ユウガオ は第11週のサブタイトルです。
寿恵子を迎えにいくために、万太郎は植物雑誌(学会誌)の発行に向かって突き進んでいます。
昼は大学で勉強し、夜は印刷所で石版印刷を勉強しています。
そんな中、寿恵子は鹿鳴館で披露するためにダンスを習っています。そんな寿恵子に近づく実業家・高藤。万太郎のいない間に二人の距離が縮まっていくようです。
そんな第11週のまとめです。
前回、第10週「ノアザミ」のまとめ。
主な登場人物
槙野万太郎 神木隆之介 植物が大好きな語学の天才。
西村寿恵子 浜辺美波 白梅堂の娘。
井上竹雄 志尊淳 番頭の息子。東京での万太郎の相棒
波多野泰久 前原滉 東京大学植物学教室・2年生
藤丸次郎 前原瑞樹 東京大学植物学教室・2年生
高藤雅修 伊礼彼方 薩摩出身の実業家。恋のライバル
大畑義平 奥田瑛二 印刷所の親方。元火消し
大畑イチ 鶴田真由 義平の妻。
岩下定春 河合克夫 印刷所の画工・絵師
大畑佳代 田村芽実 義平の娘
前田孝二郎 阿部亮平 印刷所の職人
宮本晋平 山根和馬 印刷所の職人
徳永政市 田中哲司 東京大学植物学教室・助教授
大窪昭三郎 今野浩喜 東京大学植物学教室・講師
堀井丈之助 山脇辰哉 十徳長屋・東大の落第生
西村まつ 牧瀬里穂 寿恵子の母。白梅堂店主
阿部文太 池内万作 白梅堂の菓子職人
第11週のストーリー
寿恵子、養女に
竹雄が働く洋食屋に寿恵子がやってきました。寿恵子は、高藤に呼び出されてドレスを着ています。寿恵子は、洋食屋に来るのは初めてでした。
待っていた高藤は、一緒にいる男性を寿恵子に紹介しました。
「こちら白川さんは、父の上役だった方です」
元老院議官・白川永憲。高藤と同じ薩摩出身らしく、言葉は薩摩訛りです。
「雅修くんのことは、ごげなちっちゃい頃から知っちょる。あなたに言えん秘密も知っちょるぞ」
そう言われ、高藤は苦笑します。寿恵子が洋食を食べたことがないと知ると、高藤にもっと食べさせるように言うのでした。そして、ダンスを習っている寿恵子に英語ができるのかと聞きます。
「いいえ。ですが、おっしゃってることはなんとなくわかる気がします」
それを聞いた白川は、寿恵子は外国人にも物おじしないことを気に入ります。
「喜んであなたを養女にしたか」
寿恵子にとって初耳です。高藤は寿恵子を迎えるにあたり、まず白川の養女にするつもりでした。根岸の菓子屋の娘だと知られれば、周りになんと言われるかわからないという高藤なりの考えです。
攫さらってしまいたか
「雅修くんから根津の菓子屋の娘と聞いた時は、戯れが過ぎるじゃろうと思ったが、聞けばあなたはあの柳橋にでちょったキチヤの娘だと聞いたち、あなたを養女にしたら羨ましがられそうじゃ」
寿恵子の母・まつは、柳橋の人気芸者でした。その人気芸者の娘を養女にすることは、白川にとってもステータスになるようなことだと言うのです。
しかし、寿恵子はまだ返事をした訳ではありません。白川に本音で話していいと言われても、何も言うことができませんでした。
「私の方こそ、本音を隠すっと必死です。本当は今すぐ攫ってしまいたか。じゃっどん、発足式が終わるまでお預けです」
高藤は白川にゲスい表現で、自分の気持ちを話しました。
寿恵子は、どうしても高藤の妻のことが気になります。同じ女として、邪険に扱われているように感じるのでした。
「そげなこと、後継者たる男児が生めんなら離縁するのはようあることじゃ。今後、そげんなったとして、誰も異を唱えることはないじゃろう。あなたっこそ芸者の娘。そこはようわかってるはずじゃ」
時代はまだ明治。女性は子供を産むために嫁ぎ、産めなければ離縁される時代です。寿恵子の顔は、どんどん曇っていきます。
「雅修くん、寿恵子さんが娘になるなら、おいも自慢したか」
寿恵子の気持ちを知らず、白川はそんな冗談を言い、高藤と笑いあっています。
その一部始終を、ボーイとして働く竹雄は聞いていました。
自分で自分を認める
万太郎が初めて、石板印刷の試し刷りをしてから2週間。暦は8月です。
道端に咲くヒルガオに万太郎は、いつものように話しかけ大畑印刷所へ出勤します。
万太郎は石版印刷に打ち込み、学会誌創刊のため日々試行錯誤を繰り返していました。できる限りの速度で寿恵子を迎えに行くために。
今日も、仕事が終わった後、岩下に頼んで印刷の練習をさせてもらう万太郎。そこに仕事終わりの竹雄が、印刷所までやってきました。
「大変ながです。寿恵子さんが高藤様という方から妾の誘いを受けちょります」
驚く万太郎。竹雄は聞いた話を万太郎に話して聞かせます。
「妾じゃないかも知れん。まず元老院の・・・なんとかいう家の養女にして、妻にする気ですき。今の奥様には男児がおらんらしく、離縁するだの・・・」
竹雄は焦っていました。万太郎が寿恵子を好きなことはわかっています。しかし、実業家に口説かれ、寿恵子が万太郎から離れて行ってしまうかもしれません。それでも、万太郎は冷静です。
「今のわしは寿恵子さんの元へは行けん。今のわしはただの牧野万太郎じゃ。なんちゃあ持っちゃあせん。ただ草花が好きなだけの男じゃ。あの人が欲しいなんて、どういて言える?」
しかし、それでは手遅れになります。竹雄は「植物学者」は、ただ名乗るだけでできると万太郎を説得します。それでも万太郎は、名乗る為には自分が自分を認めないといけないと言うのでした。
あと少し
万太郎は竹雄の目の前で、石版印刷で刷って見せます。そして、刷った物を竹雄に見せました。
「ここまできた。あとちっと、あとちっとで証ができる。この国の植物学にわしが最初の一歩を刻むがじゃ」
その時、夜食を食べていた義平を呼びに来ました。万太郎と一緒に知らない男がいることにビックリします。
万太郎は竹雄を紹介すると、竹雄は「万太郎がお世話になっちょります」と丁寧に挨拶しました。
「助かってるのはこっちだ。熱心で器用で働きもんで、しかもお金・・・」
義平は万太郎がお金を払って石版印刷を勉強していることを竹雄に言えませんでした。
「大将、お話があります。やっとまともな1枚が刷れるようになりました。ほんじゃき・・・」
万太郎が最後まで言う前に義平は「辞めるのか」と問いただします。奥から妻・イチもやってきて、義平が万太郎が辞めると言うので反対します。義平とイチの言葉に職人たちも顔を出して止めまました。
「違います、聞いて下さい。聞いて下さい!仕事を注文致します。植物学会の会報誌、その図版をこちらでこちらで刷らせてもらえませんか?」
イチは「置き土産かい」と言って怪しみます。しかし、万太郎が違うとはっきり言うと、イチが仕事を受けてくれることになりました。
そんなやりとりを竹雄は黙って見ていました。少し寂しそうな、嬉しそうな顔でした。
検定完了
万太郎は、昼は東京大学の植物学教室で、植物の検定作業をしていました。そして今日、ついに全ての検定が終わったのです。
植物学教室の2年生・波多野と藤丸も一緒に喜んでくれます。万太郎が東京に出てきてから、4カ月かかりました。万太郎は東京大学にある物だけでなく、土佐から持って来たものも検定していたのです。
その結果、名前のわからないものがたくさんありました。標本には番号が振ってあり、東京大学の標本で名前がわからない物は103点。万太郎の持って来た標本では52点ありました。
万太郎は、その結果を田辺教授に報告に行きます。田辺教授の部屋には徳永助教授がいました。
「ご報告いたします。先ほど、未分類の植物標本の検定作業が全て終わりました」
徳永助教授は、いい加減にやっていないかと万太郎を怪しみます。
「で、ロシアに送る標本は何点あるんだ?」
田辺教授は信用しているのか、端的に質問しました。万太郎は103点あったことを伝え、お願いがあると伝えます。
「わしが土佐からから持って来た標本で学名がわからんものが52点ありました。その52点も一緒に送っていただけないでしょうか?」
徳永助教授は「図々しいにも程がある」と怒ります。田辺教授の口利きで、自分の標本も確かめようというのが、図々しいと言うのです。しかし、万太郎は怯みません。万太郎の標本を送ることは、田辺教授のためにもなると言うのです。
田辺教授の狙い
万太郎に田辺教授がどう考えているかと聞きます。
「田辺教授ならわしの標本も一緒に送って下さいます」
それを聞いて、田辺教授は「イグザクトリー(その通り)」と答えました。そして、ロシアのマキシモビッチ博士に送る手紙と、一緒に送る資料を万太郎にまとめるように依頼しました。
徳永助教授は特別扱いしているように見え、一緒に送ることを反対します。しかし万太郎は、田辺教授に利があることだと言い、それがたまたま万太郎にも利があっただけだと言うのでした。
万太郎は、学術誌も進めていることを報告して退出しました。退出すると、徳永助教授は学会誌についても田辺教授に「権威を失墜させるものだったらどうするつもりか」と諫言します。
しかし、田辺教授は万太郎が自主的に作ってくれるというのを受け入れただけです。
「水準に達していれば認める。が、そうでなければ、学会の名をかたって出されては困るから、一冊残らず燃やさせる。無論、金も出さない」
徳永助教授は、疑問を持ちました。石版印刷の技術を授業料を払って習得し、原稿集めや校正にも時間を掛けています。それを水準に達していなければ燃やすと言うのです。
田辺教授は万太郎に批判的でしたが、さすがに全てを負わせるわけにはいかないと思いました。しかし、それは先ほどまでと真逆の発想です。田辺教授に「矛盾の塊」だと言われてしまうのでした。
徳永助教授と万太郎
徳永助教授が田辺教授の部屋から退出すると、上級生たちが帰るところでした。上級生たちを呼び止め、学会誌の論文が書けたのかと尋ねます。
「いや、どうせ牧野と2年共が・・・」
書く気のない上級生たちに「いいから書け」と叱りつけました。そしてその時、庭に寝転ぶ万太郎の姿が見えました。徳永助教授は「何をしている」と声を掛けます。
万太郎は、ヒルガオとユウガオが一緒に咲いているのを見ていました。そんな万太郎の近くに徳永助教授がやってきて、しゃがみ込みます。
「なあ、問題。アサガオ、ヒルガオ、ユウガオ、ひとつだけ異なるのはどれだ」
突然の徳永の問題にびっくりする万太郎。それでも、すぐに答えました。
「ユウガオです。アサガオとヒルガオはナスの仲間ですけんど、ユウガオはウリの仲間です」
万太郎にとっては、簡単な問題でした。
「正解。だが私はユウガオが好きだ。源氏物語に出てくるからだ。私は日本文学が好きなのだ。貴様にはわからんだろうが」
そう言って立ち去ろうとする徳永助教授。万太郎は「私も好きですき」と言いました。しかし、徳永助教授には「お世辞」に聞こえました。
「朝顔は 朝露を負いて 咲くと言えど」
徳永がそう上の句を詠むと、
「夕影にこそ 咲きまさりけり」
と万太郎は下の句を詠みました。万葉集に収められてる歌です。徳永はびっくりしましたが、何も言わずに去っていくのでした。
寿恵子の気持ち
寿恵子はダンスの練習を終え、家に帰ってきました。
おっかさんは店を閉める準備をしていました。帰ってきた寿恵子を見て「疲れてるわね」と声をかけます。
「もうすぐ発足式だからね。ああ、足が痛い」
寿恵子はそう言うと、店の椅子に腰を掛けました。冷やした方がいいと、おっかさんは手拭いを取りに裏に行ってくれました。
その時、寿恵子の目に入ったのは、万太郎の描いたボタンの絵でした。
「ああ、今日ね文太さんが秋の練り切り作ってくれたの。あとで味見して」
おっかさんの言葉に「はい」と返事をしますが、目は万太郎の描いた絵を見ています。そして、飾った絵を全て外しました。
寿恵子は自分の部屋で、万太郎の絵を破ろうとします。しかし、破ることができませんでした。
「夏の最後の薔薇と歌っておりました。けんど、景色の歌じゃない。きっと本当の意味がありますき。愛するものを亡くして誰がたった一人、生きて行けようか」
「わしの一生かける仕事、植物学を経った今、見つけましたき。寿恵子さん、寿恵子さんのおかげじゃ」
万太郎の言ったことを思い出して涙ぐむ寿恵子でした。
人生をパンパンにできること
万太郎は家でも顕微鏡で見ています。そして、見たものを絵に描いています。
万太郎の部屋には、論文を書くために波多野と藤丸も来ていました。そして、なぜか丈之助もいます。
波多野たちが大声で話していても、万太郎は絵に集中しています。
「今は下書きなんですって。この下書きで構図を決めて、本番は石版に一発描きだそうです。すごい集中力ですよね。万さん絵を描く時は、自分と植物だけの世界に入っちゃうみたいで。僕は万さん見てたら怖くなっちゃって。あんな集中力をもってしたら、一生のうちにどれだけの仕事ができるんだろうって」
そう言うと波多野は、なぜ植物学教室に入ったかを語り出しました。英語が得意だったこと、文学は好きではなかったこと。そして、万太郎との違いを語ります。
「でも、万さん見てたら人生って、僕が思ってるよりずっと濃くて。たくさんの物が入る器なんだなって思って。その器をパンパンにしていくことが、生きるってことなのかなって」
波多野も藤丸も、そんな万太郎とは違って、スカスカだと感じています。そんな二人に丈之助は「そんなの、今から見つけたらいいじゃん」と言うのでした。そして丈之助は、シェイクスピアの残した37作品を全て翻訳する夢を持っていることを語りました。
丈之助の夢を聞いて、波多野と藤丸はやる気が出てくるのでした。
愛のために
寿恵子は、クララ先生とダンスの練習をしています。
「あとはパートナーとのつながりを意識してみて。今、いない人。でも心にいる」
クララ先生に英語で言われ、万太郎を思って踊ります。
汗をかいた寿恵子にハンカチを貸してくれるクララ先生。ハンカチにはバラの刺繍がしてありました。
寿恵子は、万太郎からもらった花の絵をクララ先生に見せました。
「これは私の薔薇。思い出す私の庭。私の愛する人」
そこに高藤がやってきました。
「ダンスの練習が終わったら私の部屋に来てくれるか。これから白川様がおいでになる」
寿恵子は「はい」と返事をしますが、寿恵子の顔は曇っています。クララはその様子を見て言います。
「寿恵子、愛する人がいるんじゃない?神はこう仰っている。愛する者たち互いに愛しあいましょうと」
しかし、クララ先生の言う英語は、寿恵子に伝わりませんでした。
「寿恵子、レッスン3。これが最後のレッスンよ。生きなさい、愛のために。心のままに」
言っていることがわかった寿恵子。「はい、クララ先生」と答えました。
学会誌
徳永助教授に言われたこともあり、論文書いてくれる先輩たち。そして、大窪も巻頭の挨拶だけでなく、論文を書いてくれました。
その頃、万太郎は大畑印刷所にいました。自分で石板に植物の絵を描いています。
万太郎の手による、日本で初めての植物学雑誌が、ついに生まれようとしていました。
そして、万太郎のいない家では、論文の英訳、添削を学生たち総出でやります。活字になったものに朱書きで訂正を入れます。
夜通し行われた石板への絵の書き込みも終わり、朝を迎え万太郎が実際に刷ってみました。
万太郎が印刷したものを持ってくるのを待っている学生たちは、学校でスイカ割りをして待っています。
学生たちの声がうるさいのか、田辺教授は不機嫌です。夕方になり、田辺教授は出かけようとします。徳永助教授に帰宅するのかと聞かれた田辺教授。
「陸軍省へ。音楽隊の指導者の招聘が大詰めでね。フランスから招こうとしているんだ。政府も人使いが荒くて困る。まあこの国にはまともな人材がいないから仕方ない」
そう言って出かけようとする田辺教授を徳永助教授が「牧野がもうすぐ帰ってくる」と止めます。しかし、田辺教授は「たかが雑誌」と気にも留めません。
そこに万太郎が、刷り上がった雑誌を手に持ってきました。
「間に合うた。植物学会の学会誌、創刊号300部、ただいま持って参りました」
田辺教授の反応
万太郎の到着を知った学生たちは、教室からみんな出てきました。
さっそく風呂敷包みを開いて、学会誌を手に取ってみます。
「うん、洒落てる」
「いい紙だ。読みやすい」
「外国の研究者にも読んでもらえるでしょうか?」
そして、印刷されている植物の絵を見て驚きます。石板に綺麗に印刷された絵は、植物の詳細を見事に描いていました。その絵は、画工・野宮も感心する出来でした。
みんなができた本に興奮する中、静かに見つめる田辺教授。学生たちの目は、田辺教授がどう評価するかをみまもっています。
その時、田辺教授が見ていたのは「謝辞」でした。万太郎が書いたであろう謝辞には、「偉大なる田辺会長」と書いてあります。
「監督者として嬉しいよ。君に任せて良かった。大窪くん、ロシア行きの荷物にこの雑誌も含めたまえ。配っていただく物も含めて30冊」
田辺教授に評価してもらい、万太郎は嬉しそうです。
「日本の植物学はやっと芽が出たと、外国に知らせるいい機会だろう。私が雑誌を思いついたからこそ、こうして形になったわけだ」
田辺教授の発言に、学生だけでなく徳永助教授、大窪も怪訝な顔つきになります。しかし、万太郎は気にせず「はい」と、田辺教授の発言を肯定するのでした。
打ち上げ
万太郎がよく行く牛鍋屋を貸し切りにして、学生たちや印刷所のみんなを集めて打ち上げです。
その席で、丈之助の書いた小説が「文芸開花」という雑誌に掲載されたことも発表されました。
万太郎は、みんなに酒を注いで回ります。
「牧野、俺は最初からやると思ってたよ。聞いたか、UCがロシアに送れと」
大窪は万太郎に批判的な立ち位置でしたが、今回の雑誌創刊で万太郎を見直したようです。そして、田辺教授の発言にひっかかっていたようです。それは学生たちも同じです。
そして次号の話になりますが、万太郎は作る気はありません。大窪に作るように言われますが、元になる表紙や飾り、版組は大畑印刷所に頼めば同じようにできると言うのです。
その席で、万太郎は義平の妻・イチに挨拶しました。一緒に来ていた娘・佳代は万太郎の洋装姿を見て、ぽっとします。いつもは汚れてもいい恰好で仕事場にいますが、今日は正装していて、蝶ネクタイ姿を「カワイイじゃないのよ」と大テレでした。
そして、打ち上げが終わると、万太郎は義平とイチを残して話しをします。
「大将、女将さん、この場で申し訳ありません。お世話になってわずかではありますけんど、お二人をご信頼申し上げ、お頼みしたい儀がございます」
改まって挨拶する万太郎を訝しげに見つめる義平。竹雄が取り出したのは、釣書(縁談相手と交換する履歴書みたいなもの)でした。
「牧野万太郎、一世一代の急を要する願いでございます」
勘違い
先に帰った佳代は、義平とイチの帰りを待っていました。てっきり、万太郎との縁談だと思い、ニヤニヤして待っています。
「えれえこっちゃ、えれえこっちゃ。おい、紋付は大丈夫か?」
帰ってくるなり、紋付の心配をする義平。イチはしまった紋付を出してみると奥に入って行きました。
「おっとさん、お話あったんだね。私の返事はね、いいよ。だから、万ちゃん、婿にとってくれていいから」
佳代は心の準備ができていました。そこに紋付を持ったイチが戻ってきました。
「あのね、常日頃言ってるだろう。せっかちにいいことなんてひとつもないんだからね。万ちゃんのお相手は根津の白梅堂って和菓子屋のお寿恵ちゃんって娘だよ。それに釣書を・・・」
義平は「みなまで言うな」とイチを制止し、紋付を着てみます。
「どこも虫食ってなかったよ。さっそく明日行ってきなさいよ」
イチにそう言われ、義平はやる気満々です。
「急いでるって行ってたからな。万さんの一世一代の頼み、ひとつ男俺がぴゃーっと行ってしゃーっと仕切ってくらあ」
しかし、佳代は知っていました。明日は仏滅です。
仏滅と大安
仏滅なので、もう1日ずらして大安に持って行くことにした義平。佳代は、恋敵の寿恵子を見ようと、根津の白梅堂にやってきました。
白梅堂では、おっかさんが店番しています。その時、奥からダンス練習のために出てきた寿恵子を見つけました。真白なドレスを着て、光り輝くようでした。偵察にきたはずの佳代も、見取れてしまいます。
何も伝えないまま饅頭を買って帰った佳代は、ぼーっと饅頭を食べていました。その姿をみたイチは、夕飯前だから饅頭は止めなさいと止めます。そんなイチに佳代は伝えます。
「牧野さん、ダメだと思うわ。お寿恵さん、高藤家に入るんですって」
佳代のもたらした情報で、混乱するイチ。義平を呼び、事情を話します。義平は、今から釣書を持って行くと言い出します。
「今日は仏滅なんだよ。そのせいでこの先何かあったらどうすんだ。大事な大事な万ちゃんの幸せ壊すのかい」
そうイチに言われて、思いとどまる義平。
翌日、義平は朝一番で、白梅堂にやってきました。
「本日大安、ぶしつけながら夜明けと共にご無礼おば仕ります。手前は、神田にあります印刷所の大畑と申します。植物学者、牧野万太郎くんより釣書を持って参りました。不調法ではございますが、急を要すること、どうか」
店の前を掃除しようとした文太が受け取ります。
「時が来ましたか。よくぞいらっしゃいました。さあ、中へどうぞ。女将さん!」
発足式
舞踏練習会結成之儀は、予定通り開催されました。
その場には、田辺教授や政府高官たちも来ていました。まず、高藤の挨拶から始まります。
「来年開館の鹿鳴館は、我が国が文明国であると西洋人に認めさせることが第一位。そのためにダンスは必ず必要になるものです。特に貴婦人の方々には、鹿鳴館の花として咲き誇っていただかねばなりません。指南役を紹介しましょう」
そうして呼び込まれた寿恵子とクララ。
「さあ寿恵子さん、皆さんにお目にかけよう。男も女も対等のパートナーたりえること」
高藤がそう言うと手を出し、寿恵子と一緒に踊ります。それを見て、仏頂面の高藤の妻。
そして、ダンスが終わると、改めて高藤が挨拶します。
「どうです、これが鹿鳴館の日本人の姿です。鹿鳴館は目的ではない、ただの手段です。我が国を認めさせ、屈辱の不平等条約を撤廃し、今度は我が国こそが他国に出て行くのです。西洋諸国がそうしてきたように」
その言葉に反論する人物がいました。それは、クララです。
「そのためにダンスを教えた訳じゃない。日本へ来たわけではありません」
その言葉を抑え込むように、高藤がクララの前に立ち塞がり圧迫します。その姿を見て、寿恵子は止めに入ろうとします。その寿恵子の手を取る高藤。
「日本はすぐに一等国へと駆け上がる。この場にいる私たちこそが、民草を導いて行くのです」
しかし、寿恵子は高藤の手を振りほどきました。
寿恵子の答え
「寿恵子さん、恐れずとも大丈夫ですよ。身分は気にしないで、あなたは生まれ変わる」
高藤は、寿恵子が恐れていると思い、そう話しかけました。しかし、寿恵子はそうは思っていません。
「どうして、生まれ変わらなきゃいけないんですか?私のままで、なぜいけないんですか?私は菓子屋の娘です。けど両親を恥じたことは一度もありません。父は西洋の乗馬方法を試してなくなりました。けれど、父が西洋に馴染もうとしたのは、よその国に出て行くためではありません。分かり合うためです」
そして寿恵子が初めて先生と呼べる人と出会いました。それが、クララです。クララは、寿恵子に熱心に教えてくれました。美しい曲も、花も。そしてなにより、一番大切な「心のままに生きること」を教えてくれたのです。寿恵子はクララと手を取り合いました。
「先生、私好きな人がいるんです。だから、もう行きます。一生忘れません。センキューベリーマッチ。マイティーチャー」
そして高藤に「失礼します」と言って立ち去ります。それが寿恵子が出した答えでした。
呼び止める高藤。しかし、高藤の妻が遮ります。
「みっともない。男と女が対等とおっしゃるけれど、あなたはすぐそばにいる女さえ目に入っていない。この国の行く末を描くのに、女の考えは聞こうともしない」
そう言って、会場の女性達と一緒に退出する高藤の妻。その状況を見て、笑う田辺教授の姿がありました。
走る寿恵子
寿恵子は走ります。ドレスを着ていますが、そんなことは気にしません。
待ちゆく人たちは、寿恵子の美しさに皆が振り返ります。
そんな寿恵子は、笑顔です。
「これはのう、ユウガオじゃ。日が暮れてくると、この真っ白なユウガオがよう目立つ。まるで光を集めちゅうみたいで。それに澄んだ香りがして、夕闇を明るくしゆう」
万太郎は十徳長屋で、子供たちにユウガオを説明していました。
「あ、ユウガオのお姫様」
子供たちが見つめた先を見る万太郎。目をやるとそこには、真白なドレスを着た寿恵子が立っていました。
万太郎が寿恵子の前に立つと、寿恵子は万太郎に抱き着きます。
「牧野さん、私来ました」
万太郎は言葉になりません。
寿恵子の背中に回した手をどうしていいかわかりません。そして、ゆっくりと寿恵子を抱きしめました。
最後に
ついに万太郎と寿恵子の気持ちが繋がりました。
万太郎が奪いに行くのではなく、寿恵子が選んだというところに、今の時代を表しているように感じました。それにしても、高藤はこれからどうするのでしょうか?ちょっとかわいそうな気もします。
そんな万太郎と寿恵子ですが、これからどうするのでしょうか?とりあえず、峰屋に報告しに行くようですが、竹雄は綾と一緒になるのでしょうか??
時は明治から大正、昭和と流れていきます。それは、戦争の時代でもあります。
二人がどうなるのか、来週も楽しみです。