じゃない。硬いくて小さい種から芽吹いて、伸びてどんどん変わっていく。どういてそうなるがか。植物はいつでも不思議で美しいですき。未検定の箱に発芽の頃の標本もありましたき、おかげで植物の一生を見渡せました」
万太郎は1枚の絵に植物の一生を描いていました。田辺教授は万太郎に絵をくれないかと聞きます。万太郎は「もちろん」と言って、田辺教授に渡しました。
そして、田辺教授はシロツメクサを見つけます。波多野たちが珍しいと思っていましたが、田辺教授は珍しいものではないと説明しました。
「外国では幸運のシンボルとされていた。四つ葉はクロス、十字架に通じる。四葉は神が幸運をもたらしてくれる証だ」
それを聞いて、万太郎は「えいことがあるとええですの」と嬉しそうです。その後、田辺教授が自分の部屋に戻ると、意味深長な独り言を呟きました。
「確かに、神は私に幸運を連れてきてくれた」
最後に
東京大学の生活は、ゆっくりとですが溶け込んでいるようです。和装だった竹雄は「体半分が足」と表現された洋服姿も凛々しかったです。
そして、寿恵子との距離も、だいぶ縮まった気がします。しかし、実業家・高藤と寿恵子との関係がどうなか心配です。
来週は恋の行方と植物雑誌の話でしょうか?
あと、佐川の峰屋の話は第8週では出てきませんでしたが、来週は出てくるのでしょうか?
来週も楽しみです。