ササユリ はらんまん第4週のサブタイトルです。
東京へ行った万太郎が、地元・佐川に帰ってきました。
東京で見たもの、聞いたものに心躍らせますが、竹雄に当主となるよう釘を刺されています。
そんな万太郎がどの道を選ぶのか、そして峰屋はどうなるのか?
そんな第4週のまとめです。
第3週「ジョウロウホトトギス」のまとめ。
主な登場人物
槙野万太郎 神木隆之介 病弱な酒造業の店の当主。植物が大好き
西村寿恵子 浜辺美波 白梅堂の娘。
槙野綾 佐久間由衣 万太郎の姉。家業に熱心なしっかり者
竹雄 志尊淳 番頭の息子。万太郎のお目付け役
槙野タキ 松坂慶子 万太郎の祖母。実質的に峰屋当主
幸吉 笠松将 峰屋で働く蔵人。麹屋
堀田寛太 新名基浩 万太郎の幼馴染。医者の息子
早川逸馬 宮野真守 高知の自由民権運動家
楠野喜江 島崎和歌子 自由民権運動の同士
中濱万次郎 宇崎竜童 ジョン万次郎。万太郎に自由を教える
里中芳生 いとうせいこう 万太郎の心の友。
野田基善 田辺誠一 万太郎の心の友。
第4週のストーリー
帰郷
万太郎と竹雄は、東京から佐川へ戻りました。万太郎にとって初めて、故郷を離れて過ごした長旅となりました。
船着き場には、綾が迎えにやってきています。
万太郎は船着き場に降りると、すぐに近くに生えていた草に声をかけました。
「万太郎、先にこっちやろ」
綾にそう言われ、苦笑いする万太郎。
「姉ちゃん、みんな、帰ってきたで」
万太郎と綾、竹雄たちは、歩きながら東京の凄さを語ります。竹雄は、東京と高知では「月とすっぽん」だと綾に熱く語るのでした。
それよりも綾は、博覧会に出品された酒が気になっています。万太郎は飲みましたが、下戸のため味を比較するほど味わえていません。そこで竹雄が飲んだ感想を言いました。
「美味かったですき。帳面つけてきたき、後で話します」
綾は聞くより、やはり東京へ行きたかったようです。
自由民権運動
その時、演説の声が聞こえてきました。話していたのは声明社のリーダー・早川逸馬です。
その演説には多くの人が集まっていました。その観衆の中で、声を上げた女性がいました。楠野喜江です。
「あては主人が早うのうなったき、あてが主となって税金を払ろうてきたがぜよ。ほうじゃったら、女のあてにも政治に参加する権利があるんじゃ。御一新になって、武士も町人もみんな平等って言うんやったら、女のあてにも権利をくれきや」
時代は明治、女性の参政権だけでなく、まだ国会も開かれていない時代です。この年、帝国議会を解説するという詔が発せられ、土佐出身の板垣退助が「自由党」を結成するのです。
「我は宣言する。自由は土佐の山間より発したり!」
早川の宣言で、集会は終わりました。
見物していた万太郎たちが帰ろうとすると、喜江が綾に声を掛けます。
「これは女の話しでもあるきよ。ほうじゃき、おなごこそ今から生きんと。演説会、待っちゅうきね。来てちょうだい」
綾は返事をせず立ち去りました。
植物の研究は辞めます
万太郎は家に帰ると、分家衆や奉公人を集めて挨拶しました。
「無事に東京より戻りました。博覧会は大変な賑わいで、清酒部門もそれは大入りじゃった。品評会の番付披露は博覧会が終わってからじゃけんど、たとえ褒賞をもらえんかったとしても、あの場に峰の月を出品できただけで大きな誉れじゃと思っちゅう」
そんな万太郎の姿を見て、奉公人たちは万太郎を見直します。そして、万太郎を当主と認めない分家衆は、気まずそうにお土産をもらって帰りました。
「そんで、草の方はどうだったがじゃ。おまんのことじゃ、先生方に会いにいったじゃがろう」
おばあちゃんは、万太郎が東京へ行きたがった理由を悟っていました。
「はい、博物館をお訪ねして、植物学がどんなものかちゃんと教えてもらいました。いやー夢のようじゃった。ほんじゃき、終わりです。植物の研究は辞めます。植物学をやるには東京におらんといかんことが、ようようわかりました。佐川では無理ですき」
それだけ言うと、万太郎は荷ほどきがあると言って、席を立って自分の部屋に戻りました。
おばあちゃんは、万太郎が急にそんなことを言いだしたことを不思議に思い、竹雄に何があったか聞きました。
「若は、東京は遠いですき、もう来ることもないと」
それを聞いても納得できませんでしたが、おばあちゃんはその場は納めました。そして、部屋に帰った万太郎は、買ってきた顕微鏡を押し入れにしまうのでした。
万太郎の縁談
万太郎は、番頭・市蔵に言って蔵を見せてもらいました。市蔵は、やっと酒造りに目を向けてくれたと言って感激しています。
それから、万太郎は店に出て、台帳を書き写したりして、仕事をやるのでした。
その時、おばあちゃんを訪ねて客がやってきました。
「高知の呉服商、松屋の使いでやってきました」
その客は、万太郎に松屋の娘を嫁がせたいと言うのです。
「松屋には娘が二人おりまして。どちらの娘でもいいですき、峰屋様に嫁がせたいと」
そして、おばあちゃんに釣書を渡しました。釣書は、見合いのときに、仲人を介して身上書・親族書と共に相手に渡す系図のようなものです。
いい話のようですが、おばあちゃんは「じっくり考える」と言うだけでした。
「わかっちょります。峰屋のご当主は、大変な秀才と聞こえ高く、博覧会でもえろう評判をとったとか。これからどんどん話しが持ち込まれると思いますけんど、松屋は200年続く老舗。他よりよほど相応しい縁組と存じます」
それだけ言うと、松屋の使いは帰っていきました。
おばあちゃんは、店で書き物をしている万太郎が、子供の頃のように草の絵を描いているのではないかと疑います。しかし万太郎は、仕事をしていました。
押入れにしまわれた物
竹雄はおばあちゃんの元へ行って、東京であったことを正直に話しました。
「東京で、若とケンカしました。わしが卑怯なまねを。植物の道と、わしら峰屋に使える者を天秤にかけて、わしらを見捨てる気かと問い詰めました。ほんじゃき若は、思い切ろうとされゆう。若は草花を嫌いになった訳じゃありません。本当は先生にも見込まれちょりました。けんど若は、わしのせいで、わしらのために。。。」
竹雄から事情を聞いて、おばあちゃんは納得しました。
「竹雄、卑怯とは思わんぜ。いつか誰かかが言わんといかんかった」
そう言って、おばあちゃんは竹雄を庇います。
「けんど、佐川に戻ってからこっちでは、若は寝られていないようなんです。朝、部屋にうかががいましても、布団は畳んだまま使われちょりません。若は前の日のまま、お召替えもせんでぼーっとされゆうがです。あれほど毎日朝が来るのが楽しい、草花が朝日を喜びゆうがが嬉しいとおっしゃってた方が。わしはもう、幾日も若が笑う顔を見ておりません。大奥様、わしはどうしたらええでしょうか?」
万太郎がそんな状態だと知ったおばあちゃんは、ついに決断します。
翌日、万太郎に分家を回るように言うと、おばあちゃんは万太郎の部屋を見に行きます。
押し入れにしまわれた本や顕微鏡を見つけて、竹雄が言っていたことが本当だったと納得しました。
夫婦になれ
万太郎と綾を呼び、おばあちゃんは「おまんらに話しがある」と話し始めます。竹雄は部屋の外で聞いていました。
「子供の頃はあればあ弱かった万太郎が、無事生き永らえた。綾も家業に熱心な気丈者に育った。この先は、おまんら二人がわしに代わって、峰屋を支えて欲しい。おまんら二人、夫婦になれ」
突然言われ、びっくりする万太郎と綾。
万太郎と綾は、姉弟ではありませんでした。綾は、おばあちゃんの娘の忘れ形見で、本当は万太郎のいとこなのです。万太郎が生まれた頃、コロリ(コレラ)が流行していました。峰屋でも、おじいちゃんと、万太郎のお父ちゃんが亡くなっています。そして、綾のお母ちゃんとお父ちゃんも亡くなっていたのです。
「おばあちゃん、無理じゃ。姉ちゃんは姉ちゃんじゃ。わし姉ちゃんとは夫婦になれん」
しかし、おばあちゃんは譲りません。
「おまんら自身を見い。当主のおまんはいつまでも家業に身が入らん。頭の中は、草花のことばかり。代わりにおなごの綾が、蔵には一歩も入れん身で、家業に強情を張ゆう。おまんらは歪ながじゃ」
おばあちゃんは万太郎と綾に言うことを聞けと、強く迫ります。そして、秋の仕込みの前に祝言を行うと言い放ちました。
「これだけは言わせて。万太郎は弟じゃ、弟に添うがは無理じゃき。私にも好きな相手ぐらいおったがよ」
そう言うと、出て行く綾。部屋の外で聞いていた竹雄と目が合いますが、何も言わず出て行ってしまいました。
万太郎の言い分
綾が出て行った後、万太郎は綾がかわいそうだとおばあちゃんに詰め寄ります。
「植物学やったら、すっぱり辞めるき。辞めるゆうたら、辞める。どうせわしの一生、仕方ないろう。どうせわしは男に生まれ、この年まで生き永らえてしもうた」
早く亡くなってしまえばよかったという言い方に、おばあちゃんもびっくりして怒ります。
「わしやち言いとうないわ。ほんじゃき、どんだけ植物学がやりとうても、諦めろ諦めろゆうて。自分に言い聞かせちゅうがじゃろうが。どうせわしは当主じゃ。諦めるしかないけんど、せめて姉ちゃんは。犠牲になるがはわし一人で十分じゃ」
そう言うと、万太郎も部屋を出て行きました。
そして、万太郎は蔵の前に行くと、竹雄もやってきます。そして、竹雄が話しを聞いていたことを知った万太郎は、竹雄に思わぬことを告げたのです。
「竹雄、聞いちょったならなが話しは早い。おまん、早うゆうてこい、好きじゃゆうて姉ちゃんにゆうてこい。東京で土産も購うたがやろ。今、今言わんと、姉ちゃんがどうなるかわからん」
しかし、竹雄は奉公人で、綾とは立場が違います。万太郎は竹雄と夫婦になって欲しいと、本気で思っていたのです。竹雄は無茶苦茶なことを言う万太郎を突き飛ばしました。
そこに女中がやってきて、綾がいなくなったことを告げます。ケンカしていた万太郎と竹雄ですが、綾のことが心配になり、二人で探しに出かけました。
幸吉の村へ
綾は走っていました。そして、綾がやってきたのは、幸吉が住む村です。幸吉は見つけましたが、幸吉が若い女性と仲睦まじくしているのを見てしまいました。
それを見た途端、自分が何をしているのかと我に返り、急いで帰ります。その途中、走って転んでしまいました。
「なにやりゆうがじゃろう。本当、なにやりゆうがじゃろう」
転んで呟いた綾が道端に目をやると、そこにはピンク色のササユリが咲いていました。
「綺麗じゃ、ユリじゃろうか。ほんのり染まっちゅうがじゃね。美味い酒を飲んだ時みたい」
家が嫌になったはずでしたが、頭はお酒のことでいっぱいでした。綾は立ち上がると、また歩き出しました。
その頃、万太郎と竹雄は、綾を探すために身支度をして探しに出かけました。その時、医者・堀田先生と、その息子で友人の・寛太に出くわします。
「万ちゃんも高知にいくがか?峠越えで綾姉ちゃんにおうたよ」
綾の消息を教えてもらった万太郎と竹雄は、高知に向かいました。先日、自由民権運動の集会が開かれるとチラシをもらっていたのを思い出したのです。
その頃高知では、自由民権運動が盛り上がりをみせていました。立志社から始まったこの運動は、国民の自由と権利を獲得するために憲法の制定や、国会の開設を求めていました。運動は若者を中心に加熱しています。
弁士、万太郎
万太郎と竹雄が高知に着くと、演説会場に行ってみました。会場には多くの人が集まっています。そこで綾を見つけた万太郎が近づこうとすると、演説が始まりました。
「国会開設請願の署名は、今や国中で30万を越えた。まさに我ら人民の声が国を動かそうとしゆう。我らみな金銀よりも一層尊い、自由と言う権利を持っちゅう。この自由という権利は、命よりも重い。自由がなければ、人は生きとってもしかたない。我ら人民はこれ以上役立たずの雑草とバカにされ、卑しき民草と踏みにじられてはいかん」
そう演説する早川の言葉に万太郎は、つい「それは違う」と声を上げてしまいました。万太郎を壇上に上げて名前を聞き、早川は万太郎に何が違うのかと聞きます。
「名もなき草らは、この世に無いき。人はその名を知らんだけじゃ。名を知らんだけじゃのうて、毒があるか薬になるか、その草の力を知らん。どんな草やち、同じ草はない。一人一人、みんな違う。生きる力を持っちゅう。葉の形、花の色、そしてどこに生きるか。まっことようできちゅう」
それを聞いて早川は「天賦人権」と声を上げます。
「そして、根を張って生きるがじゃ。根を強く張って、どの草も命を繋いでいく」
早川は今度は「生存の権利」と声を上げます。
「そして、厳しい冬の間も、根っこ同士繋がりおうて生きる力を蓄える。そう、元気いっぱい芽吹くために」
最後に早川は「同士の団結」と声をあげました。
自由ゆうがは、なんじゃ
万太郎が語る草花の話しは、自由民権運動の精神と合致するものだったのです。
「槙野、この早川が誤った。我らはこの自由という地面に根を張るたくましき草じゃよ。槙野万太郎が教えてくれた。我らは今宵、新たな弁士をここに迎えた」
そう紹介された万太郎は「よろしゅうお願い致します」と頭を下げました。
そんな演説会も終わり、万太郎が壇上から降りると、綾から声を掛けられました。そこに竹雄も合流します。
竹雄は綾のことを心配しましたが、綾は壇上に上がった万太郎が心配でした。
「こっちだって肝が冷えたわ、なにやりゆうがよ」
綾にそう言われても、万太郎には行きがかりで壇上に上がっただけで、意図するものはありませんでした。
そこに早川がやってきます。そして、万太郎を仲間になるように言うのでした。
「民権がどういたもんかわからんけんど、わしも聞きたいことがあります。自由ゆうがはなんじゃ。誰にでも自由に生きる権利があるがやったら、どんな生まれのもんでも、当主でもおなごでも、好きな道を好きに生きれるがじゃろうか」
その万太郎の問いに早川は、この先どうすればいいか知りたいならついて来いと言って歩き出しました。万太郎は綾と竹雄に宿屋にいるように言って、早川についていきました。
自由とは
万太郎は、自由民権運動の活動拠点になっている場所でした。そこでは、みんなが語り合ったり、チラシを作成したり、酒の酌み交わしていたりします。
万太郎は夜遅くになっても、みんなが帰らないことに驚きます。そして、帰らずに泊まることも多いと聞くと、布団が敷けないのではないかと疑問を持つのでした。
「おまんは変わっちゅうの。おもしろい話をする割に世慣れちゃあせん。これまでがよっぽど恵まれちょったがか」
そう聞かれて、万太郎は恵まれていたことを告白しました。しかし、だからこそ家に縛られ、自分の好きな道を選ぶこともできないことに悩んでいるのです。みんなが思い思いに好きなことをやっている姿を見て、早川に「これが自由ということか」とたずねました。
「アホ!今目に映っちゅうのはほんの上澄み。ただ気の合う者どうしで騒いじゅうだけじゃ。この国の隅々まで行き届き、会うたことのない人まで救う。もっと強靭で揺るぎないもん。例えば、志と才があるもんやったら氏素性に関わらんと、家柄や国も飛び越えてなりたいもんになれる」
時代は明治になって間もない頃です。早川にそう言われても、万太郎には想像することもできませんでした。
「おとぎ話でも夢物語でもない。これは、皆で手を伸ばしたら届く話しじゃ。それを己の目でちゃんと見てきた人がおる」
そう言うと、万太郎をその人の元に連れて行くのでした。
強欲
「竹雄、少し遠回りせん?お腹すいたき」
綾と竹雄は、万太郎と別れて宿に向かう途中でした。竹雄は食事は自分が探すと言いますが、綾はただ宿に帰りたくなかったのです。
「本当は高知にくるつもりもなかった。幸吉の村に行ったが。ほんならね、畑仕事の真っ盛り。幸吉は家族と一生懸命働きよった。愛らしい嫁さんもおって、幸吉のことらなんも知らんまんま、自分が酒を造りたいばっかりに。なんて強欲ながじゃろ」
綾はそう竹雄に話しました。
「欲が無い人はおりますろうか?誰かを手に入れたい、傍におりたい。そう思うことは生きちょったら、当たり前でしょ。綾様の欲は、前に向かうための力じゃ。わしはそう思いますき。わしは、そんな綾様をお慕い・・・尊敬、尊敬しちょりますき」
自分の気持ちを伝えようとした竹雄でしたが、最後には奉公人の竹雄が勝ってしまいました。
「竹雄に言われてもね。それで竹雄はいつも褒めてくれゆうが。奉公人の鏡やねえ」
綾は竹雄の言うことを話し半分で聞いていました。
「万太郎も前に進んじょったね。あの結社の中に自分から飛び込んで、関わって行こうとしちょった。昔は村の子らとも遊んだことも無かったのに」
それは竹雄が、体が弱い万太郎を心配して、止めていたのもありました。それが、万太郎が村の子たちと仲良くなるのを邪魔と竹雄は思っていたのでした。
その時、祭りばやしが聞こえてきました。
竹雄の忠義
綾と竹雄は祭りばやしの方に行くと、出店が出ていて、みんなで踊っていました。綾は変わった踊りに驚いています。
「知らんがか、よしや節(世しや武士)じゃ」
そう教えてもらい、綾と竹雄は踊りの輪の中に参加します。その時、渋る竹雄の手を引いた綾。竹雄はドキッとするのでした。
踊り終わった後、竹雄は綾のために芋けんぴを買って、一緒に食べました。
「こんなに楽しく遊んだき、もうええね。おばあちゃんの言う通りにする」
幸吉が所帯を持っていることを知り、楽しい時間を過ごした綾は、もう反抗せずに受け入れる気持ちになっていました。
「いや、逸馬さんもゆうてましたろ。これからは誰でも自由になれる、おなごでも自由になってええと」
竹雄は受け入れる必要がない時代になると、綾を説得しようとします。しかし、綾は運命と諦め、受け入れるつもりです。
「わしは、若と綾様をお守りするよう言いつけられて育ちました。それ以外の生き方がわかりません。じゃき、お二人のお傍におりたい。それだけがわしの望みで、綾様が例えどなたかとご一緒になられようとも、峰屋を出られようとも、わしの忠義はかわりません。例え離れても、一生お守りすると誓います」
そんな竹雄の気持ちに気づかない綾は「大げさやね」と笑うのでした。そして明日、佐川に帰ると竹雄に言います。
竹雄は、東京で買った櫛を綾に渡そうとしましたが、結局渡すことができませんでした。
中濱万次郎
早川が連れて行ったのは、中濱万次郎の家でした。早川は万次郎のことを「真の自由を知るお人じゃ」と紹介しました。
万太郎は挨拶すると、万次郎に自由について聞きました。
「逸馬さんらが叫んじょった自由ゆうがに惹かれました。頭ではやらんといかん道がようわかっちゅうがです。けんど、好きなことができて、心が言うことをきかん。ほやき、自由ゆう言葉にすがりゆうがです」
自由は、万次郎にとって「憎んだ」言葉だと言うのです。そして、座敷の奥を見せてくれました。
そこには、アルファベットを書いた掛け軸がありました。その署名は「ジョン万次郎」となっています。
「かつてそう呼ばれよった。ちょど今のお前さんぐらいの年の頃にな」
万太郎はジョン万次郎だったことに驚きました。子供の頃、ジョン万次郎の書いた「漂巽紀畧」を何度も読んでいたのです。
「子供の頃、英語を学びゆう途中で、何べんも読みましたき。漂流してもへこたれず、無人島に流れついて。アメリカの捕鯨船に助けられ、船長にかわいがられ、ついにはアメリカで暮らされて。外国の方々と共に世界中の海に乗り出されたところは、まっこと胸躍りました」
自由を憎む
しかし、ジョン万次郎は帰ってこない方が良かったというのです。
「この本が藩に提出された翌年、この海に黒船がきた。中濱さんはすぐに江戸に呼ばれ、外国の事情を説明する役を担った。あんとき、英語にかけては中濱さんの右に出る者はおらんかった。けんど幕府は、黒船が帰ってくる直前に中濱さんが帰ってきたち、中濱さんを疑ごうたがじゃ。外国から送り込まれた間者じゃなかろうかと」
その結果、オランダ語しかわからない通訳が採用され、不平等条約が結ばれたと言うのです。
「自分だけが果たせる勤めがある、そうわかっちょりながら己を殺したがよ」
そして、自由を憎むことになったと言うのです。
「自由を知らんままでおったら、この年になった今も胸の内を掻き立てられることらもなかったろう。気鬱の病にかかることもなかったろう。わしにとって自由とは海で見た夢そのもの、命そのもの。じゃけんど、自分で捨ててきてしもうたがよ。大海原、鯨、仲間たち。ジョン万と呼ぶ声、それから鯨が跳ねる時の帆柱より高いしぶき」
万太郎はジョン万次郎と同じように草花を好きな気持ちを「殺す」ことを選択しようとしています。
「人の一生は短い。後悔はせんように。わしもあと一遍で構わんけん、仲間と捕鯨船に乗り込み鯨を追いたい。ずっとずっとそう願うてきたけんど、もう老いてしもうた」
ジーボルトの本
ジョン万次郎と話しをできたことに感謝する万太郎。帰えろうとすると、ジョン万次郎から本をもらいました。
「お前さん、植物が好きやとゆうとったのう。この本はいりようか?ジーボルトが日本の植物を調べた本のようや」
それはシーボルトが書いた本でした。東京に行った時にも、シーボルトが日本の草花を調べていたことは聞いています。
「絵は上手いけんど、ひとところしか書いちゃあせん。本当は季節ごとに描かないといかんがです。そうでないと、植物の本当がわからん。外国の人には無理じゃ」
万太郎は外国人ではなく、植物が好きで日本に暮らし、植物の絵を描き、英語の読み書きができる人でないとダメだと言うのです。そして、その人は万太郎で、今やらないといけないと言うのです。
「傲慢どころじゃない。強欲、業突く張りじゃ。おまん、自分こそがそういうもんじゃというがか?」
早川に言われ、万太郎は「はい」と力強く答えました。
気が付くと朝になっていました。早川は万太郎が帰る前に集会に寄るように言って別れました。
最後に
万太郎と綾、竹雄の苦悩が描かれた週になりました。
家業と自分のやりたいことを天秤にかけ、家業を選んだ万太郎。しかし、自由民権運動に出会い、自由というものを知りました。
万太郎が草花の道に行くと、家業は誰が継ぐのでしょう?やっぱり綾と竹雄?
来週は、万太郎が新たな道へ進むようです。
どうなるのか楽しみです。