君は永遠にそいつらより若 いは、2021年に公開された映画です。
WOWOWで、番組表を見ていて、出演者で気になったので録画してみました。
気になった出演者は、主演の佐久間由衣です。朝ドラ「ひよっこ」でヒロインの幼馴染役で出演していた頃から気にしてる役者さんです。「君は永遠にそいつらより若い」も好きだけど、「教場」の時が一番好きかも。
原作
津村記久子による小説が原作です。
第21回太宰治賞を受賞した作品『マンイーター』を改題したもので、2005年にデビュー作として刊行されました。
2009年に文庫化されました。
主な登場人物
堀貝佐世(ホリガイ):佐久間由衣
猪乃木楠子(イノギ):奈緒
吉崎壮馬(ヨッシー):小日向星一
穂峰直(ホミネ) :笠松将
岡野あかり :森田想
安田貴一(ヤスダ) :葵揚
映画ストーリー
過去の事件
映画は、草むらに倒れている自転車から始まります。
「ともあれ、彼女は生き延びた。猪乃木さんは生きて帰って来た」
そう堀貝のナレーションが入ります。
ゼミの飲み会
幹事が盛り上がっている飲み会の席で発言します。
「ゼミから新しく就職内定者がでました。一言お願いします」
そう言うと、堀貝が立ち上がるように促されます。
「ただのラッキーというか、地元の倍率が低いだけということです」
そういう堀貝は、地元和歌山で児童福祉司になることが内定しました。
挨拶が終わると、ゼミの仲間から「卒業まで処女を捨てれるのか」と聞かれます。かなりセンシティブな話しではありますが、ゼミ仲間ということで許容されているのかもしれません。
「処女って悪口だから、カジュアルかつポップに言えないかな。ポチョムキンとか」
堀貝は「そうやって本質的な部分を笑いでごまかすことが問題だ」と絡まれ、枝豆の殻を投げつけられていました。
誘拐犯
遅れて飲み会にやってきたヨッシーと穂峰。穂峰は同じゼミではないのですが、サークルが一緒のヨッシーが強引に連れてきたのでした。
穂峰は警察に逮捕され、身元引受人としてヨッシーが警察に行ったのでした。容疑は誘拐。
穂峰の住むアパートの1つ下の階に住む子供が、母親に食事も与えられず、育児放棄されていました。それを見かねた穂峰が、母親が不在の間、穂峰の家に住まわせていたのでした。そして、帰宅した母親が子供がいないことで騒ぎを起こし、穂峰が逮捕されたというのです。
しかし、穂峰が逮捕されても、下の階の子供・翔吾の環境は変わる訳ではありません。
飲み会が終わり、一緒に帰る堀貝と穂峰。初めて会ったのになんだか惹かれあっているのがわかります。穂峰は「堀貝さんと一緒にいたら、楽しいだろうな」と気軽な感じで言います。それを聞いて、堀貝は、
「結婚してくだせーーー」
と、冗談っぽく言うのでした。しかし、穂峰は「じゃあ、結婚しようか」と受け入れます。ただ、理由は「嫁が公務員だと助かる」ということでした。
堀貝の卒論のアンケートを穂峰に渡し、今度会ったら堀貝が児童福祉司を目指したきっかけを話す約束をして別れました。
交換条件
卒論のアンケートは、いろいろな人に頼んでいました。友人の岡野あかりも、その中の一人です。
岡野は友人にもアンケートを書いてもらっていましたが、ただでそれを渡す気はありません。
「西洋哲学史に出てノートを取る。ただ、その授業は1限にやってる」
簡単な交換条件だと思った堀貝でした。しかし、単位をあらかた取ってしまい、毎日ぐうたらな生活をしている身に1限は、高いハードルです。
と言っても、卒論を書くためには、アンケートは必要です。堀貝は、交換条件を受け入れました。
バイト先の後輩
酒造メーカーでアルバイトしている堀貝。もう少ししたら、卒業のために辞めることになっています。それで、新しいバイトの安田に仕事を教えています。
安田は、体が大きくて、そこそこのイケメン。
最近知り合ったETに似ている女の子の話しを堀貝にします。お互いお笑い好きで、笑いのツボが同じなら、恋愛の相性もいいはずというのが安田の持論でした。
猪乃木との出会い
岡野に頼まれていた西洋哲学史の授業には、案の定遅刻してしまいました。
堀貝が着いた時には授業も終わっていて、黒板も消されていました。
そこで、近くにいた女子学生にノートコピー取らせて欲しいとお願いします。
しかし、次の講義があると、初対面で突然のお願いを断られてしまいます。もちろん、当然だとは思います。そこで、堀貝は「ノートのコピーを渡さないと、人質が破り捨てられる」と、事情を知らないと理解できないことを説明します。
「ちょっと言ってる意味がわからないんで」
と、去られそうになった時、事件は起こります。
教室で、カップルのケンカがありました。激高した女の子がカッターを取り出し、手首を切ると宣言するのです。しかし、近くにいた学生に止められ、体を拘束されてしまいました。
その女の子の表情を見て、ノートを貸してと頼まれた女子学生・猪乃木は「めっちゃ気持ちよさそうな顔してる」と言うのでした。それを聞いて、つられて笑ってしまう堀貝。二人は似ている部分があるのかも知れません。
待ち合わせ
「明後日までに返してもらえないと、私も困るんで」
そう猪乃木は言うと、堀貝にノートを貸してあげました。堀貝は「コピー取るだけなので、今日中にでも返します」と言って、夜に会う約束をしました。
しかし、堀貝はバイトが終わっても、待ち合わせの時間まで間がありました。
そこで、安田に飲みに行こうと誘います。いいですねと言う安田。安田が片づけをしていると、安田の荷物から外国人の裸の写真が落ちてしまいます。目ざとく見つけた堀貝が、安田をからかいます。からかわれた安田は怒り、飲みに行くのはなくなってしまいました。
しかたなく、堀貝は一人で時間を潰し、猪乃木との待ち合わせ場所に行きました。
猪乃木
待ち合わせた駅で、猪乃木に会い、ノート返すことができました。
そして、バイト代が入ったからと、猪乃木を食事に誘います。
猪乃木は、家の近所に行きたかったカフェバーがあるので、そこならと了承して二人で向かいました。
「3年生か。そろそろ、就職の準備始めなきゃって感じか」
猪乃木は3年生、堀貝は4年生でした。そこで、堀貝は卒論用のアンケートを猪乃木に渡し、書いてもらうことにしました。
卒論のテーマは「育った環境と将来成功するためのビジョンの関係」です。成功のビジョンは一人一人違うものです。それは、生活環境によって違うのではないかというのが、堀貝が考えていることでした。そこで、アンケートをいろいろな人に書いてもらっていました。
猪乃木の育った環境は、両親が離婚して祖母に育てられました。祖母は小豆島でロッジを経営していて、そこで猪乃木と二人で暮らしていました。
猪乃木の家
堀貝が気が付くと、猪乃木の家で寝ていました。
「ごめーん、寝ちゃった」
店を出る時はかろうじて起きていた堀貝ですが、「ほみねくーん、ほみねくーん」と叫んでいたので、猪乃木が家に連れてきたのでした。穂峰の夢を見ていたような気がしている堀貝ですが、よく思い出せません。
猪乃木は、家と言うより店でした。猪乃木の親戚がお店をやっていたのですが、今は誰も住んでないので、安く借りてるのでした。そして、この説明を堀貝にしたのが4回目でした。堀貝は全く覚えていません。
テレビゲームに飽きてテレビをつけると、「中上明くん失踪から13年」という番組をやっていました。
結構有名な事件のようですが、猪乃木はなんとなくしか知りません。堀貝は詳しいようです。しかし、深く堀貝が話し出す前に、猪乃木が話しを終わらせてしまいました。
戦う前から負けることを考える
堀貝は、自分が戦う前から負けることを考えていると言って、子供の頃にあった話しをしだしました。
「小3の時にみんなから嫌われているチビの男子と、取っ組み合いのケンカしたんだ。理由は本当に大したことじゃなかったと思う。
女子の割には、互角に戦えていたんだ。
でも、その時にイマダとかヤマダとかいう男子が突然出てきて、私の腹を蹴ったんだ。
そこから、形勢逆転で2人にボコボコにされた。それを、イマヤマダ事件と呼んでる。
それ以来、何に負けても悔しいと思えないようになったんだ」
そう告白する堀貝に、猪乃木は「その場にいられなかったのは悔しいよ」と言って、同じように悔しがってくれました。
穂峰の死
「ヨッシー、何急いでるの?」
そう堀貝がヨッシーに話しかけると、ヨッシーは悲しそうな顔で言います。
「穂峰、覚えてる?あいつ死んだ。バイクで事故ったって、昨日」
穂峰の実家は島根にありました。仲の良かったヨッシーは、告別式に出席するために急いでいたのでした。
それを聞いて、何も考えられなくなる堀貝。穂峰に話すはずだった堀貝志望動機は、宙ぶらりんになってしまいました。
穂峰の告別式で、穂峰の弟に話しかけられるヨッシー。実は、事故ではなく自殺だったことを知ります。そして、穂峰が死ぬ前、最後に会ったのがヨッシーでした。帰りの電車、穂峰を止めることができなかったヨッシーは自分を責めるようにスマホを投げつけるのでした。
就活課のマナー講習
猪乃木は、就活課のマナー講習を受けていました。しかし、講師が話している中、あまり気が入りません。
「下ろしたままだと不潔っぽく感じるから、せめて就職活動ではまとめるなり、なんなりしなさい」
講師はそう言うと、断りもなく猪乃木の長い髪を触るのでした。
驚く猪乃木。驚くというか、怯えていました。
ヨッシー
告別式の後、堀貝を避けるようになっていたヨッシー。学校にもほとんど来ず、堀貝が連絡しても連絡が取れませんでした。
そんな時、堀貝はヨッシーを大学で見かけます。何度も呼んでも聞こえていないのか、立ち止まってくれません。やっと追いつき、振り向いてくれました。
ヨッシーと連絡を取りたかったのは、穂峰のことと、頼んでた卒論のアンケートです。それを言うと、ヨッシーはぶちぎれてしまいました。
「うるせーな。知らねえよ、人にばっか頼ってんなよ」
穂峰の死だけでも受け止めきれない堀貝でしたが、ヨッシーがキツく当たってきたことにもショックを受けるのでした。
彼女
そんなことがあって、堀貝は猪乃木に連絡してみます。何の用事もないのですが、ただ声を聞きたくなったのでした。
「ニット帽、どこで買ったのかなと思って」
電話の理由は何でもよかったのですが、思いついたのはそれでした。そして、堀貝は猪乃木に会いたいと思って、どこにいるのか聞きます。
「江の島。この寒い中、ぼーっと座ってる。やっぱ小豆島の海とは違うな」
そう言う猪乃木。マナー講習のことがあったから江の島にきたのでしょうか?そんな猪乃木に言ってくれれば一緒にいったのにという堀貝。
「私は今、猪乃木さんみたいな彼女が隣にいて欲しいよ」
そう言うと「私、彼女なの?私はね、止めた方がいいよ」と言う猪乃木。
猪乃木は、彼氏は半年前までゼミの先輩と1年付き合っていました。しかし、猪乃木の「不手際」で、だんだんとダメになっていったのでした。
「難しいね、人がいることは難しいよ」
堀貝は、自分自身のことも踏まえて、そう言うのでした。
「今度、堀貝さんの家に遊びに行っていい?」
そう聞く猪乃木に堀貝は「ちょっとしたゴミ屋敷だよ」と言うのでした。
安田の秘密
バイト先で安田のことを聞かれました。無断欠勤3日目でした。
安田の家に様子を見に行った堀貝は、ちょうど帰ってきた安田と会い、飲みに行くことになりました。
「あの、堀貝さんだから言いますけど、俺童貞なんですよ」
そう言って、最近会ったことを話し出しました。
前に知り合ったと言っていた「ETちゃん」と劇場にお笑いを観に行った安田。いい雰囲気になり、ETちゃんの部屋に行くことになりました。そして、そういう雰囲気になったのですが、挿入することができなかったと言います。
「入れられなかったんですよ。俺、巨根なんすよ。
泣いたり、痛がる女の子がほとんどなんです」
それを聞いて堀貝は、「デカイ外人の女とかは?」と聞きますが、安田は小さくてかわいい子がタイプでした。
「お互い真剣に好きなのにできないことがあるということが、絶望的に苦しんですよ」
安田はそう言うのでした。
外国人の裸の写真
「顔は悪くないんだから、開き直れよ。それで手当たりしだいヤッてみれば、相性の合う人もいるはず」
そんな無責任な発言をする堀貝に安田は言います。
「なんで俺がチ○コでかいのを開きなおらないといけないんですかね?
だからと言って、外人の女の写真見ても興奮しないんです。
興奮するために外人の裸の写真を持ち歩いてるんです」
そう言って、堀貝に見て欲しいと言います。堀貝の前で脱ぎますが、堀貝は見れません。見た見たと言って、服を着させようとしますが、安田は泣き出してしまいました。
ちゃんと見てあげれば良かった
酔いつぶれた安田を仕方なく家に連れて帰る堀貝。家の前には、猪乃木がいました。
猪乃木は頼まれていた卒論のアンケートを渡しに来たのでした。寂しそうに帰ろうとする猪乃木に堀貝は「寄っていく?」と家に呼ぶのでした。
堀貝のベッドで寝ている安田。ちょっとしたゴミ屋敷のような堀貝の部屋の台所で二人は話をします。
「あいつさ、今日いろいろあって、泣きながらチ○コ出したんだよね」
しかし、目をそらして見れなかったと猪乃木に話します。
「ちゃんと見てあげればよかったな。見れなかった自分が今になってむかつく。
目をそらしてるお前に人の痛みがわかるのかよって。児童福祉司になる資格があるのかよって」
そう言うと、堀貝は「やりたい仕事と自分に合ってる仕事は、結構食い違ってるんだろうなって最近思ってる」と弱気な発言をするのでした。
児童福祉司になろうと思った理由
「中上明くんってさ、13年前に失踪した男の子のことテレビでやってたでしょ?
高2の時、たまたま見たテレビで知ったんだけど、なんでだか自分でもおかしいぐらいに取りつかれたようにちゃってさ。
明くん、今どうしてるんだろうって思ったら眠れなくなるし、ご飯も食べれなくなるし。
でも、何もできない自分の無力さに愕然として、いつか私が明君を探し出そうと思って。
それが児童福祉司を目指そうと思ったことの全て」
堀貝は「馬鹿げてることはわかってるから誰にも言わなかった」と猪乃木に言います。
そして、朝になって、堀貝は猪乃木の家まで自転車で送って行きました。帰り際、猪乃木が聞きます。
「ねえ、明くん、きっと生きてるよね?今この瞬間、テレパシーで話せるとしたら、なんて声かける?」
君は永遠にそいつらより若いんだよ
ちょっと悩んで、堀貝は答えます。
「いつかきっと私が見つけ出すから、諦めないで待っててって。
君を攫って、君の心と存在を弄んで侵害するやつらは、どんどん年を取って弱っていくから、絶対あきらめないで。君は永遠にそいつらより若いんだよ」
やっぱり上手く話せないと堀貝はいいますが、猪乃木は感動したようです。
「その言葉で十分だと思う、私は」
猪乃木の秘密
「私も秘密を教えようかな」
そう言うと、堀貝が話してくれたお礼に猪木の秘密を教えてくれました。
髪を上げて耳を見せてくれます。しかし、耳の所には、たくさんの大きな傷がありました。
「就活課のマナー講習で、不潔だか髪を上げろって言われたんだよね。
これを企業の人に見せた方がいいのかな?
でも、採用してくれるかわからない人に腹割れないわ」
そう言うと、猪乃木は家に入って行きました。堀貝は何も言えませんでした。
堀貝の秘密
家に帰ると、寝ていると思っていた安田が起きていました。
「あの子、可愛かったな」
ベロベロに寄っていたのに安田は猪乃木のことを覚えていました。しかし、堀貝は紹介できないんだと言います。
「トリガイさん、レズなんですか?」
部屋の壁には水着の女性の写真が、切り抜いて貼ってありました。それを見た安田の発言でした。
「あー、あれはだな、かわいい子の計算された笑顔を見てると落ち着くんだよね。秘密だよ」
卒論
その夜の雰囲気を引きづったまま、学生最後の冬休みを堀貝は過ごしました。
年末年始、実家で卒論を仕上げようと思っていましたが、ぼんやり過ごして全く進みませんでした。
東京へ戻るとバイトの送別会がありました。寄せ書きや花束をもらいました。
そして、安田は楽しそうに飲んでいます。
冬休みが終わり、堀貝の卒論はたった1週間で書き上げました。たくさんの人にアンケートを答えてもらいましたが、中途半端でまとまりのない結果になってしまいました。
ヨッシーの苦悩
卒論を出した後、学校でヨッシーに声を掛けられます。
「探してたんだ、堀貝のこと」
そう言うと、「遅いだろうけど」とアンケートを渡してくれました。
そして、ヨッシーは話してくれました。
「俺、島根の穂峰の実家に行っただろう?
バイク事故じゃなかったんだって。あいつ、自分で。
理由はわからない。前の日の晩、あいつと遅くまで飲んでたんだよ。
自分がアホみたいだって思える。
首釣る前の日にいつもと同じかって言われたら、違うよな。
何か違うところがあったと思う。でも、俺は何にも気づけなかった」
最後に穂峰と話したのは、堀貝のことでした。結婚を申し込まれたって笑っていた穂峰。
それもあって、堀貝のこと見ると、穂峰のことを思い出してしまうのでした。そして、何にも気づけなかった自分のことに腹が立つヨッシーなのでした。しかし、ヨッシーは申し訳ないって思っていました。
穂峰が書いたアンケートには「客が来なくてもやっていけるスポーツバーの経営」でした。そして、裏には人のような絵が書いてありました。
「人ってさ、朝起きたら歯をみがくように、すっと死ねる。きっと理由なんてないんだよ」
ヨッシーは最後にそう言うのでした。
牡蠣鍋
卒業記念パーティが行われますが、堀貝は部屋を引き払ったのでキャリーバックを引いての参加です。
そこに猪乃木から連絡が入ります。
「大量の牡蠣があるので、卒業祝いに牡蠣鍋やりませんか?」
そして、堀貝は卒業記念パーティを欠席し、猪乃木の家に向かいます。
その途中、ヨッシーから穂峰の部屋を片付けをしていて、残ったものを形見分けしたいから取りに来てほしいと言われます。
「ちょっと考えておく」と気のない返事をして、猪乃木の家に向かいました。
色濃くポチョムキンを捨てる
猪乃木の家で2人で牡蠣パーティをします。蒸した牡蠣や牡蠣鍋。日本酒を飲みながら、楽しい時間を過ごします。
「そう言えば、あの人どうなった?でっかい人」
猪乃木は、安田のことを彼氏だと思っていたようでした。身長の高い男女で、外国人のカップルのようだと思っていました。
「安田?あいつは大人しく帰っていったよ。ただのバイトの後輩です」
ただ、本音は違っていました。
「でも、まあ、本音を言うと、あいつとそのままそういう風になってもいいかなって思って。
色濃く思ってた。ポチョムキン捨てられるかなって」
堀貝が処女だとは猪乃木は知りませんでした。そして、どう反応していいか困っていました。
私の魂のせい
「私が今まで処女なのはさ、結局、私の魂のせいなんだよ」
そう言うと、酔った勢いもあってか、堀貝は話し出します。
「たしかに、私は他者に対して無知だよ。圧倒的に無知すぎる。
普通の人が普通に持ってるなにかが決定的に欠けてるからなんだよ。
何がって聞かれたら上手く言えないけど、欠けてるんだってことは確実にわかる。
普通の人が普通に気づくことが気づけないし、できることができない。
その証拠として、今でも処女なんだと思う」
堀貝の苦悩です。そして、堀貝は処女であることが「ただ、切望的に苦しい」と言うのでした。
気づけなきゃいけなかったこと
堀貝は、処女であることが「誰も手をださない欠陥品」だと突きつけられている気がしています。不良在庫に人の気持ちなんてわかるはずもありません。そして、人の人生に介入する資格はなと言われてる気がしています。
だからこそ、児童福祉司になる前から、負けた気になっているのでした。そして、猪乃木の耳のケガにも気づけなかったと言います。
しかし、猪乃木は気づくはずはないと言うのです。気づかれないように頑張って隠してるのですから。
ただ、それでも堀貝は「私は、気づけなきゃいけないと思う」と言い泣くのでした。
埋めあう二人
猪乃木は堀貝にキスをします。堀貝は一度はビックリして離れますが、受け入れます。
そして二人は、何を達成したら終わりなのかわからないまま、抱き合い、掻き分け、しがみつきます。欠落した部分を埋めあうように二人は、抱き合うのでした。
「この耳の傷はね、いろんな人を不幸にして、いろんなものをダメにした。
親の離婚も、この傷のせいなんだ」
二人で横になっていると、猪乃木は話出します。
猪乃木の過去
中学生の時、帰宅途中に自転車で走ってると、車にはねられました。心配している風を装って、その車に連れ込まれてしまいます。自転車は、そのはねられた時のまま、道端に倒れていました。
そして、そんな経験をした娘を持て余して、両親は猪乃木が中2の時に離婚します。それから猪乃木は、小豆島の祖母に引き取られて、育てられることになりました。
「そこにいて、助けられなかったことが、悔しい」
心から堀貝はそう思いました。
次の日の朝、猪乃木を見つけてくれた女の子がいました。全身痛くて、しびれて、動けない状態でしたが這って河原まで行きました。しかし、誰もいませんでした。
猪乃木が死を覚悟した時、女の子が見つけて手を握ってくれました。猪乃木は、その女の子のことを夢でたまにみました。そういう時は、縋りつきたい気持ちの時です。
堀貝は、その女の子にそっくりに見えます。あの子が大きくなったような顔してると猪乃木は思っていました。
遺書
「寄り道してから行くから、夕方ぐらいまでは東京にいると思うけどね」
そう言うと、堀貝は猪乃木の家を後にして、穂峰の家に行くことにしました。
待っていたヨッシーは、形見分けの品を見せてくれました。ロクなものは残っていませんでした。
その時、ヨッシーが遺書が見つかったことを話してくれました。形見分けでノートパソコンを持って帰った人から、パソコンに保存してあったのを見つけたと連絡があったと言います。
「ご迷惑をおかけしますというのが、定石だろうけど。
僕が誰かにとってそれだけの位置を占めていたことは考える限りなかったな。
理由は聞かないで下さい。僕にもわからないので。
気がかりや心残りはいくつかあるのですが、焦燥がそれに勝ってしまいました。
友達と、今まで付き合った女の子たちにお世話になりました。本当にありがとう。
下の階の翔吾君にもよろしく」
翔吾君によろしくを言う
「翔吾君によろしくって言って帰ろうよ」
穂峰の最後の頼みを実現しようと、下の階に行ってみます。呼び鈴を鳴らしても、誰かいる気配はありません。
今度は上に戻り、ベランダを降りて、窓から侵入を試みます。ヨッシーは止めますが、堀貝はもう止まりません。何とか下の階のベランダの手すりに足を伸ばし、降りることができました。しかし、降りた時にバランスを崩し、壁に顔を打ち付け、鼻血をだしました。しかし、それでも堀貝は止まりません。
中から何か貼られていて、窓からは中が見えません。窓ガラスを割り、中を覗きます。部屋の中は真っ暗でした。
その時、ふいに猪乃木から連絡がくることがわかりました。そして、猪乃木からメッセージがスマホに入ります。
「今からちょっと会えませんか?」
そのメッセージだけ確認すると、割れた窓から手を入れ、堀貝は鍵を開けて中に入りました。
翔吾君
部屋の中に入ると、すごい異臭がします。堀貝は思わず鼻を押さえます。
汚くゴミだらけの部屋を進み、正面の襖を開けようとします。しかし、襖はあきません。
その時、後ろから物音がしました。毛布に包まって、誰かがいます。
堀貝は恐る恐る毛布をめくると、男の子が隠れていました。
「翔吾、くん?上に住んでたお兄ちゃん、君のこと気にしてたよ、最後まで」
そう伝えることができました。
小豆島へ
3か月後、小豆島行きのフェリーに乗るところで、堀貝は猪乃木に伝言を残します。
結局、翔吾の救出の後、猪乃木とは連絡が取れませんでした。そして、会うことができないまま、堀貝は実家に帰りました。
そして、翔吾は児童養護施設に引き取られて、面会に行っているとヨッシーが教えてくれました。
猪乃木さんは、大学を休学して、小豆島の実家に帰りました。ポツリポツリとやり取りするメッセージで理由を聞くと、「理由はいろいろあるけどね。疲れたのかな?」という短い返事が返ってきました。
猪乃木の声は、あの日以来一度も聞いていません。猪乃木のことを考えると、堀貝はいくらでも時間が過ぎて行く気がします。今までこんなことはありませんでした。
猪乃木からの電話
フェリーの上で、猪乃木から電話が入りました。堀貝は、思いのたけをぶつけます。
「ここに車での間に猪乃木さんのこととか、あの頃に出会った人たちのことを思い出した。みんな懐かしかったよ。
でもね、その中でも特に猪乃木さんのことが一番気になるんだ。
これからもずっと気にするし、猪乃木さんに愛想つかされたとしても、ずっとずっと一生気にしてる」
そう言うと、やっぱり上手く言えないと自虐的になる堀貝でした。
「会えるの楽しみにしてる」
アポもなく突然会いにきたのに受け入れてくれた猪乃木。どういう状況になっているのか心配です。
堀貝の今
堀貝は、地元の児童相談所で毎日、四角四面に働いています。
「昨日の夜に近所の人から泣き声通告。小学2年生の娘がいるが学校に行っていない」
上司と一緒にネグレクトが疑われる家に訪問しています。何が何でも安否確認するという強い意志でチャイムを鳴らしますが、誰も出てきません。
そんな堀貝は、この仕事に関する適正があるか、自分ではまだわかっていません。
ゴミ屋敷の家、玄関の前に倒れた子供用の自転車。それをおこす堀貝。
感想
なんの予備知識もなく、見始めた映画でした。そうしたら、最後まで一気に見てしまいました。
ただの青春映画でなく、誰しもがある欠けている部分や、知られたくない部分を見せてくれる映画でした。内面世界に浸って出てこれなくなる人たちが多い中、堀貝はいろいろな人と出会って、その欠けている部分を埋めていっていました。
他者を受け入れることは難しいことですが、秘密をさらけ出すことで結びつき、そして離さないと宣言することで信頼を勝ち取ることができたように思います。そうやって、人は意識、無意識によらず、誰かの人生に関わっていくのですね。
それにしても、佐久間由衣もよかったですが、奈緒もすごいいい演技でした。奈緒は「あなたの番です」よりも前、朝ドラ「半分青い」で永野芽衣の地元の幼馴染役で見たのが初めてでした。その頃から、かわいらしい感じはありましたが、こんなに演技が上手だとは思いませんでした。
こうやって知らなかった「いい映画」を見ると、すごく得した気分になりますね。
また新しい「いい映画」を探してみたいと思います。
前回は「鳩の撃退法」を見ました。これは配役も豪華なエンターテイメントでした。