空を飛びたい は第5週のサブタイトルです。
由良のケガでパイロットを目指すことにした舞。しかし、設計者・刈谷は辞めてしまいました。
そんな中、貴司の苦悩、五島のその後も知ることができた今週です。
そんな第5週のまとめです。
主な登場人物
岩倉舞 福原遥 航空工学を学ぶ大学生
梅津貴司 赤楚衛二 舞の幼馴染、看護学生
望月久留美 山下美月 舞の幼馴染、システムエンジニア
刈谷博文 高杉真宙 サークルの先輩、飛行機設計
由良冬子 吉谷彩子 サークルの先輩、パイロット
鶴田葵 足立英 サークルの先輩、代表
才津祥子 高畑淳子 舞の祖母でめぐみの母
岩倉浩太 高橋克典 舞の父
岩倉めぐみ 永作博美 舞の母
岩倉悠人 横山裕 舞の兄、東大生
八木巌 又吉直樹 古本屋デラシネ店主
梅津勝 山口智充 貴司の父。浩太の幼馴染のお好み焼き屋
梅津雪乃 くわらたりえ 貴司の母。勝の妻
笠巻久之 古館寛治 ネジ工場の従業員
望月佳晴 松尾諭 久留美の父。元ラガーマン
第5週のストーリー
大変やからこそ
スワン号を直して、予定通り記録飛行をやりたいと言う鶴田の気持ちを聞いて、刈谷は引退すると出て行ってしまいました。
舞は、パイロットになることをお母ちゃんに相談しますが、お母ちゃんは心配していました。
それでも、舞はやっぱりパイロットをやりたいという気持ちに変わりはありませんでした。鶴谷にその思いを伝えました。
「パイロットやりたいと言ってくれた、その気持ちは嬉しい。けどな、そない簡単にできるものちゃうねん」
もちろん、舞は簡単にできるとは思っていません。毎日、由良が必死にトレーニングして、減量をしていたことを知っています。
鶴田は、舞をトレーニング用のイスに座らせました。舞が足で漕いでみますが、かなり重いものでした。
「重いやろ、負荷210ワットはスワン号の設計値や。何分漕げるかやってみい」
しかし、舞はたったの3分漕ぐのがやっとでした。
「210ワットはキツイやろ。急な坂道を座り漕ぎですいすい上っているペースやからな。けどな、由良は琵琶湖の上を210ワットで1時間半漕ぐつもりやった」
そう言って鶴田は、舞に諦めるように言うのでした。しかし、舞の気持ちは変わりません。
「けど、大変やからこそ、挑戦したいんです。みんなで作ったスワン号、私が飛ばしたいんです」
鶴田は時間をくれと言うのでした。
値切ろうか
舞は久留美と一緒に、トレーニングで乗る自転車を見に来ました。新品のロードバイクは高級品です。715,000円するものがありました。
「2年で・・・月3万・・・」
ローンで購入するつもりですが、月3万円の支払いは厳しいのでした。でも、お父ちゃんにねだったら買ってくれそうな値段です。
そんな時、中古のロードバイクを見つけます。値段は128,000円。なにより、色味がかわいいと、舞は気に入ります。
「値段はあんまかわいくないな」
しっかり者の久留美は、大阪のおばちゃんっぽい感想を言うのでした。そして、「もうちょっと値切ろうか?」と言うのでした。
「そんなのできるの?」
舞には難しいかも知れませんが、久留美は楽しそうに引き受けました。
「できる、任せとき」
説得
舞は、家に帰ると冷蔵庫を見てみます。
「由良先輩、何食べてたっけ。サラダと豆腐とササミと・・・」
そこにお母ちゃんが帰ってきました。舞は冷蔵庫を閉めると、気合を入れてお母ちゃんを待ち受けます。
「変な自転車みたいな。どないしたん?」
お母ちゃんにそう聞かれ、舞は答えます。
「あの自転車な、購てん。トレーニングのため。お母ちゃん、私人力飛行機のパイロットやりたいねん」
一度は心配された舞ですが、お母ちゃんを説得しなければなりません。小さい頃の舞は、自分の気持ちを上手く話せず、熱を出していました。しかし、五島でおばあちゃんと一緒に暮らすことで、自分の気持ちを言えるようになったのです。それから10年。舞は成長しています。
そして、スケッチブックに舞が書いたスワン号の絵を見せました。
「私な、由良先輩のこと、かっこええなって勝手に憧れてた。せやけど、憧れるだけやなくて、自分でやってみたい」
お母ちゃんは舞の気持ちを聞いて、頭ごなしに否定するようなことはしません。心配ではありますが、舞を信じることにしました。
「そうなん。。。わかった。。。」
渋々ではありますが、お母ちゃんに許してもらいました。
お父ちゃんには、お母ちゃんが話しをしてくれていました。
賛成
鶴田は由良の病室へ行き、舞がパイロットになると言い出したことを伝えます。
「私、本気で目指してたんです。女性の新記録。記録を狙える人にスワン号飛ばして欲しいです」
鶴田は「自転車部にあたってみようか」と言いますが、由良の真意は違いました。
「いや、記録を狙えるとしたら、それは岩倉です。スワン号作った人の思いを知らん人に記録は出せへんと思います」
その由良の言葉を聞いて、鶴田は残ったサークルのメンバーを集めました。
舞の立候補を聞いて、みんなは口々に舞を説得しようとします。しかし、舞の気持ちは変わりません。
「危険があるのはわかってます。全力で体も鍛えます。私、どないしてもスワン号、飛ばしたいんです」
そして、舞の気持ちに、いつもは無口な空山が「賛成!」と大声で叫びました。永遠の三回生・空山にとっては、最後の人力飛行機です。飛ばしたい気持ちは、誰よりも強いのでした。
多数決を取ると、舞の「飛行機愛」を知っているメンバー達は、全員賛成してくれました。
あとは、刈谷が戻って来てくれれば、飛ばすことができるはずです。
間に合う訳がなかろう
舞は、刈谷に会いに行きました。
「お久しぶりです。航空工学の講義ですか?」
そう舞が声をかけると、刈谷は「バート・ルータン(アメリカの航空機設計者)の背中は遠かよ」と言うのでした。
そして、本題に入ります。
「私、パイロットやることになりました」
舞がそう言うと、刈谷は反対します。あんなにトレーニングした由良でさえ失敗したのにと言うのでした。
「昨日、190ワットで10分漕げるようになりました。最初よりは・・・」
舞がそう言いますが、刈谷は食い気味で否定します。
「全然ダメたい。間に合う訳ないやろ、2ヶ月しかなかとよ」
1回生復帰
舞はトレーニングをし、他のみんなはスワン号の修理をしています。
そこに刈谷が辞めた時に一緒に辞めた1回生2人が戻ってきました。
「岩倉がパイロットやるってほんまですか?」
鶴田は2人優しく話します。
「うん、せやからあないして頑張ってる。手伝うか?」
そう言われ、2人も一緒にスワン号を修理することにしました。
そして、舞はトレーニングを終えると、2人が戻ってきたのを知りました。
「もうちょっと頑張ります」
嬉しさもあって、舞はトレーニングに励むのでした。
お父ちゃんの熱意
舞はトレーニングも兼ねて、自転車で大学へ行くところでした。
そこにお父ちゃんが、スーツ姿で出てきました。舞がお父ちゃんにどこに行くのかと尋ねます。
「工場見学や。人工衛星に関わってる会社、見せてもらえることになったんや。チャレンジしてる会社がどんなんか目に焼き付けてくるわ」
そう言うと、お父ちゃんは楽しそうに出かけていきました。
最初は、舞の兄・悠人に言われた言葉で火が付いた気持ちですが、お父ちゃんの熱意は変わっていませんでした。
身体測定
鶴田は刈谷に戻るよう説得しましたが、戻る気はないと言われてしまいました。スワン号を直すことはできますが、パイロットが変わった今、直すだけでは済みません。
「俺がやる。一からは難しいけど、調整ならできる」
そう言ったのは玉本でした。設計を大きく変えず、舞の体格に合わせた調整にとどめる方針にしました。
そして、そのためにも舞の身体測定が必要でした。
「由良 身長155.0cm、体重44.1kg、肩幅37.3cm、股下68.0cm」
「岩倉 身長159.0cm、体重49.0kg」
由良と舞の身長は4cm差ありました。設計の変更を検討している間、舞はトレーニングに出かけます。
舞がトレーニングする姿を見かける刈谷の姿がありました。そして、その時、鶴田から刈谷に電話がかかってきましたが、刈谷は出ませんでした。
コツコツと
舞が家に帰ってくると、お父ちゃんは玄関で靴を磨いていました。
「工場見学、どうやった」
舞がそう声を掛けると、お父ちゃんは楽しそうに言うのでした。
「すごかった。部品に要求される精度が高いから、工場の環境もぜんぜんレベルがちごててな。大学の先生と一緒に研究したり、新しい物作ろうという熱意がすごい」
そして、コツコツと一歩ずつ進んだら、山の山頂に着くと言うのでした。
それを聞いた舞は、自分もコツコツトレーニングを続けることを改めて決意するのでした。
由良と刈谷
舞が由良の病院にお見舞いに行くと、病室では刈谷が由良に謝っていました。
「許してくれんね。事故は俺のせいたい。俺が尾翼を大きくしすぎたせい」
しかし、由良は「もっと上手い操縦ができたらよかったんです」と、刈谷のせいではないと言います。
舞は、その会話を病室の外で聞いていました。
刈谷が出てくると、舞は刈谷に声をかけます。
「事故、自分のせいだと思ってるんですか?せやから、怖なったんですか?」
舞にそう言われ、刈谷は舞と話すことにしました。
「確かに、怖くなったとかもな。人力飛行機と言うのは人を乗せる飛行機たい。責任が重か」
鶴田のせい
しかし、その責任の重い設計をやろうと思った刈谷。それは、鶴田のせいだと言うのでした。
「入学してすぐ授業で一緒になった。飛行機の設計をしたかって言ったら、すぐ”なにわバードマン”に引っ張って行かれた。部室に言ったら、吹けば飛ぶような飛行機を作ってて、俺が作りたいのは180トンの旅客機たい。あいつは、うまかこと人ば巻き込むからな」
そんな刈谷は、1回生末にも辞めていたのでした。しかし、刈谷の下宿まで来て鶴田が頼み込んだと言うのです。
「俺が乗る飛行機はお前に設計してもらいたいって。それが去年の飛行機たい。あいつをケガさせる訳にいかんやろ。神経使って設計して、丸一年かかったとよ。安全な飛行機作ろうと思ったら、それぐらいかかるとよ。たった2ヶ月で、スワン号を修理しながらパイロットも変えるとか、俺は嫌たい」
刈谷のパイロットを大切に思う気持ちはわかりました。舞は受け入れるしかありません。
ただ、サークル内の雰囲気が悪い理由を刈谷に伝えると、刈谷の顔色が変わりました。
「スワン号の重心の問題です。イスの位置変えたら重心変わるから、プロペラとペダルの新しい位置をめぐって・・・」
舞がそう伝えると、刈谷は部室へと急ぐのでした。
玉本と刈谷
刈谷が部室にやってきました。
「おい!お前なにしようとや。なんで設計いじるとや。素人の設計で、大事な仲間乗せて飛ばすのか?」
しかし、玉本は玉本なりに努力していたのです。
「大事な仲間やからやろ。窮屈な飛行機で飛んでほしくないんや。お前から見たら素人やろうけど、1回生の頃から勉強してたんや。お前がいつ辞めるかもしれへんからな。急に設計担当がおらんくなっても、みんなが困らんように勉強してたんや」
そして、その二人の間に鶴田が入ります。
「玉本はちゃんと考えてくれてる。お前から見たら、物足りないかもしれないがな」
その言葉を聞いて、刈谷は素直に「すまん」と謝りました。
そして、玉本は刈谷に飛行機の設計図を押し付けました。
「俺の設計でも岩倉は飛べるはずや。それは理論上のことや。実際飛んで、確実に記録狙うんなら、お前の設計じゃなきゃダメだ」
鶴田も「刈谷、戻ってきてくれ」と言うと、刈谷は観念しました。
「お前は、俺を何回連れ戻すつもりや。1日たい。1日で書き直すけん。スワン号、ど素人のパイロットでも記録作れる飛行機にしてやる」
その刈谷の言葉に、部員達のテンションが上がり、ひとつにまとまるのでした。
大変な目標
舞はとにかく、トレーニング続けるしかありません。
ロードバイクでのトレーニングから帰ってくると、部室で刈谷に紙を渡されます。
「目標たい。記録飛行までに体重を5kg落として欲しいっちゃ。あと、190ワットで50分、漕げる体力ばつけてくれんね」
舞は「はい」と答えましたが、体重を減らして体力をつけるのは、口で言うのは簡単ですが大変です。
しかし、みんなの期待を背負って飛ぶには必要なことでした。
舞の食事とトレーニング
舞は朝、目覚まし時計で起きるとすぐに体重計に乗ります。
そして、ノートに朝の体重を書き込むと、朝食です。食事は低カロリー高タンパクに拘って食べています。
そして、片道20㎞の通学は貴重なトレーニングの時間です。さらに、大学に着いてからもトレーニングは続のです。
昼休みも低カロリーで高たんぱくの豆を食べて、昼ご飯は一瞬で終わってしまいました。
その後の五島
舞は、五島のおばあちゃんに電話しました。
そして、人力飛行機のパイロットになることを伝えました。
おばあちゃんは、知り合いのさくらが、夢だったカフェを無事にオープンしたことを教えてくれました。
「今からジャムば届にいってくるけん、舞にも送ってやっけんね、待っとけよー」
ジャムは糖質的に食べれない可能性が高いのですが、それは言えませんでした。そして、一緒にカフェをやるつもりだった遠距離恋愛の彼のことは触れられませんでした。
おばあちゃんはジャムを作って、車でさくらの「みじょカフェ」へ行きました。五島の言葉で「みじょか」はカワイイという意味です。
そこに船大工の木戸もやってきました。船大工の後継者は、まだ決まっていないようです。木戸の息子たちは会社を辞める気はないと話していました。そこで候補に上がったのは、一太です。中学の時は入り浸ってた一太は、高専卒業したら跡取りにすればいいという話しになっていました。
そのおばあちゃんのジャムが舞の家に届くと、お父ちゃんとお母ちゃんが美味しそうに食べています。
「祥子ばんばのジャム」
しかし、舞は食べないと一度は断りますが、誘惑に負けて「ちょっとだけ」と言って食べていました。体重に影響がないといいのですが。
会社のスローガン
貴司が舞の家の会社の事務所で作業していました。
「ごめんな、忙しいのに来てもらて」
お母ちゃんは貴司にお茶を準備しています。
「いや、ありがたいです。営業よりHP立ち上げる方が楽しいですし」
そう言ってできた会社のHPにお父ちゃんが考えたスローガンが載っています。
「小さなネジの、大きな夢」
貴司は素直に「ええスローガンや」と褒めるのでした。お母ちゃんは、もっと長いスローガンにしようと思っていたことを貴司に伝えます。
「けど、この方がええと思います。短歌とか俳句もそうやけど、ぎょさん言葉使うより、短い方がかえって気持ち伝わるし」
貴司にそう言われ、お母ちゃんは嬉しそうです。しかし、そんな貴司はちょっとお疲れの様子でした。
油と炭水化物抜きのネギ焼き
舞は、トレーニングの傍ら、久留美と一緒にカフェ「ノーサイド」で週に2日はアルバイトをしています。
舞は、ケーキを運ぶと、空腹でお腹が鳴ってしまいました。
そんな時、貴司がバイト先にやってきました。久留美は、貴司が元気がないのに気づきます。二人は貴司を夕飯に誘いました。
貴司が店をでた後、舞は貴司が落としていったナプキンを拾いました。
夜、夕飯は貴司の家のお好み焼き屋です。ダイエット中の舞は、食べられそうなものを探します。
「おばちゃん、油と炭水化物抜きのネギ焼きできる?」
舞がそう聞くと、貴司の母・雪乃は舞に言います。
「舞ちゃん、それやったら、ネギかじった方が早いで」
貴司の詩
そんな所に貴司が帰ってきました。
結局舞は、特製ネギ焼きを注文しました。粉にプロテイン混ぜたネギ焼きです。味の保証はされませんでしたが、舞は嬉しそうに食べます。
そして、昼間ノーサイドで落としたナプキンを貴司に返します。そこには、貴司が書いた詩が書かれていました。
「ひからびた犬」
それを見た久留美は「こわっ」と言うのでした。
貴司は、「ひからびた犬」は自分のことだと言うのでした。
「今僕な、営業成績最低やねん。会社にはノルマがあってな、僕だけクリアできへんくって、いつもめっちゃ怒られんねん。でも、八木のおっちゃんに言われてん、それでええって。息ができへんぐらいの時に生まれるのが詩や。もがいてたらええんや。せやから、もがきながら、詩書いてみようかと思ってんねん」
その言葉を聞いて、貴司を励まそうとした舞は、自分が励まされた気持ちになりました。もがいていたら、良いものができる、そういう感じでしょうか。
体力測定
記録飛行まであと1月。大学が休みに入って、舞のトレーニングはますます苛酷になりました。しかし、体重は思ったように減ってはくれません。
そんな中、舞の体力測定が行われました。
人力飛行機はパイロットの力だけで飛びます。ペダルを漕ぐと、駆動系を伝わって行き、プロペラを回します。プロペラの回転が推力を生み、飛行機を前に進ませます。
飛行機を浮かすのに必要な力を出力といい、ワットで表します。190ワットは、急な斜面で自転車を全力で漕ぎ続けるしんどさです。
しかし、舞が今出せたのは、190ワットで29分が限界でした。
「もう少しだけど、ダメたい」
刈谷はそうつぶやきました。
記録をだすためには15.44㎞飛ばす必要があります(アメリカのルイス・マッコーリンが記録した女性の閉回路飛行距離)。それは、190ワットで50分漕ぎ続けないと到達しません。しかし、190ワットで29分では、記録はでません。
記録にこだわるために
舞の5kg減量の目標は、あと1.1kgまで迫っています。しかし、今スランプで100グラム減ったと思ったら、次の日200グラム増えてる状態です。
舞は、頑張って50分漕げる体力をつけると言います。しかし、刈谷は現実的です。
「客観的に見て、それは難しいやろ。190ワットから180ワットに変更する」
いろいろな意見がでましたが、期待の速度を遅くして、長い時間飛ぶことを選びました。
そのために尾翼も主翼の取り付け角度も変更です。
「けど、それで岩倉が少し楽になるんや。みんなでもうひと踏ん張りせえへんか」
鶴田の言葉にみんなは納得して作業にかかります。
「わるかね。記録にはこだわるけん、機体の速度が遅くなって、岩倉の漕ぐ時間が増えるんちゃ。50分から60分に」
舞も練習続けます。そして、夜に体重を計ると、あと1kgになっていました。
由良先輩
舞は、朝食はプロテインだけを飲んで、すぐに練習に臨みます。
しかし、180ワットで41分が限界です。
「あかん、ぜんぜんあかん」
舞が愕然としているところに由良が、松葉杖をついてやってきました。足の骨折も良くなっていて、もうすぐギブス取れるようです。
「頑張ってるんやな。1ヶ月でだいぶ変わったわ」
由良にそう声をかけてもらいますが、舞は落ち込んでいまいた。
「それが、思ったよりできへんくて。やれること、全部やってるつもりなんですけど。すいません、由良先輩はこんな泣き言いっぺんも言わへんかったのに」
ついつい、由良に愚痴をこぼしてしまいました。そんな舞を見た由良は、舞を誘うのでした。
「岩倉、明日、琵琶湖いけへんか?」
舞の重圧
舞はロードバイクで走り、由良は鶴田の運転で車で伴走します。
「高い位置から踏み込め!気持ちで持って行け!」
由良は舞にそう声を掛けると、舞はさらにスピードを上げるのでした。
琵琶湖の駐車場で休憩をとると、風が気持ちよく吹いてきます。
「申し訳ないです。みんな暑くて狭い部室でスワン号直してんのに。私が目標に届かへんせいで、みんなの作業増やしてしまってるんです」
舞は、由良には素直に自分の気持ちが言えるのでした。
「誰も気にしてへんよ。エンジンの性能に対して機体変えるのはあたりまえや」
由良はそう言って、舞を励まします。
「怖いんです。みんなの努力台無しにしてしまうんじゃないかって。考えへんようにしてても考えてしまうんです」
そんな押しつぶされそうな舞に由良は声を掛けます。
「考えたらええやん。岩倉にしかできへんことがぎょうさんある。しんどいのは当たり前や。自分、空飛ぶんやろ。飛行機は向かい風を受けて、高く飛ぶんや。ここで新記録、出したかったな」
そんな由良の言葉に舞は、少し背中を押してもらったようです。
駆動試験
舞は、毎日一生懸命トレーニングをしていました。
その姿を見て、みんなが団結します。舞の乗るコックピットも、舞のために作り直すことにしました。
そして、今週末にテスト飛行することになりました。
「岩倉、チャンスは何度もないけんね。飛ぶ感覚、掴まんと」
刈谷にそう言われ、舞は身が引き締まるのでした。
そのまえに、駆動試験を行います。プロペラや尾翼の動きに問題がないか、地上で確認するのです。
「操縦桿動かしてみて。それを動かしたら飛行機の進む方向が変わる。上下左右どこにでも、岩倉が行きたい所へ飛んでいけんねん」
由良がそう言うと、舞はテンションがぐっと上がるのでした。
そして、舞が漕いで、プロペラを回します。駆動系は大丈夫です。続けて、操縦桿を左右に回してみますが、以上はありませんでした。
嬉しそうなみんなに比べ、舞の表情は暗いのでした。それを見た由良が声を掛けます。
「先輩、部室のバイクとはぜんぜんちゃいました」
トレーニングとは違った実際の感覚に、舞は困惑していたのです。
「大丈夫や。今は走らせてへんから重いだけ。走り出したらペダルはもっと軽くなってな、空に浮かんだらペダルのことなんか忘れてまう」
由良の言葉は、舞の不安を取り除いてくれました。
株式会社IWAKURA
岩倉螺子製作所も新たなスタート。第二工場に新しい看板をつけました。
「この通り、岩倉螺子製作所は株式会社IWAKURAに変わりました。先代から引き継いだ工場を23年間なんとか守ってこられたんは、みんなのおかげです。若い人もこんなに増えました。これからも、みんなが誇りを持って仕事ができる会社にしていきます。チャレンジも続けます。特殊ネジはもちろん、金属部品の製造にも引き続き力を入れていきたい。ほんで、ゆくゆくは、飛行機にうちの部品を乗せたい。そう思ってます」
お父ちゃんは、社員を前にそう抱負を語りました。
舞はトレーニングで参加していませんでしたが、帰ってきてからお母ちゃんから聞きました。
「今日な、新しい看板に付け替えたんやで。お父ちゃん張り切っててな。社員さん並べてスピーチしはってん」
そういうお母ちゃんの顔は、とても嬉しそうでした。
「なんや、昔のお父ちゃんを思い出したわ。長崎で働いてた時のお父ちゃん。目をキラキラさせて飛行機を作るんやってゆうてた」
そういうお母ちゃんに舞は、「その目を好きになったん?」と聞きました。
しかし、お母ちゃんは「内緒」と笑って、教えてくれませんでした。
おもろいやっちゃな
舞はテスト飛行の準備をしながら、兄・悠人に電話をしました。
「なんかあったんか?」
相変わらず悠人は、そっけない対応です。
「お母ちゃんに頼まれたん、お兄ちゃんに電話してって。今日な、お父ちゃんの会社、新しい名前になってで。HPもできたから見て。株式会社IWAKURA、ローマ字でいわくら」
悠人は、忙しいと言いながら、HPを見てくれました。
「お父ちゃん、張り切ってねんで」
舞にそう言われても、悠人は興味がないようです。それより、舞のことが気になって、人力飛行機のことを聞きます。舞は、嬉しそうに話しました。
「パイロットの訓練してる。人力飛行機のパイロットや。ほな切るな、明日テスト飛行でこれから出発やねん。初めて空飛ぶんやで」
電話を切ったあと、悠人はなんだか嬉しそうでした。
「おもろいやっちゃな」
テスト飛行
舞は、飛行機を組み立ててる間、ロードバイクで体を温めていました。
「これで40kgか。テレビで見てる時は、人力飛行機がこないに軽くてもろいものだと思いませんでした」
組み立てながら、1回生の男子は感想を言うのでした。
「せやろ。こないに軽いけど、細かいところまで拘って作った俺たちの思いが詰まってる。見た目は頼りなくても、めっちゃ頼れる飛行機なんやで」
鶴田が自慢げにそう言うと、刈谷は「お前みたいたい」と言うのでした。
そして、ようやく飛行機の組み立てが完成しました。舞は、コックピットに乗り込みます。
「岩倉、いつもと同じように漕いだらええ」
由良が声をかけてくれました。
そして、風を確認して、準備は整いました。舞は、深呼吸します。
「右翼OKですか?左翼OKですか?胴体OKですか?指示出しOKですか?ペラ、回します」
そう言うと、最初はゆっくり漕いでプロペラを回しました。
「3、2、1、ゴー!」
ゆっくりと進みだした飛行機は、やがて舞い上がりました。
最後に
舞の過酷なトレーニングとダイエットは大変そうでした。
しかし、よき理解者の由良が戻ってきました。
それにしても、貴司の詩の暗さは、久留美でなくても怖いと感じてしまいます。
そして、来週はついに人力飛行機を飛ばすようです。
お父ちゃんの夢も一緒に飛べるのかも!?