鳩の撃退法 は、CMをやっていて気になっていた作品です。
WOWOWで放送されていたので、録画して見ました。
そして、映画は2021年に公開されています。
前に見た実写映画は「ドライブ・マイ・カー」でした。
原作
佐藤正午による長編小説が原作です。
2014年に小学館から出版され、第6回(2015年度)山田風太郎賞を受賞しました。
そして、2018年に小学館から文庫化されています。
登場人物
津田伸一 :藤原竜也
鳥飼なほみ:土屋太鳳
幸地秀吉 :風間俊介
幸地奈々美:佐津川愛美
沼本 :西野七瀬
まりこ :桜井ユキ
ハレヤマ :柿澤勇人
吟子 :森カンナ
房州老人 :ミッキー・カーチス
マエダ :リリー・フランキー
倉田健次郎:豊川悦司
映画ストーリー
デリヘルのドライバー
津田伸一は、今はデリヘルのドライバーとして働いていました。しかし、津田は元々は小説家です。
そして、今日もキャストを乗せて、運転しています。
「今日の客、郵便配達?」
同乗しているキャストのけい子に聞くとこう言いました。
「郵便局員はまりこさんの客、けい子のお客さんはJRの方」
まりこもけい子も、デリヘル「女優倶楽部」のキャストです。
津田は、まりこに見るに見かねてお金を貸していました。
「津田さんは有名な小説家だってって本当?
なんとか賞取って、ベストセラーになって、こんなところ流れてきても呑気にやっていけてるって社長が言ってた」
けい子にそう言われますが、うやむやにして話しを終わらせました。
そんな時に津田に電話がかかってきました。しかし、しらない番号です。
「電話出たら?」とけい子に言われますが、知らない番号なので出ませんでした。
けい子を仕事に行かせ、房州書房へ戻ってくると2人のチンピラから声を掛けられます。
「話ぐらい出ろや、何回かけさせれば気がすむんや!
誰の許可得て商売してるのか、よそもんのくせにやりたい放題やりやがって」
そう言われても津田はただのドライバーです。そう言うと、だったら上のやつ連れてこいとボコボコにされてしまいます。
チンピラに「倉田」から電話が入り、津田は解放されました。
房州書房
「また女でしくじったか?それとも金か?」
房州書房という古本屋の老人が一部始終を見ていました。見てたなら助けてくれと津田は言います。しかし、老人には何もできないのはわかっています。
房州書房に古本を売りにくる子連れの女性がいました。価値があるかどうかわからない本を数冊売りに来て、1万円もらって帰っていきました。
それを見た津田が悪態を老人につきます。その悪態を房州老人に咎められます。
「あんたも小説家だろ、言葉を選びなさい」
そして、津田は痛い所を突かれます。
「いつになるか、津田伸一の新作は?」
そう言われても、いつになるのか、自分でもわかりませんでした。そんな津田が房州書房で目に付いたカレンダーは2月です。
「今年は閏年か。余計な1日があると、余計なことが起こるんだ」
津田は、独り言をつぶやくのでした。
ピーターパン
カフェで本を読む津田。そこに一人の男性がやってきて、本を読んでいました。
「相席させてもらってもいいかな?」
津田がそう声をかけ、勝手に座ります。この土地にやってきて半年、深夜にやってきて本を読んでる人を見たことがありませんでした。本を読んでいた男の名前は、幸地秀吉です。
秀吉は、津田が読んでいた本を見ます。本は「ピータパンとウェンディ」です。
「不動産屋の女といろいろあって、読むはめになった」
そう言い訳すると、栞代わりに1000円札を挟んでいるのを見られました。津田のいつもの癖です。
津田は、不動産屋の女性に「ピーターパンに似てる」と言われていました。秀吉は、誉め言葉ではないのかと聞きます。
「本はアニメとは違うんだよ。
今読んでるところでいうと、まずモノを考えない、忘れっぽい、自惚れが強くて生意気、このまま結末まで行けば、ピーターパンは結構な女たらしになってる」
津田がそう言うと、秀吉は笑っていました。
今ある事実から考える
津田が秀吉に家族はいるか聞くと、「奥さんと娘が4歳」と答えました。
しかし、そんな家族がいるのにどうして帰らないか疑問です。そこで、津田は推理を始めます。
「起こしたくないからだ。
遊んだ後じゃなさそうだし、この時間までってことは、水商売。
家族をゆっくり寝かせるためにここにきて本を読んで、朝方帰る」
小説家は、そうやって推理するのが職業病なのかと秀吉に聞かれます。
「今ある事実から考えて、なにが自然か。そう考えると隠された事実が見えてくる」
そう言って、津田は今の状況からの推測だと答えました。
事実は小説より奇なり
「この本、面白くないの?」
津田は秀吉にそう聞きます。
「事実は小説より奇なりだから、な。
起こるはずのないことが起きてる、妻にそう言われた、今日」
具体的なことはわかりませんが、良い方の「奇跡」ではなさそうです。
「奇跡?いや奇跡だ。そう思うことにする。
奇跡ね、さすが小説家は絶妙な言葉を使う。
妻と出会った時、すでに妻は妊娠していた。あれも奇跡だった」
沼本
「コーヒーのお替りいりませんか?」
津田と秀吉に声をかけてきたのは、女性店員の沼本です。
「ヌマモト。そんな出がらし、何杯も飲めるか!」
そう津田が言うと、沼本は「ヌモトです」と言って、津田の顔をまじまじ見ました。
「あのさー、人生をどうしくじると、そんな顔になるが?」
津田の顔は殴られた時のまま、まだボコボコでした。
拍手
「なぁ、ここよくない?」
ピーターパンとウェンディを読んだ秀吉が津田にそう言うと、突然大きな音で拍手をしだしました。他の客から注目されます。
「そのろくでなしの男の本、房州書店で探してみるよ」
去り際にそう言う秀吉に、津田は「今度会ったら貸すよ」と約束しました。
そして、秀吉の読んでいた本を見ます。八村嶺という作家の「蝶番」という作品でした。帯には「別の場所でふたりが出会っていれば、幸せになれたはずだった」と書いてあります。
「だったら違う場所で出会わせるべきだろうな。幸せになれる」
津田がそう言うと、秀吉は帰って行きました。
しかし、秀吉は今日限りで、ここで本を読むことはありませんでした。なぜなら、秀吉は愛する家族とともに姿を消すからです。
編集者
ここまでを小説にした津田は、担当の編集者の鳥飼なほみに読ませていました。
「フィクションなんですよね?
津田さん、3年前に私に何をしたか覚えてらっしゃいますよね?」
津田は直木賞を取った作家でした。しかし、あることがあって、3年前に文壇を離れていたのでした。
「続きを読みたくないのか?読みたいなら5万円だ」
編集者から5万円をうけとると、続きを渡しました。なほみは、家に帰って小説の続きを読みます。津田の書いた物語にどっぷりハマってしまっていました。
電話
深夜のカフェで津田に出会う前、秀吉は娘のお迎えに行っていました。
「妻が体調を崩してしまって」
そう言って娘・茜を引き取り、抱き上げます。
「大変なら茜ちゃん預かりますよ」
ママ友にそう言われ、預かってもらうことにしました。
そこに秀吉が店長を務めるバーの従業員から電話が入ります。
「どうしても今日中に支払わなければならないものがあって、3万円前借りをお願いしたいです」
店に行ったら準備すると言って秀吉は電話を切りました。
そして、帰宅途中にもう1本電話が入ります。
「今日、店に荷物が届く。受け取ったら、上着の内ポケットにでもしまっておいてくれ。明日取りに行く」
そう言うと電話は切れました。
妊娠
秀吉が家に帰ると、体調不良の妻がソファーで横になっていました。
娘をママ友に預けてきたことを伝え、少し休んで夜にでも迎えに行くようにいいます。
「ねえ、赤ちゃんができたの」
そういう妻に、秀吉は信じられないという顔をして聞きました。
「医者には見てもらったのか?妊娠は間違いじゃないのか?」
そして、秀吉は言ってしまいます。
「それは俺の子じゃない、今度は誰の子なんだ?
どうしてなんだ。3人で家族でそれいいだろう。どうしてなんだ」
秀吉は家を出ました。
なにかを思って秀吉は自分の店に電話をしました。
「イワナガ、今日店を任せてもいいか?頼む」
夜、秀吉の妻は娘をママ友の家に迎えにいきました。
まりこ
まりこがホテルにデリバリーされると、待っていたのは若い男でした。
そして、まりこは仕事で受け取ったお金を持って、家に帰ってしまいます。
デリヘルの社長から津田に電話がきて、まりこから連絡きていないか聞かれます。しかし、津田には連絡がきていません。
その後、まりこから電話がきます。
「津田さんに頼みがあるんじゃけど」
そう言うまりこに「金ならまだいいよ」と津田が伝えると、お金は準備できているといいます。それではなく、知り合いを駅まで送って行って欲しいと頼まれました。
津田がまりのこの家の着くと、まりこがやってきて3万円を返してくれます。その3万円は「ピーターパンとウェンディ」にまりこが挟みました。そして、誰にも今日のことは内緒にしてくれと頼まれます。
まりこの知り合いとして紹介されたのは、ハレヤマと言う男でした。
古本屋の女
駅に向かって走っていると、ハレヤマは駅を通り越した先にある無人駅まで送ってくれるように津田に言います。用があるのはそこなのだと言うのでした。
そこに、社長から電話が入ります。
「アップルグリムにオクダイラという女性がいる。
デリヘルの面接の予定だったが、すっかり忘れてた。
面接は後日で、食事代を払って家まで送ってあげて」
そう言うと電話をきりました。
ハレヤマを無人駅まで送ると、ハレヤマは別の車に乗り換えました。別の車に乗っていたのは、顔は見えませんが女性でした。
そして、アップルグリムへ向かう津田。アップルグリムはファミリーレストランです。そこにいたのは、古本屋で本を売っていた女性でした。生活に困ってデリヘルをやるつもりです。女性も津田のことを覚えていたようです。
津田は社長に言われたように食事代を払い、車で家まで送っていきました。
今起きていること
しかし、この瞬間、とても重要な出来事がおきていました。
ただ、そのことを津田は知りません。
そのせいで、いつか「本通り裏」と関わりを持つ日がくることも、倉田健次郎の名前におびえる日がくることも、カナコ先輩を頼って東京の高円寺に逃げることも、バーテンとして働きながら「これ」を書いていることも知りません。
そして、無論、幸地秀吉とその家族の失踪事件も、その陰にハレヤマ青年がいることも知りません。
これが彼らの物語であり、同時に津田の物語であることも。
多くの人の人生を左右する現場に自分が立っていることも。
降りしきる雪の中で、三羽の鳩が今まさに飛び立ったと言うことも、津田はまだ知らない。
現状の整理
編集者のなほみが津田の働くバーにやってきました。
そして、物語の詳細を津田に聞きます。
「まりこは本気で惚れていた。まりこが惚れたハレヤマは、去年夏に郵便配達の途中で知り合った別の女と付き合っている」
去年はいつからの去年ですかと聞くなほみに、今からの去年だと言う津田。
「茜の父親はカケハタという名前の悪党だ。
5年前カケハタに弄ばれ、秀吉の妻・奈々美は妊娠した。
奈々美は秀吉と出会い、恋に落ちて結婚した。
カケハタは秀吉と奈々美が結婚する前に消息を絶った」
そう説明する津田になほみは、「一家失踪事件を解決するサスペンスなんですか?」と聞きます。
「それだけじゃ収まりそういない、もう一つでかいネタが登場する」
そういう津田になほみは、また書いちゃいけないことを書いているんじゃないかと聞きます。
前に津田が書いた小説は、書いたことが現実で、秘密を暴露されたと名誉毀損で訴えられました。それは、担当編集者としても、出版社としても困ります。
しかし、津田は「フィクションだ」と言うのでした。
閏年、春
房州書房は閉まっていました。不動産屋の女性がシャッターに貼り紙を貼っています。
そこに現れた津田。以前津田がピーターパンに似ていると言った「不動産屋の女」は、この女性でした。
房州書房の房州老人が亡くなり、津田に渡して欲しいと頼まれていたものを渡すために津田を呼び出したのでした。渡して欲しいと言われていたのは、鍵のかかったキャリーバックでした。
そして、この不動産屋の女性は、秀吉の娘の同級生のママで、秀吉の妻が体調悪い時に茜を預かってくれた女性でした。
「息子の同級生なんよ、その女の子。
ある日、娘の迎えに父親がきて、母親体調悪いっていうから娘を預かった。
それで、夜には母親が迎えにきて世間話したの。妊娠して旦那に伝えたって言ってた。
幸せなんだなって思ってたら、その晩を最後に一家が消えたんよ」
それを聞いた津田は、置いてあった古新聞をから、一家失踪の記事を探し見つけました。秀吉一家は、津田と会ったあの日の後、失踪していたのでした。
房州の遺品
房州老人が残したキャリーバックの鍵の番号がわかりません。
何度も何度も試しますが、やっぱり飽きませんでした。
諦めかけた時、思い出したことがありました。房州老人の妻の命日は、閏年の2月29日でした。
0229とセットすると、鍵は開きました。中から出てきたのは、津田が持っていたはずの「ピーターパンとウェンディ」と金3000万円の札束とバラになった3万円でした。
偽札
そのお金を使って髪を切った津田が、カフェで社長と待ち合わせしました。
「この1万円、栞の代わり?昨日の今日で悪趣味だよ」
店員のそう言われますが、津田は何のことかわかりませんでした。そこに、社長がやってきました。
「床屋のマエダ、偽札で連行された」
津田が髪を切ったのは、床屋のマエダでした。
社長が言うには、マエダのパチンコ狂の義理の姉が、マエダから金を借りてパチンコ屋に行った。しかし、借りた1万円は両替機に入らなかった。パチンコ屋の鑑別機に入れたら偽札だということになり、警察に通報したと言うのです。
そして、その床屋のマエダで髪を切ったのは3人。しかし、1万円札で払ったのは津田だけでした。
マエダは、警察にはどこの誰から手に入れたかわからんと突っぱねました。その後、「本通り裏」からも若いチンピラが2人きて、どこから手に入れたか聞かれました。それでも、マエダは口を割りませんでした。
倉田健次郎
「あの人。倉田健次郎が噛んでる」
社長は津田に対して、「あんたの死体がクリンセンターで焼かれて灰になったとしたら、それにもあの人が関わっている」という言い方で、倉田健次郎を紹介しました。
偽札をどこで手に入れたかは聞かないが、二度と使うなと社長は津田に釘を刺して帰っていきました。
津田は、駅の券売機にお金を入れてみました。そうすると、やはり、戻ってきました。持っていた1万円札も偽札でした。
津田が使ったのは、3000万円とは別にあったバラの3万円です。1枚は床屋で使い、あとの2枚を持っていました。
クリンセンター
「まりこをアカプルコに送ってくれ」
社長にそう頼まれた津田。まりこはしばらく見ていませんでした。
「ハレヤマという郵便局員はまりこの常連。
他の女と駆け落ちしたらしい。それも、一家失踪事件と同じ日」
そう聞かされ、ホテル「アカプルコ」にまりこを送ります。
「クリンセンターに持って行けば死体でも焼いてくれる」
というクリンセンターにハレヤマが残していった物を持って行って欲しいとまりこに頼まれます。
ハレヤマの荷物の中身は、ビデオカメラでした。そのビデオカメラにはSDカードが刺さっていて、津田はそのカードを持ち帰りました。
何が映っているのか気になる津田は、沼本からハンディカムを借ります。
その時「本通り裏の倉田健次郎って知ってるか?都市伝説じゃないのか?」と沼本に聞きます。
「誰か一人でも信じていれば、生きていると一緒」
そう沼本は言いました。
津田は一人になれる場所に行き、ハンディカムにSDカードを入れて中を見ます。
合せて100分ほどのグロテスクなハメ撮りでした。
ハレヤマ
ハレヤマが駆け落ちしたと言われている相手は、一家失踪の秀吉の妻・奈々美でした。
二人は週一の頻度で会っていました。
そして、奈々美はハレヤマの子供を妊娠しました。
「どうするつもり?」とハレヤマに聞かれ、奈々美は旦那に正直に言うと言うのでした。
旦那の秀吉とは、セックスレスになっています。しかし、今日帰ったら「する」と言うのです。
久々で記憶に残っている状態で、1カ月後に妊娠したと言えば疑うことはないはずだと奈々美は計画していました。
出版に向けて
「津田伸一は新作を書いています。読みました」
なほみは、編集長へ報告しました。しかし、編集長は信じていません。
「あいつは文壇を去ったんだ。この3年間どこからも出版されていない」
しかし、なほみはどうしても本にしたいと思っています。
「つだの筆力、衰えるどころか・・・」
編集長に売り込みますが、編集長はこりごりです。
「お前懲りてないのか?」
そう言われて、なほみは何も言えませんでした。
閏年、夏
「津田さん、心配していたことが現実になりそうや」
社長に呼び出された津田は、社長にそう言われました。
「偽札事件の後編というか、終盤や。このままじゃヤバい。
津田さんは、先月末で店を辞めたことになっている」
そう言って、退職金を津田に渡し、逃げるように社長は帰って行きました。
津田は、床屋のマエダで話しを聞きます。
マエダの主人に津田は、倉田健次郎がきたのかと聞きます。
「きた。髪を切りにきた」
倉田健次郎が津田のことを聞いたと言うのです。
「客の中に小説を書いている人はいないか?あ、書いてた人か」
そうマエダは聞かれ「他所から来た人なら」と答えました。
何事もなく髪を切り終わり、帰る時に倉田健次郎にマエダは聞きました。
「何か伝えることはありますか?その小説家がきたら」
しかし、倉田健次郎は「いや、なにも言うことはない」とだけ言って帰りました。
どうすればいい?
「直感だけど、血なまこになって探してるとか、殺気立ってるとかはない」
そういうマエダは、津田の話しを出したのは妙だが、津田さえいなくなれば終わりではないかと言うのです。
「どうしたらいい?」
そう聞く津田にマエダは、一枚の名刺を渡しました。それは、倉田健次郎がオーナーだという噂のバーの名刺でした。
「1杯だけ飲んで、この街を出るとそれとなく言って帰って来ればいい」
その後は、「2コ下のカナコ先輩」が、高円寺でオリビアというバーをやっているので、そこで働かないかというのでした。
スピン
津田はマエダに言われたバー・スピンに行きます。
店の近くで、沼本とばったり出会いました。沼本を付き合わせ、スピンに入って行きます。
スピンは、秀吉が店長の店でした。そして、スピンは「栞」という意味です。
それなので、お金を栞代わりにしていた津田のことを秀吉が失踪したことに絡めて「趣味が悪い」と沼本が言ったのでした。
地元では有名のようで、沼本は秀吉が店長であること、倉田がオーナーであることを知っていました。しかし、他所から来た津田は知りません。
そんな話をしながら店に入って行くと、声を掛けられます。
「秀吉に興味あるの?それともオーナーの方?」
声をかけてきたのは吟子と名乗る女性です。
吟子
「よく話してた、鳩がどうとか」
鳩?津田には何のことかわかりません。沼本は一緒にいますが放っておいて、津田は吟子と楽しく酒を飲んでいます。
「明日は旅立つんだ」
酔いながらも、マエダに言われたように津田はそう話しました。
しかし、沼本は聞き捨てなりません。
「旅立つってなに?」
津田にそう問いただしますが、酔った津田は「いろいろあってな、今生の別れになるかもな」と軽い感じで答えます。そして、津田は沼本に頼みごとをします。
「沼本、旅立つ前に頼みがあるんだ。
帰り、さっさと吟子と二人っきりにしてくれ」
津田のことを 気にしていた沼本の気持ちも知らないで、津田は吟子のことしか見えていませんでした。
つがいの鳩
「倉田健次郎って知ってる?」
酔っ払った津田が、吟子の部屋でそう聞きます。
「私とけんちゃんはね・・・・」
言葉はそこで跡切れ、甘い夜を過ごしました。
朝、吟子の部屋にチンピラがやってきて、インターフォンを鳴らします。
気づいた津田は、さっさと着替えて、何もなかったように帰ろうとします。
しかし、チンピラは玄関で待っていました。捕まってしまう津田。
吟子はチンピラの兄貴分の女だったようです。またボコボコにされる津田。
そして、津田は、苦し紛れに倉田の名前を出します。
「倉田さんのことで相談に乗ってもらっただけだ。
僕が持っているものは倉田さんが欲しがっているものだ」
チンピラが倉田に電話すると、倉田は「持ってこいって」と言っています。
「この小説と一緒にこれを渡してくれ。それで、小説家の方は忘れてくれって」
そう言うと、ピーターパンとウェンディと、それに挟んでいる2万円、あとキャリーバックに入った3000万円も一緒に渡しました。
去り際、「倉田さんからの伝言や」とチンピラに言われます。
「つがいの鳩が飛んでるのを見なかったか?」
確認作業
「これはフィクションだ」
そういう津田の言葉を確認するために、なほみは津田のいた地方都市にやってきました。
「床屋マエダ、あった。沼本、いた。女優倶楽部の社長、いた」
津田の書いた小説の内容は、ことごとく事実でした。
なほみは、バイト終わりの沼本に声をかけて、町を案内させます。
そして、連れていかれた秀吉の家は、売地になっていました。
「旦那さんはバーのマスターで、奥さんは地元の劇団の女優とかいう綺麗な人、4歳の娘がいた」
沼本が教えてくれます。次に連れていかれたのはクリーンセンターです。
「犬でも猫でも燃やしちゃう。人間の死体も黙って置いておけば燃やしてくれる」
全てが事実だったことをなほみは知りました。
吟子の男
津田は東京で、チンピラに追いかけられていました。
「富山でいらんことしたな」
そして捕まり、つるし上げられてしまいました。
「人の女に手をだしやがって」
吟子の男でした。乗って来た車には吟子も乗っています。
「津田ちゃんごめんね」
そう声をかけられても、この状況は回避できそうにありません。
その時、吟子の男の電話に倉田から連絡が入りました。
「命拾いしたな」
そう言うと、津田を置いて去っていきました。
寄付
「ネヴァーランドホームへ3000万円寄付」
突然やって来た施設の職員。身寄りのない子供のための施設に津田が寄付したことになっていました。
代理人を通じて寄付され、お金は銀行で確認してもらったと言います。
「寄付ってなかったことにできる?」
あの時チンピラに渡した3000万円が本物だとわかった津田は、何とか取り戻したいと思って聞いてみました。
「もし、そのようなことを本気でおっしゃるのであれば、それは財団にとっても一大事ですし、倉田様にも報告しなければいけません」
そう言われ、津田はビビってそのまま寄付してしまいました。
くらた様はお金が嫌いです。あんなものに踊られる人間は軽蔑するといつもおっしゃっていますから。
キャリーバックのお金は本物だったんですね。
津田が知っていること
偽札の1枚は、津田が床屋で使いました。あのバラでおかれていた3万円のうちの1枚です。残り2枚は、本に挟んで倉田に渡していました。
「つがいは?つがいの鳩は?」
なほみは、1万円札の裏に鳳凰がいるので、偽札だから鳩ではないかと推理します。
それにしても、倉田健次郎は高円寺のバーの場所を知っていました。だからこそ、施設の職員をバーによこすことができたのです。
「まだセーフになってないんじゃない?」
バーのママにそう言われますが、津田はもう関わっている部分はないと思っています。
「俺が知ってるのは大したことじゃないんだよ。
秀吉という男がいたこと、妻と4歳の娘がいたこと、娘が秀吉の娘じゃなかったということ。
秀吉が従業員から前借りを頼まれていたこと。妻が妊娠を告げたこと。妻が郵便局員と浮気してたこと。秀吉の店のオーナーが倉田だったということ」
津田は、その事実を元に想像して小説を書いています。
「今ある事実から考えてなにが自然か、そう考えればおのずと隠された事実が見えてくる」
鳩の道のり
「どうして、倉田が探していた偽札が、房州老人の手をへ津田さんのところにきたんです?」
津田はなほみにそう聞かれても、わかりません。ただ、想像はできます。
偽札の3万と3000万円は、ピーターパンの本と一緒に房州老人から遺産として渡されたものでした。
そして、そこから考える津田。
津田と夜カフェで会う前、秀吉は電話を3本しています。
1本は従業員から前借りの相談の電話。
もう1本は、荷物が届くと言う倉田からの電話。
最後の1本は、店に行けないという電話。
そして、倉田が言った荷物は「3万の偽札」で、従業員が前借りを準備していたと誤解して持って行ってしまいます。
その3万は友人の男に渡り、その男はデリヘルを呼んでいました。まりこへの支払いに使われたお金です。
津田は、その後、まりこから貸していたお金3万円を返してもらっています。
しかし、本に挟まれた3万円は、デリヘルの面接に来た女性の子供が間違って持って帰ってしまいました。
その面接の女性は、古本屋で津田に会っていました。そのため、津田に返してくれと房州老人に渡したのでした。そして、巡り巡って津田の手に房州老人の3000万円と、偽札の3万円が一緒に戻ることになったのでした。
奈々美が知らないこと
津田がバー・スピンにくると、秀吉はいません。
そして、預けていた荷物もありません。
倉田は秀吉に電話し、「鳩が囲いから出た」と告げました。
急いでバーにやって来た秀吉に倉田は聞きます。
「なにがあった?またあの女がなにかやらかしたのか?」
秀吉は「奈々美が妊娠した」と告げました。
「まったく、あの女は・・・あいつ知らないのか?」
何かを知らない秀吉の妻・奈々美。秀吉は言ってないようです。
倉田健次郎と秀吉
「秀吉、鳩が囲いを出たのはお前の過失だ」
倉田はそう言いますが、実際には秀吉を責めている感じはありません。
「諸悪の根源はあの女だ。お前のためにもあの女には消えてもらった方がクリーンになる」
しかし、秀吉の娘・茜はまだ4歳です。母親が必要な時期です。
「お前の人生を振り返って、肉親が必要だったか?」
秀吉と倉田は、小さい頃から一緒に施設で育ったように聞こえます。寝るところと食い物を与えられ、親がいなくとも何人もの子供が育ったといいます。
しかし、倉田の想いと秀吉の想いは違っていました。
「だからこそ、俺は家族が欲しい。奈々美は5年前のことに気づいてる。殺すことはなかった。今回は助けてやってほしい」
5年前、奈々美と秀吉は出会いました。奈々美は妊娠していて、DVにあっていました。そして、奈々美の男・カケハタは姿を消しました。そのことを言っています。
「あの男のおかげで、家族が増えるんだ、奇跡なんだよ」
秀吉は、津田が言った「奇跡」と言う言葉で現実を受け止めようとしていました。
事件
津田が働くバーのママは、地方紙を取り寄せていました。
「ダムの底から男女の遺体。神隠し事件との関連を調べている」
そう書いてある新聞を津田に見せます。
処理
「ハレヤマの子を孕んでおいて、秀吉の子だと言い張ったとは性悪女だな。
秀吉は子供が作れない体だ」
奈々美はハレヤマと一緒に拉致され、倉田にそう言われます。ハレヤマは倉田の手下のチンピラにボコボコにされています。
「5年前のことを知っている」
怖がりながらも、倉田にそう言う奈々美。しかし、倉田は顔色を変えません。
「あの時お前は、カケハタから逃げて秀吉に助けを求めたんじゃないのか。
カケハタに消えて欲しいと思ったんじゃないのか?
今度はハレヤマと秀吉、どっちに消えて欲しい?」
そう聞く倉田に奈々美は答えることができませんでした。
ハレヤマを助けようとする秀吉。その秀吉も一緒に殴られていました。
拍手
秀吉は、カフェでそうしたように、拍手をしました。気を取られるチンピラたち。
その隙にハレヤマが車に乗って逃げだします。
「もし子供達が信じてくれるならとピーターは子供達に叫びました。
手を叩いて下さい。ティンカーベルを殺さないでください」
「ピーターパンとウェンディ」には、そう書いてありました。それを、カフェで津田と話していたのです。
拍手することで妖精が死なないのなら、俺も救われるかもしれないと秀吉は思って手を叩いたのでした。
タイトル
「タイトルはどうしますか?」
津田の働くバーでなほみは、書き上げられた小説のタイトルを津田に聞きます。
しかし、津田はまだ気になっていたことがありました。小説の最後です。
「秀吉はカフェで会った小説家を覚えてると思うか?
覚えていて、訪ねてくることはありか?」
そう聞かれたなほみは、簡単に答えます。
「秀吉がくるとしたら用件は1つでしょう。約束のピーターパンの本を借りにくる」
でも、津田の手元に本はありません。
その時、バーのママが津田に封筒を渡します。
「これ、津田くんにってお客さんから。渡せばわかるって」
その封筒の中身は「ピーターパンとウェンディ」でした。
そのお客さんを探す津田。大通りで、見つけました。
秀吉でした。
その秀吉の姿を見て、津田はタイトルを決めました。
「鳩の撃退法」
感想
予備知識がない状態で見たので、「こんな話!?」と驚いたと言うのが第一印象です。
物語は、実際にあったことから推察して小説にしたものが、実は確信をついていたという話しです。
しかし、本当なのかどうかは、わからないまま終わっています。
それでも、ストーリーもそうですが、描き方が面白く、引き込まれました。
それにしても、3000万円、もったいなかったな。
たぶん、映画では描き切れていない部分があると思うので、原作も読んでみたいと思います。