ファスト映画 は、権利者の許可を得ず、映画を10分程度に編集して、結末まで見せる動画の事です。
映画を紹介しよう、そういう気持ちだったとしても、ファスト映画による損害ははかり知れません。
そんな第3話のネタバレです。
主な登場人物
石田硝子 有村架純
羽根岡佳男 中村倫也
潮綿郎 さだまさし
大庭蒼生 赤楚衛二
山田遼平 井之脇海
山田恭兵 でんでん
羽根岡優乃 MEGUMI
羽根岡泰助 イッセー尾形
第3話のストーリー
法テラス案件
石子が事務所に戻ってくると、羽男は外出の支度をしていました。
国選弁護人として法テラス(日本司法支援センター)からの弁護の依頼でした。これは、被告人が費用がなく弁護士を雇えない場合に、国が選んで付けるものです。選ばれた弁護士や被告人は、よほどのことがない限り断れません。
石子が気にするのは、報酬が安いというところでした。手を尽くそうとすれば、赤字になりかねません。
「どんな案件ですか?」
そう聞かれた羽男は「映画を盗んだ男の弁護」というのです。そして、それはネット上で話題になっている案件です。羽男は名前を売るチャンスだと考えています。
しかし、石子は「自分の売名に意識を向けると問題を起こしかねませんよ」と、相変わらず固いことを言っているのでした。
眼鏡
今回の接見には、羽男だけで行くのでした。
それは、パラリーガルは、残念ながら日本の法曹界では、何の資格もないという扱いです。そのため、接見に立ち会うことができません。そして、法廷で入れるのは、傍聴席までです。
「羽男さん、やる気だから大丈夫」
大庭がそう言って石子を安心させようとしますが、石子は不安です。
「だから不安です。事務所に迷惑をかけないか」
そして、石子は大庭にメモを見せます。それは、羽男が自分のブランディングのためにメモしたものでした。
「眼鏡をかける。天才っぽさ増すかも」
事件の概要
谷保川警察署の面会室で、羽男は接見します。
「お待たせしました。あなたを弁護を担当する。羽根岡と申します。いろいろ不安もあるでしょうが、信頼関係を築いていきましょう」
しかし、被告人の山田遼平は「はあ」と気のない返事をするだけでした。
事件の概要はこうです。
「山田遼平さんは映画監督を目指す23歳。
大学の映画サークルで自主映画を作り、自身の動画サイト山田ちゃんチャンネルにアップしていた。
ある日、見て面白かった映画をスタッフにも共有しようと、ダウンロードして編集し、10分ほどの長さにしたものを山田ちゃんチャンネルにメンバー限定の形で公開し始めた。それから度々、山田ちゃんチャンネルにアップしていたが、5カ月前誤って限定ではなく通常公開してしまった。
それが1日で1万再生され、数日後には20万回再生された。自主制作した映画とは比較にならないほどの反響で、反響のコメントも良く、チャンネル登録者数も一気に増えた。
そして、世の中の映画を結末まで見せる形の、いわゆるファスト映画を次々投稿した」
そしてある日、突然警察がきて逮捕されたのでした。アップしたのは、合計27本。そのうち9本を管理している、ジパングピクチャーから著作権法第119条第1項違反で告訴されたのです。
罪の意識
「現在アカウントも凍結されて、ご自身も逮捕されて、後悔してらっしゃると思うんですが」
羽男がそう言うと、遼平は「なんで?後悔って?え?」と言い出すのでした。
「僕は腹が立ってるだけです。ファスト映画の何が問題なんですか?
僕の動画は収益化していません。金儲けのためじゃないんです。よくないですか?
今は昔と違って中身のわからない有料コンテンツなんて誰も見ませんよ。映画館に行く人も減ってます。でも、僕の動画を見た人は映画を好きになったと言ってくれるんです。何がいけないんですか?」
一気に言われ、唖然としてしまう羽男。問題の根本は、罪の意識がないということでしょうか。
恭兵と遼平
蕎麦屋で食事をする石子と大庭と羽男。接見の結果を話しています。
「なんだよあいつ、無だよ。無反省。あーゆうの相手にするの、やなんだよな」
しかし、だからと言って、依頼を断る訳にもいきません。
「こいつだ。俺の好きな監督の映画もアップしてたからムカついてたんです」
大庭が好きな映画監督が山田恭兵。被疑者が山田遼平。名前が似ています。
恭兵監督は、70歳を過ぎた遅咲きの監督です。最近では、海外で賞を取ったりして評価されている監督です。そして、名前が似ているということもあって、被疑者もファンだと言っていました。
不起訴にするためには示談を纏めたいのですが、大手映画会社との示談は難しいようです。
蕎麦屋は、石子の父・潮の友人の塩崎の店でした。大きな器で運ばれてきて、更にはサービスで大盛りの天ぷらも付けてくれました。しかし、そのてんぷらは石子だけにサービスしたものです。塩崎の下心のサービスです。
示談交渉
訴えたジパングピクチャー映画会社に行って、石子と羽男は示談交渉をします。
「示談に応じていただけないかと。今回この件で、収益を手にしてないんですね」
羽男は何とか示談に持って行くように話しをしますが、全く受け入れられません。
「これは、お金の問題じゃないんですよ。ファスト映画という犯罪行為に司法の判断をちゃんと出してもらい。世間に認知してもらうことが告訴した目的です。示談には応じません」
現実世界でも問題になりましたが、広く問題を認識させ、司法の判断と言う判例が必要だと言うのです。そうしなければ、後から後からファスト映画が出てきて、収拾がつかなくなってしまいます。
口だけの反省
そして、起訴状が届きました。
「起訴された以上、執行猶予を目指すしか」
裁判で勝てる見込みはありません。だからこそ、実刑ではなく、執行猶予の判決を目指すことになります。しかし、そのためには被告人が反省していることが大前提です。現時点では、見込は薄そうです。
そして、羽男のSNSが「弁護するな」と炎上していました。話題になっている裁判を担当することで、名前を売りたかった羽男。しかし、予想外の方向で、名前が広まってしまっていました。
「これを収めるためにも、アイツに反省させてやる」
そう意気込む羽男ですが、反省するとは思っていません。
「本当に反省するかは関係ないのね。法廷で反省を口にすることが大事なの」
そんな羽男に対して、石子は固いことを言います。
「それでいいのでしょうか?形だけの反省では、その先の人生が・・・」
国選弁護は赤字になると嘆いていた石子ですが、父の影響もあるのか、本当は人権派の面があるのです。人々に寄り添って、困っている人の傘になるような弁護士。父親がのように、石子も気持ちは同じようです。
再びフリーズ
起訴されたことで、警察署から東京拘置所へ移された遼平。羽男は面会にきています。
「そういう意味でも、反省を口にすることが大事なんですよ。
想定問答を準備してきたので、覚えてもらますか?
映画を愛するあまり、行き過ぎてしまった。そういう路線でいきましょう」
そういう羽男に「はあ」と、いつものように気のない返事をする遼平。
そして、覚えた内容は法廷で暗唱されました。
「起訴状の内容に間違いはありません。私のせいで多くの方を傷つけ、迷惑をかけてしまったと思っています。とても軽率な行動だったと深く反省・・・」
そこまでは暗記した内容でしたが、遼平は納得できていませんでした。
「やっぱり何がいけないんですか?本当にわからないんです。予告画像と一緒でしょ?権利持ってないやつが作っても、結果的に映画の宣伝になってたらいいじゃないですか?名作映画が紹介できれば映画産業全体への貢献にもなります。いいことずくめですよ」
そんな遼平に対して、手が震える羽男。フリーズしてしまいました。
悪魔のTシャツ
裁判後、石子は羽男を空いたソファーに座らせて話しをします。
「お尋ねします。これが”俺のやり方”ですか?どういう指導なさったんです?
悪魔でした。遼平さんのTシャツ、おどろおどろしい悪魔でした。
あんなの裁判官の心象最悪ですよ。なんであんな服を?」
そんなことは羽男もわかっています。だからこそ「白シャツにジャケットがいいですよ」と、遼平に事前に話していました。しかし、映画の主人公が着ていたお気に入りのTシャツだと言って、遼平は着て出廷したのでした。
「起訴された著作権法違反は1件や2件じゃないので、被告人が態度を改めないと、執行猶予がつかないかも知れません。そうなれば、担当弁護士と事務所の看板に傷がつきますよ」
相変わらず上手く行かない羽男。以前の事務所でも、ことごとく失敗していました。
羽男の姉
「よーしお」
そう声をかけてきたのは、羽男の姉で検事をやっている羽根岡優乃でした。
「来週18日、開けといて。お父さんの誕生日会。判決期日が延期になったからできるって」
羽男の父は裁判官をやっています。前回、羽男に電話してきたのは、このことだったんですね。
そして、石子の存在に気付くと「事務所のかた?」と言って、優乃と石子は名刺交換しました。石子が「羽根岡先生には大変お世話になっております」と言うと、優乃は意味深長なことを言うのでした。
「えぇーそうですか?いろんなことちゃんと隠せてるのかな?」
それに対して羽男は、「なんだよ、それ」とだけ返していました。羽男自身は話していませんが、石子はフリーズすることも、前の事務所のことも知っています。
とばっちり
石子と羽男が事務所に戻ると、事務所では食事会と言ってカレーを作っていました。
「そうだ、法廷で遼平が開き直ったじゃないですか。それを見て、恭兵監督と勘違いして叩いてるひとがいて。監督の新作映画の公式Twitterに「こんなのが撮ってるの」「公開中止にさせよう」とか殺到してるんです」
現実世界でも、そう言う勘違いで文句を言ったり、営業妨害したりする人たちが一定数います。ネット記事のタイトルだけを見て批判する人も同罪です。
「残念な現実だな、バカが多すぎる」
羽男はそう言うのでした。
しかし、最悪のタイミングです。恭兵監督の新作映画は、明日公開です。
お誘いですか?
「監督の新作、明日からなんです。この近くでもやってて、レイトショーもあるんですけど」
勇気を出して大庭は石子を誘います。石子は冷静に「お誘いですか?」と返します。
「あ、はい。もし興味あればっていう、アレですけど。俺、映画館の会員なんで、一人分で二人行けます」
お金がかからないことを聞いて「じゃあ、行きます」と即答する石子。石子は恭兵監督にも興味が出てきていたところでした。
諦め
「何とかして下さいよ。早く釈放されて、恭兵監督の新作見たいんです」
羽男が接見にくると、能天気なことを言う遼平。
「その監督、今炎上してますよ。貴方と名前が似ているので、ファスト映画を投稿したと誤解され叩かれてているんです」
羽男は恭兵監督の現状を伝えます。しかし、遼平は信じません。
「まさか。僕を反省させるために嘘言ってません?
ファスト映画は喜ばれていたんです。叩く人なんて誰もいません」
勘違いも甚だしい遼平に愛想をつかす羽男。
「もう無理。もう接見には来ません。
どうかそのまま反省もせず、判決まで貫いて下さい。一度刑務所を味わうのもいいですね」
羽男の態度が変わったことに遼平は動揺します。
「弁護士がそういう態度取っていいの?」
しかし、もう羽男は諦めてしまいました。
「私はあなたの意向に従うだけですので。
諦めましょう。お互い。断れない関係で出会ってしまったことを。
では法廷で」
そう言って立ち去ってしまいました。
恭兵監督
「風評被害も甚だしいよ。そもそも、アイツを名誉棄損で訴えたりしないですか?監督の作品、あんな風にいじられて悔しくありません?」
恭兵監督の制作会社では、そんな話をしていました。しかし、恭兵監督は何もいいません。
「悔しいに決まってるでしょ。こんな小さな制作会社にそんな体力あると思う?」
恭兵監督を代弁するように事務所のスタッフがそう言います。大きな会社は裁判する体力がありますが、小さな会社ではそうもいきません。大きい会社が声を上げるというのは、小さい声が上げれない会社のためにもなるものなんですね。
初日
石子と大庭は、二人で映画を観に行きました。
「舞台挨拶もあったのに、寂しい客入りでしたね」
大庭は、映画の後に石子を食事に誘いたいと思っています。
「あ、この後どうします?この後、俺、予定ないんですけど。。。」
しかし、石子は聞いていません。映画館の近くのカフェで、恭兵監督を見つけていました。
「初日でこれは厳しいよ」
恭兵監督とスタッフは、カフェでそんな話をしていました。勘違いの誹謗中傷で、嫌なイメージがついてしまったのかもしれません。
「お話し中すみません。映画、すごく良かったです。2時間、あっという間でした。サインいただけますか?」
大庭は声をかけ、サインをもらいます。
「今、Twitterとかでいろいろ言われてますけど、ぜんぜん気にしないで下さい。俺らファンはずっと応援してますから」
そう恭兵監督を励まします。
「私は、自分を見つめ直す、いいきっかけかなっと思ってます。私、無駄とかあいまいな物を大事にしてて、そういう映画作ってるんですね。ファストと真逆というか。でも、社会がそれを求めていないなら、淘汰されていくだろうし」
監督はそう言って、事態を受け止めていることを話してくれました。
大庭さんのお家に一緒に行ってもいいですか?
恭兵監督と別れ、石子と大庭は無言で歩いていました。
「ああやって、冷静に受け止めてらっしゃると思うと、よけい悲しくなりますよね。あの人柄込みでファンになりました」
石子がそう言うと、大庭は嬉しくなりました。
「でしょ?いいんですよ、恭兵監督。飯でもいきません?」
しかし、食事は断られてしまいます。石子は帰って、恭兵監督の過去の作品をみたいと思っていました。
「でしたら、俺全部持ってるんで、貸します。貸します。
家で待っててください。取りに帰って、すぐ届けるんで」
そう言う大庭を止める石子。
「それはちょっと申し訳ないので、それじゃあ、大庭さんのお家に一緒に行ってもいいですか?」
家が汚いという大庭に「お部屋に上がる訳ではないので」と言う石子。大庭は、舞い上がって先走ってしまっていました。
新作
数日後、公開されたばかりの恭兵監督の新作映画のファスト映画が、ネット上で公開されていました。
「遼平の事案を真似したのかな?」
そう思うのですが、ネットではさらに誹謗中傷が溢れていました。
「売名行為か?」
「ひょっとして監督の自作自演?」
おおもとの動画は通報を受けて削除されたようですが、コピーされた動画は拡散されてしまっていました。
「なんでこんなことに。もしかしたら、打ち切られるかも」
恭兵監督の事務所でも、そんな話をしていました。今回の新作は、制作に10年かかっています。その10年を費やした結果が、これでした。
利益相反
大庭は怒っていました。
「誰の仕業か、調べましょうよ。監督の誤解をぬぐうために」
羽男は「放っておこう。依頼もないのに必要ない。そもそも依頼受けないし」と言うのでした。
恭兵監督は、羽男が担当している遼平の事件の被害者でもあります。そのため、利害が対立する両方の弁護を同じ事務所で担当するのは「利益相反」と言って、法律で禁止されています。
「じゃあ、このまま何もせず諦めろと言うんですか?」
大庭は悔しさで、食い下がります。しかし、なにもできる事はありません。そして、この新作のファスト映画を誰が作ったか突き止めても、遼平に執行猶予がつくわけではありません。
私のルール
屋上で酒を飲む石子。そこに父親の潮がやってきました。
「監督に何かできないのか悩んでるんならさ、他の事務所の弁護士さん紹介してあげたら?」
それは石子も考えてみました。
「それは頭に浮かびました。しかし、家には1銭も入りません。それなら、お父さんのやっていることとなんら変わらない。かといって、お金をいただくわけにもいかず」
そこで、潮は更に提案します。
「ねえ、広めてみたら?紹介することで事務所の評判が上がる。依頼が増えて売り上げが上がるかもしれないじゃん。
それに、被告人は恭兵監督のファンなんでしょ?恭兵監督を助けられたら、我々の弁護方針にも、耳を貸してくれるかも知れないよ」
そう言われて、石子は目の前が明るくなった気になりました。
「確かに、それなら事務所の利益になり、私のルールに反しません。ありがとうございます」
あいかわらず、父親との会話は敬語です。離れていた期間が長いからか、戸籍上の問題があるからなのか、まだわかりません。
誕生会
羽男の父親の誕生会を高級レストランで開催していました。と言っても、家族だけの食事会です。
「こうやって家族に祝ってもらえて嬉しいよ。ママはいつもニコニコだ。優乃の活躍にはいつも刺激を受けているよ。佳男には、いつも驚かせてもらっているよ。
どんな事務所なのか優乃に聞いた。まさか町弁になるとはね。茨の道を歩んでいるんだ、頭が下がる。佳男だったら、どんな事務所でも引くて数多だったはずだったろうに」
知っているのか知らないのか、過保護に息子を褒める父親。そう言われて、羽男は訂正します。
「父さん、前にも言ったように私は結果が残せずに辞めてくれと言われたんです。その噂がまわって・・・」
しかし、父親は聞いてくれません。
「そんなことはないよ。君ほど優秀な人間を欲しがらないはずはない。
君は、誰にも負けないよ。小さい頃から君の才能を目の当たりにしてきたんだよ。君は天才だよ。それは、今でも変わらない。君はできる子なんだよ」
そう言われ、羽男は返す言葉がありませんでした。
不器用
そして、食事会が終わると、姉・優乃に言われます。
「本当に不器用だよね、あんた。適当に話を合わせておけばいいじゃん。あの人は見たいものしか見ないし、聞きたいことしか聞かないんだから。わかってるでしょ?
あ、ねえねえ、反省の色ないみたいね。悪魔のTシャツを着たやつがひどかったって噂になってたよ。執行猶予着かないかもね。平気かな、それでも。裁判苦手なのにね」
姉の優しさもありますが、最後には嫌味を言う優乃。羽男は話しを聞かず、タクシーに乗せて帰らせるのでした。
石子の志望動機
帰宅後、カップラーメンを食べる羽男。食事会では、食べた気にならなかったようです。
そんな所に石子から電話がありました。
「山田監督が望むなら、別の事務所の弁護士を紹介してあげようかと。
問題がないか、お手数ですが遼平さんにも確認を」
羽男は問題ありませんが、遼平に聞くのは嫌だと言う羽男。
羽男は話しを逸らすように石子に質問します。
「ねえ、君はさ。なんでこの仕事始めようと思ったの?やっぱり父親の影響?」
羽男が聞いたのは、石子の志望動機でした。食事会の影響が大きかったようです。
「父の姿を見て興味を抱き、相談された方の心のトゲを抜くことだったり、被害にあわれた方、罪を犯した方の再出発をお手伝いすることも素敵だなと感じて。
もし躓いても、その方の人生は続いていくわけで。もう一度芽を出し、また大きくなれるよう手助けできることが、弁護士に憧れた理由です。弁護士じゃないですけど」
石子は、素直に話しました。
「やっぱり、本質はそうなんじゃん。お金大好きキャラは作ってるんだね。所長と言ってること一緒だもんね」
羽男にそう言われると、石子は頑なに否定します。
「父とは違います。わたくし、金の亡者です。あはは」
そして、羽男は言うのでした。
「さっきの話し。仕方ないから聞いてあげようかな?そうして欲しいんでしょ?人に頼むときはなんていうのかな?」
石子は素直に「どうかお願い致します」と言うのでした。
反省させるのを諦めない
石子は、恭兵監督の事務所へ行くと、他の弁護士を紹介しました。しかし、恭兵監督の事務所もカツカツだと、懐事情を話してくれました。そんなんこともあるかと、石子が紹介したのは人権派の弁護士でした。
「信頼できる方で、費用の相談にものってくれます」
その話しを聞いた大庭は、自分の事のように喜んでいました。
「お疲れ様です。ファンを代表してありがとうございます」
しかし、石子も恭兵監督のファンになっていました。だからこそ、何かできることがないかと、あんなに悩んだのでした。大庭は恭兵監督について話したそうにしていましたが、潮に頼まれて裁判所に行く用事がありました。
大庭に続いて、羽男も出かけようとしています。
「また接見。反省させるのを諦めないでみることにした。炎上鎮めるためだけじゃなく」
そう言って出かけようとしたとき、パソコン画面に恭兵監督のファスト映画が流されているのを目にする羽男。そして、再生されていた動画を止めるように言うのでした。
「このカット・・・」
犯人の目星
映画館で、自身の新作映画を見る恭兵監督。しかし、相変わらず客入りはまばらでした。
「こちらで編集をなさるんですか?」
石子は恭兵監督に会いに行きました。
「基本的に編集所ですが、ものによっては。それで、ご用件は?」
石子は羽男が再生を止めた理由を聞いて、石子がきたのでした。
「新作映画のファスト映画を投稿をした人物に、ひょっとして心当たりがあるのではないですか?」
そう言われて黙る恭兵監督。石子は、ファスト映画に映画の本編にはなかったカットがあると言うのです。それは、羽男の写真のように記憶する能力のおかげで、わかったことでした。
「つまり、ファスト映画では、使われていないカットが使われている。それを監督が気づいていないはずはありません。未使用のカットが手に入る人物は限られると思うのですが?」
恭兵監督は、事務所から石子を連れ出し、公園で話しをすることにしました。
身内の恥
「隣の部屋にいた彼、モロボシという映画愛の濃い男です。この公園で待ち伏せされて助監督にと頼み込まれたのが最初でした。
動画アップしたの、きっと彼です。公開初日の夜、客入りが良くないのを飲んだ時に愚痴ってて。それで、ファスト映画でもなんでもやって、宣伝すべきだって吐き捨て、帰ったんです。ファスト映画が公開されたのは、その直後のことでしたから。
作品のためにしたことが、結果として最悪な結果になった。それを彼がどう受け止めてるかわかりません。ただ、映画の評判は全て私の責任です。
あの動画だけで興行が失敗したとは思いません。やっぱり弁護士さんキャンセルできませんか?身内の恥は身内で解決したいんです」
そう言うと、恭兵監督は帰っていきました。
罪と向き合う方法
「監督の映画を見た話をしようと思ったら、何言っても無駄ですよって聞く耳持たずで。何も受け入れてくれない相手と対峙するのは苦しいよ。被告人質問は明日。打つ手なし。絶望的だな」
羽男から接見の報告を受ける石子。
「これで執行猶予がつかなかったら有名になりますよ。悪い意味で」
石子にそう言われますが、羽男もそれはわかっています。
「私も考えてみたんです。罪と向き合ってもらうにはどうしたらいいのか?これしかないと思うんです。聞きたいですか?」
先日の仕返しをする石子。
「人にものを尋ねる時はなんていうんですか?」
羽男は言いにくそうに「よろしくお願いします」と言っていました。
ファスト映画の感想
羽男は、石子からの聞いた方法で説得するために、また接見に来ていました。
「ひとつ、申し上げ忘れていたことがありまして。
えっと、明日ようの想定問答は覚えてもらいました?」
しかし、遼平は「必要ないでーす。自分の思っていることは、自分の言葉で伝えるので」と、想定問答は覚える気がありません。
「じゃあ、最後の最後に、これだけ見てもらえませんか?
こちら、恭兵監督の最新作のファスト映画です。貴方が楽しみにしている。この動画がネットに上がっていて、問題になっています」
そうやってパソコンを使って遼平に動画を見せます。
「犯人って?ふざけてますよ、そいつ。こんなレベルの低いファスト映画なんて。
恭兵監督の作品は、繊細な心理描写と、どこに連れていかれるかわからないドキドキ感が持ち味なんです。それをこんな風に編集しちゃったら、その良さが伝わりません。これじゃあ、本編みる楽しみを奪われてしまったと同然ですよ」
遼平はそう言いますが、遼平がやったことも同じことです。しかし、遼平は認めません。
「僕のファスト映画には、映画を見たくなったとコメントがきてたんです」
酷評
羽男は、石子と打ち合わせをして、どう話すかプランを決めていました。そのプランが壊れてしまうと、フリーズしてしまうのですが。とにかく、プラン通りに話します。
「見たくなったって言って、本当にみた人がどれぐらいいるんですかね?動画を見て、もういいやって思う人の方が多いんじゃないですか?
メリットよりデメリットが大きすぎる。それに制作者が望んでいないなら、それは間違った行為なんです。いくら良かれと思ってやったとしても。残念ですが、恭兵監督の新作、打ち切りになったそうです」
打ち切りになったのは、やはり来場者数が少なかったのが原因のようです。
「ネット上の映画レビューの影響のあるんですかね?観客が少ない割にレビューサイトへの書き込みが多いんですよ。それも酷評ばかり。少し調べてみたところ、炎上報道を見て映画を見ずに書き込んでいる人と、ファスト映画を見てコメントをしている人がほとんどでした」
罪深いもの
遼平は、「動画だけで判断しているんですか?」と羽男に質問します。
「そうでしょうね。映画をみたつもりでいるんでしょう。10分の動画だけで見た気になって満足する。ネット記事の見出しだけで知った気になって、なんでも叩く。中身まで見ようとは思わない。だって、時間がもったいないから。
あなたを褒めた人間だって、誰も責任を取りはしない。それどころか、10年がかりの作品を一瞬でぶっつぶした。山田監督は杉並の自宅を担保に2200万円をつくり、ほうぼうに頭を下げて1300万円をつくり、制作費の半分を自費で賄っているそうです。残りの半分は制作会社が出しているそうです。俳優さんにも頭を下げて、格安の値段で出演してもらったそうです。それがこんなことになり、映画に参加した全ての人を苦しめた。
あなたが加担したファストな世界がどれほど罪深いものか、わかっていただけましたか?以上です」
判決
第二回公判。裁判官から「最後に言っておきたいことはありますか?」と遼平に聞きます。
「はい。今更ですけど、なんてことしちゃったんだろうって思ってます。映画のためだと思っていたけど、そんなことぜんぜんなかったです。でも、もし許されるなら、また映画に関わって生きていきたいです」
遼平は羽男の話しを理解し、そして深く反省しました。そして、自分の言葉で謝罪したのでした。
「判決を言い渡す。
主文、被告人を懲役1年2月に処す。この刑が確定した日から3年間、その刑の執行を猶予する」
執行猶予付きの判決が出ました。
未熟で申し訳ない
数日後、遼平は釈放されました。
「良かった。執行猶予ついて良かった」
本音を吐き出す羽男。そして、見たかった映画をファスト映画で見せてしまったことを、遼平に謝ります。
「いえ、あれで目が覚めたんで」
そう言うと、付き合って欲しい所があると、遼平は言うのでした。
遼平が行きたかったところは、恭兵監督のところでした。監督がくると、土下座する遼平。
「申し訳ありませんでした。許してもらえるとは思っていませんが、どうしても直接謝りたくて」
そういう遼平に対して、近づき、肩を叩く恭兵監督。
「私、筆も遅く、考えすぎるから、時間が必要になるんですよ。一般的なヒットとも縁遠いんですよ。金も集まらず、最低7年、今回は10年かかりました。気づけば65歳。また10年かかるなら、もう映画は撮れないかも知れない。
未熟で申し訳ない。どんなに謝罪されても受け入れることはできません」
それだけ言うと、恭兵監督は立ち去りました。
有能
「今回、誰かの力になれたんでしょうか?」
石子はそう羽男に問いかけます。
「さあ。この先の抑止力にはなったんじゃない?あとは、今後の山田遼平くん次第かな」
そして、見上げた空は晴天。もう夏が来ています。羽男は、事務所を移ったりして、空を見上げる余裕はありませんでした。
「どうです?慣れました?」
石子がそう聞くと、羽男は言います。
「どうかな?パラリーガルの頭が固くてね。
でも、感謝はしてる。ちょっと、よ。ちょっと助けてもらってるから」
羽男なりの方法で、石子に感謝を伝えました。
「もう必要ないんじゃないですか?天才ぶる。羽根岡先生、十分有能だと感じています」
石子は石子の方法で、羽男を認めていました。
「いいんだよ。これが俺のブランディングだ」
そう言って、羽男は眼鏡をかけるのでした。
デジタルタトゥー
「拡散されてますよ、被告人」
大庭は遼平の送検の時の画像が、SNSで拡散されているのを見つけました。
「今は法の裁きとは別に罰せられるんだな」
潮はそう言います。
「残り続けるのは、傷つけられた方もです。勘違いして恭兵監督を叩いた人のコメントも残り、監督は誤解され続けます」
石子は悲し気にそう言うのでした。
「まさにデジタルタトゥーだね。一度拡散された情報って消しきれないからな」
そして、恭兵監督は、ファスト映画を公開したと告白したモロボシを解雇しました。ただ、訴えませんでした。それは、愛情なのかもしれません。訴えることで、同じようにデジタルタトゥーとして残ってしまうのを防いだのか、身内の恥だと隠そうとしたのか、わかりません。
最後に
石子と羽男のコンビも、良い感じになってきたように思います。
そして、お互いを思いあっている感じも出てきました。しかし、まだ信頼であって、恋愛的な感情ではなさそうです。
次回は、最近街中でよく見る「電動キックボード」のひき逃げ事件です。
楽しみです。