ノアザミ らんまん(10) ネタバレ

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ノアザミ は第10週のサブタイトルです。

万太郎と寿恵子の関係が近づいたかと思われましたが、万太郎は植物学のために距離を取ろうとしています。

そんな中、寿恵子は鹿鳴館で踊るために舞踏の練習会に参加し、財界の大物・高藤に好意を寄せられています。万太郎の恋のライバルです。

先週の最後には、石板印刷(リトグラフ)に挑戦しようと、印刷所を訪れていた万太郎。研究と雑誌と恋の行方、それぞれ気になります。

そんな第10週のまとめです。

第9週「ヒルムシロ」のまとめ。

らんまん 公式HP

主な登場人物

槙野万太郎  神木隆之介    植物が大好きな語学の天才。
西村寿恵子すえこ  浜辺美波     白梅堂の娘。
井上竹雄   志尊淳      番頭の息子。東京での万太郎の相棒

波多野泰久  前原滉      東京大学植物学教室・2年生
藤丸次郎   前原瑞樹     東京大学植物学教室・2年生
高藤雅修   伊礼彼方     薩摩出身の実業家。恋のライバル
大畑義平   奥田瑛二     印刷所の親方。元火消し
大畑イチ   鶴田真由     義平の妻。
岩下定春   河合克夫     画工・絵師
前田孝二郎  阿部亮平     職人
宮本晋平   山根和馬     職人・万太郎の教育係

西村まつ   牧瀬里穂     寿恵子の母。白梅堂店主
阿部文太   池内万作     白梅堂の菓子職人
広瀬佑一郎  中村蒼      名教館の同級生。工務省の役人
笠崎みえ   宮澤エマ     寿恵子の叔母。新橋の料理屋のおかみ
野宮朔太郎  亀田佳明     植物学教室に出入りする画工

第10週のストーリー

万太郎の依頼

万太郎は、大畑印刷所へ行きました。

「こんにちは、石版印刷ゆがを見とうてやってきました」

工場主・大畑義平が対応してくれました。奥で話しを聞くという義平ですが、万太郎は印刷の方法が気になって仕方がありません。

明治の代は印刷物が大量に出回り、活版印刷が急速に広まりました。さらに、図版描写に優れた画期的な印刷技術として石版印刷が大きな話題となっていました。

万太郎は印刷したものと、元の写真を見せてもらい比較します。しかし、納得する出来ではありませんでした。

「拝見いたしました。石版印刷が絵を刷るのにおうちゅうこと、そして画工の方が素晴らしいことよおわかりました。木版印刷ではこうはいきません。けんど、こちらの画工にお任せすることはできません」

万太郎は褒めておいて、奈落の底まで落としました。それを聞いた義平は、怒り出します。

「お客さん、なんかトゲのある言い方なさいますね。どんな依頼かもまだおっしゃらねえうちに、もううちの画工には腕がないってそうおっしゃるんですかい」

万太郎は、大畑印刷所の画工では「図案を写すことに限界がある」ということが言いたかったのです。

そして万太郎は、自分で石版に絵を描き、自分で印刷できるようになるために働かせて欲しいと頼むのでした。

金を払って働く

急にそんなことを言われても、義平は納得できません。

「いやいや、なんだか馬鹿なことが聞こえてきましたがな。じゃあアレかい、うちの画工はダメだから、てめえが自分でやるっていうのかい」

万太郎がはいと返事をすると「なんだと舐めやがって、こんちくしょう」と今にも殴りかかりそうになります。それを止める義平の妻・イチ。

「失礼しました。御一新前は火消しだったもんで、血の気が多くて。ですが、そちら様もそちら様です。そう簡単にできないから商売が成り立ってるです」

イチに言われて、万太郎は見習いからやると言います。しかし、大畑印刷所の職人たちは、住み込みで働いています。

「住み込みは無理ですき。わしは日中、大学で研究しちょります。ほんじゃき、夕方の6時から夜中まで通わせてもらえんでしょうか?大事な技術を教えてもらうがですき、わしは大畑さんに教授料をお支払します」

義平は、金を払って働かせてもらいたいという万太郎のことが、不思議でなりませんでした。

しかし、万太郎は真剣でした。

寿恵子に決めさせる

寿恵子が舞踏の練習から帰ってくると、おっかさんに「万太郎はしばらく来ない」と聞かされました。

「しばらくってどのくらい?なんでちゃんと聞かないの?おっかさん、牧野さんがどの辺に住んでるか聞いた?」

しかし、おっかさんは聞くはずがありません。おっかさんは寿恵子に万太郎との関係を聞きます。

「なんの関わりもないよ。いつもいきなり飛び込んできて、すぐに出て行ってしまう。前ばっかり見てる。わたしあの人のことそれしか知らない。ただ、カルヤキを食べさせてあげたい」

そんな話をしていると、叔母・みえがやってきました。

「お寿恵ちゃん、あんたやるじゃないの。政府の方から聞いたわよ。高藤様の音楽会にも同席したんですって?ちょっと噂になってるみたいよ」

不機嫌な顔になるおっかさん。寿恵子はダンスを習いに行ったついでに音楽会に参加しただけでした。

「やる気出して、お寿恵。高藤様に他に妾はいない。高藤様に見染められれば、私も姉さんも高藤家と繋がりができるんだから」

実業家とのパイプを作りたい料理屋の女将・みえ。しかし、おっかさんは妾にするつもりはありません。寿恵子に相手は決めさせると、みえに釘を刺しました。寿恵子は雲行きが怪しくなったと感じて、部屋に行ってしまいます。

部屋で寿恵子は、万太郎が置いていった花の絵を眺めています。

「なんで来ないなんていうの。。。」

仕事の洗礼

義平は職人たちを呼んで話しをします。工場にいるのは、職人2人と画工1人です。

「おいみんな、集まってくれ。今日からうちで働くことになった、見習の槙野だ」

そう紹介された万太郎は、丁寧に自己紹介しました。

「牧野は昼間、大学に通っている。大学が終わった後、夜からうちで働く。よろしく教えてやってくれ。宮本、お前面倒見ろ」

万太郎の教育係は宮本が指名されました。しかし、宮本は押し付けられて嫌がっています。

「俺忙しいんですよ。早く印刷機回したいんですよ」

それでも義平は許しませんでした。

そんな万太郎は、仕事は掃除からです。

「とりあえず、中の掃除。邪魔すんなよ。洗えって言われた物は洗え。水はあそこ。紙は使うから準備しておけ。お前、国ではどこで働いてた?」

万太郎がちゃんと働くのは、この印刷所が初めてです。そして、奉公はしたことあるかと聞かれますが、峰屋に奉公に来る人はいても万太郎が奉公に出ることはありませんでした。

万太郎の家が大店だと知った宮本は、働く理由を聞きます。

「楽しそうですき。石版印刷は自分で描いて、描いたまんま刷れるんが、そんな楽しいことはありません」

万太郎はどうしても浮世離れしています。みんなは生活のために働いているのに「楽しそう」と言われてしまいました。

「研磨のための砂ハコベ。こっち」

そう言って万太郎を倉庫に連れて行くと、宮本は棚の上から砂を落として万太郎にかけたのでした。

この家を出ようかのう

夜、万太郎が長屋に帰ってくると、井戸で頭から水をかぶります。それを見た竹雄は、必死になって止めます。竹雄が引っ張って家に連れて行き、布団に寝かせます。

「若は子供の頃、肺の腑が悪かったんですよ。こんな砂まみれになる仕事ら絶対に許せませんき。何が悲しゅうて峰屋のご当主が他所の見習いから働かないかんがですか」

竹雄の怒りは理解できます。竹雄は、画工が気に入られれば、他の人に頼めばいいといいます。そして、他の人がダメなら自分が学ぶと言い出すのでした。

「いや、それは無理じゃ。おまんにも、誰にもできんことじゃ。竹雄、わしやりちゅうがじゃ。誰が一人が前に進んだ分、植物学も前に進む。せっかくこんなおもしろい時に居合わせたがじゃ。じっとしちゃおれんじゃろう。わし、前に進みたい。頼む」

そう言って頭を下げる万太郎。竹雄は峰屋のおばあちゃんや綾に万太郎を託されてきました。ついに泣き出して止める竹雄を見て、万太郎はつぶやきました。

「わし、この家を出ようかのう。大畑印刷所のみんなは、住み込みで働きゆう。わしもそうしようかのう」

竹雄は許しません。しかし、万太郎は一緒にいれば竹雄に心配かけてしまうからそう言ったです。

「若は卑怯です」

万太郎が出て行くことを突きつけて働くことを了承させようとしていることに、卑怯という言葉で非難しました。

万太郎は部屋を出て、隣の部屋で研究を始めました。

振り向いてくれるのか

朝、寿恵子は舞踊の稽古のために化粧しています。そろそろ高藤のお迎えが来る時間です。

寿恵子は、部屋から里見八犬伝の本を持って、おっかさんの前にやってきました。

「おっかさん、私がいない間に牧野さんがいらっしゃったら・・・」

そこまで言うと、おっかさんは「しばらくいらっしゃらないって」と反論します。

「もしいらしたら、渡して欲しいの。私が好きな本ですって」

その里見八犬伝は、寿恵子の父からもらった本です。布団の中でも読むほど、寿恵子は大好きでした。その里見八犬伝を万太郎にも読んで欲しいと思っています。

「あの人、良さそうな人だけど、前ばかり向いてるんだろう?立ち止まって、あんたを振り向いて、一緒に読んでくれるかね」

おっかさんの言うことを否定することができません。

「わかんないよ。なんで来られないのか聞きたい。何をしてるのか教えて欲しい。けど、足を引っ張るのもやなの」

寿恵子の言葉を聞いて、おっかさんは寿恵子が本気で万太郎のことが好きなんだと悟りました。

その時、高藤の迎えがやってきました。

寿恵子はおっかさんに、万太郎が来たら渡すように頼んで、出かけていきました。

佐川に帰ろうと思います

万太郎は、結局研究をしたまま机で寝落していました。竹雄に起こされます。

万太郎は、大学に行く前に植物採取に行こうと思っていました。すぐに準備をしようとしますが、竹雄に止められます。

「若はこれから昼は大学、夜は印刷所に行くがでしょ。食事をご一緒できるがは朝しかありません。ほんじゃき、朝飯はわしの目の前でちゃんと食べて下さい」

そう言われて、仕方なく顔を洗ってくる万太郎。準備された食事は、美味しそうなオムレツでした。

万太郎が美味しいと言って食べている時、竹雄が話があると言い出します。

「一晩考えました。わし、佐川に帰ろうと思います」

それを聞いて、驚く万太郎。しかし、ダメという理由もありません。

「あ・・・そうか。そうじゃのう。姉ちゃんもおるき、峰屋もある。わしもこんなんじゃしのう。帰った方がええ・・・」

しかし、万太郎の言葉を遮って、竹雄が否定しました。

「嘘ですき。若が住み込みで働くゆうたき、お返しです。わしの気持ちがわかりましたか?」

びっくりした万太郎は、嘘だと聞いて安心しました。

「若が前に進みたいがはわかります。けんど、張りつめちょったら、早う走ることらはできません。健やかに楽しゅう笑いゆう方が、よっぽど早う遠くまで行ける」

竹雄は万太郎に元気で笑っていて欲しいと言うのでした。万太郎は素直に「約束する」と言うことができました。

石灰石

夕方、出勤してきた万太郎は、いつもの洋装ではなく、奉公人のような前掛けをしていました。

万太郎が洗い物をしていると、隣で石版印刷の石を洗っています。石板に書いた絵は、刷ってしまえばもう必要ありません。石板を研いで平らにしたら、他の絵を描いてまた刷るのです。

万太郎が良しについて説明すると、前田が教えてくれました。

「石灰石って石だ。けど、日本の石じゃねえんだぞ。石版印刷に使う石は、目の細けえ石じゃなきゃならねえ。ドイツのバイエルンってところから取り寄せた石だ。鳥の化石?そんなんが採れた採石場の石」

それを聞いて、万太郎に思い当たることがありました。

「アーケオプテリクス・リトグラフィカ(始祖鳥)。バイエルンのゾルンホーフェンの石灰石ですか」

万太郎の博識に驚く前田。前田は万太郎に研ぎ方を教えてくれました。

「最初は目の粗い砂から、徐々に細けえ砂に変えながら削ってるんだ。砂を変えるたびにちゃんと洗い流す。一粒でも砂が残ってると盤面に傷ができて、最初っからやり直しだ」

そう言って綺麗に研ぐと、水平器を使って平になっていることを確認します。

綺麗に研ぎ上がった石板を見て、万太郎がつい触ってしまいました。それを見て怒り出す前田。指の油がつくと、もう一度研ぎ直さなければなりません。万太郎は謝るしかありませんでした。

人生のパートナー

寿恵子は舞踊の練習をしています。クララ先生は英語で優しく教えてくれます。

しかし、なかなか上手く踊ることができない寿恵子。クララは腕立て伏せの体勢で、体幹を鍛えるように寿恵子に言うのでした。

そんな優しくも厳しい練習のあと、高藤に呼ばれました。

「9月の頭に舞踏練習会の発足式を行いたいと思っちょりまして。その式場で寿恵子さんにダンスを披露していただきたいのです」

高藤はそう言いますが、まだ寿恵子は綺麗に立つのもやっとなぐらいです。あと1か月では、踊れるか不安です。しかし、高藤がクララから聞いた感じでは、間に合うというのです。

そして、高藤は話しは他にもあると切り出しました。

「寿恵子さん、横浜に小さな屋敷があります。西洋人の建築家に頼んだ美しい屋敷で、庭もあります。その屋敷にすみませんか?あなたを人生のパートナーとして迎えたい」

そう言うと、寿恵子の手を取って手にキスをしたのです。驚く寿恵子。高藤に妻がいると言うのが精いっぱいです。

「やえは妻です、だがそれだけじゃ。親が決めた話です。元より恋心を抱いたことはなか。それはやえも承知している。驚かせてすまん。じっくり考えてくれ。舞踏練習会の発足式が終わったら返事を聞かせて欲しい」

寿恵子は「はい」と答えるしかありませんでした。

書く意思

万太郎が印刷所に通い始めて、3週間が経ちました。昼は大学で研究し、夜は印刷所に通う暮らしが馴染むうち、夏が咲き始めていました。

「ノアザミ、おまんも空を見上げちゅうのう。夏咲きのおまんは上を向いて花を咲かせちゅうがやけんど、秋に咲くおまんの仲間らは下を向いて咲いちゅうがが多いのう。どういてじゃ。こんなにかわいい花じゃけんど、おまんの棘は痛いのう」

万太郎は道端の草花に声を掛けながら大学へ向かいます。

この時期、先輩たちは試験勉強で必死です。万太郎たちは学会誌を作ろうとしていますが、先輩たちにも論文を書いてもらわないといけません。

「まあ、書くがは試験が終わってからでもえい。けんど、書く意思は決めてもらう」

そう言うと万太郎は、波多野と藤丸と一緒に先輩たちの周りで、学会誌の話しを聞こえるように話します。そんなことをしていると「芝居が臭い」と怒られてしまいました。

先輩たちは、学会誌を作ってもどれだけの価値があるのか、半信半疑です。万太郎に詰め寄りますが、万太郎は作った学会誌を英訳を付けてマキシモビッチ博士に送るというのです。

「思い描くことができたら、あとは実現するだけです。道が見えちゅうなら歩けばえい。わしはそのために毎晩修行しております」

自分の機嫌は自分で取る

寿恵子は部屋で、だらしない恰好で寝ていました。下の階からおっかさんの声が聞こえますが、寿恵子は生返事するだけでした。

寿恵子はただだらしない恰好で寝ていた訳ではありません。舞踊の練習がキツくて、ふくらはぎが張り、腕も上がらない状態なのです。それを見ておっかさんは「誰にも見せられない」と怒ります。

「どうせ来ないよ。3週間も経ってるのに。私、牧野さんに嫌われたんだと思う。最後に会った時・・・牧野さん、私のことふしだらだって思ったんだと思う」

寿恵子が言う最後に会った時は、高藤にお姫様抱っこされた時です。

事情をしらないおっかさんは、何をしたのかと問い詰めます。しかし、寿恵子は説明することはしませんでした。

寿恵子におっかさんは、話しをしてくれました。

「おっかさんはね、旦那様に尽くしきったこと、後悔はしてないよ。旦那様からは申し分のない別宅を授かったし。奥様からも生き届いたご配慮をいただいて、なによりあんたを授かってね。妾冥利に尽きるって思ってる」

あとは幸せだけ数えて、のんきに生きていればいいと言うのです。そうしないと、妾という立場がみじめで、溜まらなくなってしまうからです。

「いいかい、おっかさんが奥の手を教えてあげる。男の人のためにあんたがいるんじゃないの。あんたはあんた自身のためにここにいるの。だからいつだって、自分の機嫌は自分でとること」

寿恵子は少し晴れた気持ちになりました。

目次と目撃

万太郎が先輩たちと話したことで、学会誌は少し前進しました。上級生も論文を書くということになり、目次だけ作りました。

  • 日本産ひるむしろ属
  • 苔蘇発生實撥記
  • 白花ノみそがはそうト猫ノ関係
  • すっぽんたけノ生長
  • まめづたらん
  • 花ト蝶トノ関係
  • 採植物於駒岳記

先輩たちは試験後に論文を書いてもらうのですが、万太郎と波多野、藤丸は論文の期限を早めることにしました。万太郎は波多野と藤丸に「期限は来週」と言います。

「ここに鬼がいるぞ!」

浮かれている3人。万太郎を「期限の鬼」にして、3人でワチャワチャ騒いでいました。

そこに大学職員から案内されてやってきた人がいました。それは、寿恵子でした。

植物学教室に入る前にワチャワチャ騒いでいる万太郎を見つけます。職員が万太郎たちに声をかけようとした時、寿恵子は断って帰ってしまいました。

それから寿恵子は家に帰ると、おっかさんに話します。

「おっかさん、私止める。牧野さん、待つのやめる。おっかさんの言う通りだった。牧野さん、私と会わなくても平気だった」

寿恵子はそれだけいうと、店の中に入って行くのでした。

猫の絵

万太郎の印刷所での仕事も、だいぶ手早くなりました。

紙の補充や刷毛の手入れも、言われる前にできていました。

「手早くなったじゃねえか、器用なやつは気持ちがいい。うちでずっと働けよ」

義平にそう言われる万太郎。万太郎は嬉しそうに答えます。

「大将、ありがとうございます。遠慮します。あはは」

そんな万太郎は、刷り終わった石板を指でいつもなぞっていました。

「いつも撫でるな」

そう聞かれた万太郎は、印刷が終わった石板でないと岩下の筆あとに触れられないからだと答えました。

「あたしもそうだった。師匠や兄弟子の版木をよう撫でとった。国芳一門は、出せば飛ぶように売れとったからな。版元も彫り師をたくさん抱えてたよ。わたしはただそのうちの一人だったが、猫は褒められたな」

歌川国芳は「猫飼好五十三疋みゃうかいこうごじゅうさんびき」という東海道五十三次をもじった浮世絵を書いていた人です。その大事な猫の絵を褒められたと岩下は言うのです。

「見てみるか新入り。他の仕事が済んでるなら」

そう言うと、岩下はどう描いているのか見せてくれると言うのでした。

リトグラフ

岩下は、筆で石版に猫の絵を描いて見せてくれました。

「本当は絵を描いてから一晩寝かせるんだが、試し刷りだぞ。おい、教えてやってくれ」

そう言うと、絵を描く所だけでなく、印刷も教えてくれました。

「石版印刷ってのは、石を彫ってる訳じゃねえんだ。水と油が反発する性質を利用している。岩さんが書いたこの墨、油を混ぜてある。だから、この線には油分がある。次にアラビアゴムを塗る。樹脂を水で溶かしたものだ。アラビアゴムを塗ると石は水を保ちやすい性質に変わる。でも、この線には油分があるから弾かれてゴムは付かない」

そう言いながら、職人が実際にやって見せてくれます。

「で、今度は違う油を一定に塗ってやる。石を水で濡らす。ここにインキを塗ると、インキの油と水が反発して、この線にだけインキが乗るんだ」

そうやって刷られた猫は、岩下が描いたそのままが印刷されていました。

「おやっさんから聞いた、お前自分で金を払って石版印刷を聞きに来てるんだってな。どうして?」

万太郎は「自分の絵を印刷して本を作りたい」と話しました。

それを聞いた岩下は、万太郎がやろうとしていることは、自分達の仕事を取るということだと言うのです。そして、岩下自身が、かつての浮世絵師の仕事を取っていることを自覚していました。

そして岩下は、万太郎に書いてみるかと言うのでした。

本物を伝えるための手立て

万太郎は、石版に絵を描かせてもらう。

「岩下さん、さっきの話しなんですが・・・」

そう言うと、万太郎は仕事を取ってしまうことへの自分の解釈を話し出しました。

「彫り師や刷り師、かつて腕を競うた技を誇った方らが、その場所から散って行ったとしても。それは消えて行った訳じゃない。新たな場所に根付いて、そして芽吹いて行くがじゃと思います。磨き抜かれたものは決してのうならん。新しい場所に合うた形で変化し、もっと強くなって生き抜いて行く。それが生きちゅう者らの理ですき」

その言葉を義平が聞いていました。

「その通りだ万さん。火事と喧嘩は江戸の華。俺はずっと命がけの火消しこそが最上だと思っていたが、もうそんな世は過ぎちまった。俺だってみみっちく商売替えするんだったら、いっそ江戸の世と心中しちまった方がいいと思った」

しかし、義平は新しい道を進み印刷所を作りました。それは、この時代の最先端です。新たな場所に根付いたのです。

そして、万太郎の描いた絵を刷ってみます。

「ああ、刷れた。わしにも刷れた。へたくそじゃのう。線もヨレちゅうし、影も上手うできん。下手くそじゃ」

万太郎はそう言いますが、初めてにしては上出来のものでした。万太郎が描いた絵はヒルムシロ。職人の前田は「ヒルゴ」と呼んでいました。

義平は万太郎の刷った絵をよく見ます。

「これは実際を見て、本物を知ってる者にしか描けねえ絵だな」

今更

寿恵子は、高藤を舞踊の相手に踊っていました。高藤は寿恵子の上達に嬉しそうです。

「あなたは変わった。私の目を見るようになった」

高藤に褒められ、寿恵子は嬉しそうでした。

そんな練習の終わり、高藤の妻とすれ違いました。寿恵子はつい話しかけてしまいます。

「あの・・・奥様はダンスは踊られないのでしょうか?高藤様と踊るのなら、私よりも奥様の方が」

そう聞くと、高藤の妻は「・・・今更」とだけ言って去ってしまいました。

練習からの帰り道、高藤が手配した馬車は道行く人々をどかせながら走ります。

「もう少しゆっくり走られませんか?」

寿恵子がそう言っても、高藤の秘書は「十分にゆっくり走ってる」と言うだけです。

その時、馬車の前を横切る人がいました。その人のために馬車が止まります。それは、万太郎でした。

万太郎はいつものように道端に咲くノアザミに話しかけていました。馬車の窓から寿恵子が万太郎を見ます。

「全く。いくら鹿鳴館ができても、みすぼらしい連中が目につけば、この国の恥ですよ」

秘書は行く手を阻んだ万太郎に悪態をつきます。その言葉に寿恵子が反発しました。

「あの方はみすぼらしくありません」

万太郎は、寿恵子が乗った馬車だとは知らず。通り過ぎてしまいました。

「腹が減ったのう。早う白梅堂に行きたい」

最後に

ちょっとしたすれ違いが大きな溝にならないといいのですが。

万太郎は学会誌を発行するために石版印刷を習得中です。しかし、寿恵子にしてみれば、万太郎は楽しくやっているように見えるのです。上手く行ったら会いに行こうと思っていることなど、寿恵子は知りません。

そして、おっかさんも驚いていたように、寿恵子の心の中には万太郎が大きな存在としていました。しかし、寿恵子は自覚していないようです。

来週は、発表会があるはず。そして、高藤に返事をしないといけません。万太郎は間に合うのか?

来週も楽しみです。