伝えたい思い は第20週のサブタイトルです。
ここにきて、ぐっと舞の気持ちが貴司に近づいています。しかし、ライバルの史子が登場して、舞の心は揺れています。
貴司の葛藤は続いています。貴司は舞と史子、どちらを選ぶのでしょうか?
そんな第20週のまとめです。
第19週「告白」のまとめ。
主な登場人物
岩倉舞 福原遥 IWAKURAの営業
梅津貴司 赤楚衛二 舞の幼馴染、歌人でデラシネ店主
望月久留美 山下美月 舞の幼馴染、看護師
才津祥子 高畑淳子 舞の祖母でめぐみの母
岩倉浩太 高橋克典 舞の父、故人
岩倉めぐみ 永作博美 舞の母、株式会社IWAKURA社長
岩倉悠人 横山裕 舞の兄、インサイダー疑惑の人
梅津勝 山口智充 貴司の父。のお好み焼き屋
梅津雪乃 くわばたりえ 貴司の母。勝の妻
望月佳晴 松尾諭 久留美の父。元ラガーマン
笠巻久之 古舘寛治 IWAKURAのベテラン従業員
結城章 葵揚 IWAKURAの従業員
リュー北條 川島潤哉 短歌担当編集者
秋月史子 八木莉可子 貴司の短歌のファン
御園純 山口紗弥加 毎報新聞記者
木戸豪 哀川翔 五島 船大工
浦信吾 鈴木浩介 五島 役場職員。めぐみの同級生
浦一太 若林元太 五島 舞の同級生、船大工見習い
山中さくら 長濱ねる 五島 みじょカフェオーナー
第20週のストーリー
わかりませーん
舞は朝、出勤の準備をしていると、貴司の短歌が目に入りました。その短歌から、史子のことを思い出し、久留美に言われたことを思い出しました。
「舞、夕方から雨、降るって」
お母ちゃんの言葉に現実に戻されます。
そしてその日の昼、梅津でお母ちゃんや従業員達と食事をしていると、貴司の母・雪乃の大声が店に響き渡りました。
「そない弱気でどないすんの!」
金属加工の工場を継いだマトバに、IWAKUARの立て直した話しをして、励ましていました。隣の席には、その話しを聞いてる女性がいます。
「あんたも元気だし、わかった?」
雪乃がマトバにそう言うと、話しを聞いていた女性は「わかりませーん」と言って話に入って来たのです。
新聞記者・御園純
その女性は、いきなりお母ちゃんに質問します。
「どうして社長になられてたんですか?」
戸惑いながらも「社長やった夫が亡くなりまして」と答えるお母ちゃん。
「工場では何を作ってるんですか?」
困惑しながら「ネジです」と答えると、女性は名乗っていなかったことを思い出しました。
「すみません。申し遅れました、毎報新聞の御園純と申します」
そしてお母ちゃんと名刺交換をしました。
「よろしければ、もっとお話聞かせていただけませんか?」
やっぱり戸惑いながら、それでも受け入れるお母ちゃん。御園は、新聞に載せるつもりで取材したいと、正式に申し込みました。
「ありがたいです。弊社は今、人手不足で困っておりまして。求人出しても、人がけえへんもんで」
ひょんな出会いから、IWAKURAは取材を受けることになりました。
舞が工場を案内します。
インタビュー
舞が案内して工場の見学した後、取材を受けます。そこに女性の職人・土屋がサンプルのネジを持ってきました。
「ごめん、今時間ある?インタビューさせてもらってもいいかな?」
御園は、男性の職人には興味を示しませんが、女性の職人や事務員には興味があるようです。
土屋を席に座らせると、すぐにインタビューが始まりました。
「さっき見せてもらったの、あなたが機械動かしてるところ。珍しいよね、女性の職人さん。これ、あなたが作ったネジ?」
土屋はネジの説明をすると、御園は話しよりも土屋の油に汚れた爪を気にします。
「洗っても取れへんから」
そう言う土屋にマニュキュアが映えないことは嫌じゃないのかと質問しました。
「ぜんぜん。マニキュアよりかっこええでしょ」
そんな風な答えが返ってくると思っていなかった御園は、すごく嬉しそうに驚きました。そして、土屋が入社した経緯を聞きます。
「モノづくりをやりたくて、IWAKURAを見学した時、先代の社長がネジ見せてくれはったんです。これはうちでしか作られへんって言った時の得意げな顔、ええな思って」
そして、最後に女性従業員を集めて写真撮影しました。その撮影には、男性従業員が入ったパターンも撮影していました。合言葉は「チーズ」ならぬ「ねーじ」です。
史子の過去
デラシネでは、一人悩む貴司の姿がありました。そこに史子がやってきます。
「今日締め切りの短歌、できました?」
リュー北條から追加で10首作るように言われていましたが、貴司はまだ1首しかできていませんでした。史子はそんな貴司に差し入れを持って来たのです。デラシネの奥で、二人でお茶をしながら差し入れを食べました。
「秋月さんコンビニで働いてるの?」
貴司は史子にそう聞きます。
「はい、今は。いろんなところで働いてきたんです。父がギャンブルばっかりのどうしようもない人で、家出して大阪出てきたんで、生きていくためにいろいろ。高校中退してると、雇ってくれるところ少なくて」
史子はそう言って、自分の身の上話をして、貴司の短歌に出会った話しをしました。
「けど、なんか嬉しいです。こうやって誰かとお茶することなかったので。ずっと独りぼっちで。誰にも話されへん気持ち、短歌にすることで毎日をやり過ごしてきました。そんな時に梅津先生の短歌を読んだんです」
史子は貴司の作品を持ち歩いていました。
「銀の糸通しのように足重ね 羽虫はやがて沈んでいった」
そして、貴司の短歌のどこに共感したのかを説明します。
「この作者は、ひっそり死んだ小さい虫に自分を重ねてる。どれだけ孤独なんやろって思って」
しかし、貴司は沈んで行ったのは「僕の孤独」だと言うのでした。
本歌取り
そんなデラシネに舞がやってきました。舞は、史子がいることで一瞬躊躇しますが、勇気を出して入っ行きます。
貴司は舞を迎え入れ、お茶を飲むかと聞きます。しかし、そこに史子が出てきます。
「私がやります。先生は締め切りに集中して下さい」
その言葉を聞いて、舞はすぐに帰ると伝えました。今日は、先日の物産展のお土産を渡しに来たのです。
ただ、貴司の短歌ができたかも気になっていました。そして、できた1首を見せてもらいます。
「水底に 影を預けて 釣られゆきし 川魚らの 形群れおり」
舞には意味が分かりませんでした。しかし、史子は「本歌取りですね」と一瞬で理解するのです。本歌取りは、オマージュのようなことです。有名な歌の一部を使って、その歌の世界観で新しい歌を作ること。
貴司の作った短歌は、紀貫之にの本歌取りだったのです。
「水底に 影しうつれば 紅葉ばの 色もふかくや 成りまさるらん」
そして、史子は自慢げに舞に言います。
「わからへんのはしゃーないです。梅津先生と私には、共通の知識があったから読み取れただけで。これまでの先生の歌とは違って、寒々しい怖さがあると思います。この調子であと9首、頑張って下さい」
史子の宣戦布告
舞は、二人の関係に自分の居場所を見つけることができませんでした。そして、帰ると言ってデラシネを出ます。
寂しそうに帰る舞。見送る史子と貴司。そして、史子が舞の忘れていった傘を見つけて追いかけます。
舞が柏木公園に来た時、史子が追いつきました。
「舞さん、忘れ物です」
そう言って傘を渡すと、史子は舞に言います。
「私、梅津先生としゃべっていると、包み込まれるような安らぎを感じるんです。今日もほんまは差し入れだけを渡して、すぐ帰るつもりやったんです。けど、もっと一緒におりたいって思ってしもて」
その史子の言葉に固まってしまう舞。史子は続けます。
「今、梅津先生は歌人として、一番大事な時期です。素晴らしい第一歌集を出していただくために、私も精一杯支えたいってと思ってます。せやから、先生のそばにおること、悪く思わんといてくださいね。じゃあ・・・」
舞は史子に何も言えませんでした。
その後、舞はノーサイドで久留美とご飯した時に、その話を聞かせました。
「舞も舞やで、なんで黙って引き下がんの?」
久留美の怒りは、舞に向けられました。
「秋月さんな、貴司君の短歌のこと、ようわかってはんねん。けど私は、今の貴司君にできることないねんな」
しかし、久留美は納得しません。
「なにゆうてんの。どんな時でも、自分のできること、探すのが舞やろ」
舞は何も言うことができませんでした。
評価
デラシネに北條がやってきて、貴司の短歌を読んでいました。しかし、デラシネに史子がいることが気になって「なんでいんの?」と史子に聞きます。
「見学させていただきます。後学のために」
しかし、北條はわかっていました。
「本音は?尊敬する先生を俗物から守りたい?」
史子は否定せず「ご明察です」と答えました。
そして、北條は読んだ感想を貴司に伝えます。
「10首、読ましてもらったけどさ。ダメだね。これまでの歌と変わってない。あまりにも地味」
その評価に納得のいかない史子は、北條に食ってかかります。
「失礼ながら、読み取る力がおありにならないのでは?私には伝わりました」
しかし、「二人だけで通じ合ってればいい」と言って、北條は動じません。それには、史子も何も言うことができませんでした。
「歌集を出したいんならさ、ちゃんと大勢に伝わる歌を書いてよ。短歌を作るってことは、自分の中の本当の気持ちを差し出すってことでしょ?梅津さん、なんか伝えることを諦めてる気がするんだよね。自分の中のせまーい世界で満足してる。僕が出版したいのは、売れる歌集なんだよ。このままじゃ、梅津さんの歌集は出せない。ほいじゃ」
そう言うと北条は帰って行きます。そして、頭をかかえる貴司。史子は貴司を慰めるのでした。
追加取材
舞は、御園の追加取材を受けていました。
「偉いなーでも、もったいないよね。パイロットになれるところだったんでしょ?後悔してない?」
しかし、舞は「してません」と即答しました。
「みんなで力合わせてネジ作るの楽しいんです。うちはええネジ作ってるって誇りに思えるのも、嬉しいですし。この工場も、私自身も、もっともっとできること増やしていきたい。そう思うと、わくわくするんです」
そう答える舞に御園は自分のことを話してくれました。
「実はね、私の実家も町工場だったの。もうだいぶ前に閉めちゃったんだけど、その時工場を残したいとか継ぎたいとか思わなかったから、舞さんのことが気になる。今28歳だったっけ?仕事以外はどう?付き合ってる人、いる?」
プライベートな質問を繰り出す御園に困惑気味の舞。「いません」と答えると「じゃあ好きな人は?」と、どんどん切り込んできます。一瞬貴司のことを思い浮かべて言いよどむ舞を見て、御園は食事に誘うのでした。
後悔しない?
飲みに行ったのは、ノーサイドでした。御園は舞の反応で、好きな人がいることを確信していました。
「で、好きな人はどんな人なの?」
そう聞かれた舞は「せやからいません」と答えますが、御園にはバレバレです。
「あのね、ごめんね。新聞記者は嘘を見抜くのも仕事のうちなのね」
舞は何も言えなくなってしまいました。
「相手は気持ち知らないの?」
どんどん切り込んでくる御園に舞は観念して答えます。
「けど、それでええんです。ちっちゃい頃から何でも話してきた人なんで、その関係変わってしまうの怖いんで」
やっと本音を聞けた御園は満足そうです。しかし、御園は恋愛を重視している訳ではありませんでした。
「まあいいいけどね、大事なのは恋愛だけじゃないし。私はもう恋愛も結婚もしない。身軽でいたいから。私の人生だし、自由に好きなことをしたい。でもさ舞ちゃん、後悔しない?」
舞は何も答えることができませんでした。
相聞歌
デラシネでは、短歌を書くことができずにイライラする貴司の姿がありました。そんなデラシネの隅には、史子がいます。そこに北條が「もういっぺんだけ話そうか」と戻ってきました。貴司と史子、北條はデラシネの奥に移動します。
「あと10首なんだよ。たった10首だけ書いてくれれば、本を出せる。これまでの300首とは毛色の違う10首をね」
その言葉に史子が反抗しました。
「それって人目を引くための10首ですよね?本を売るために書かせるなんて、あなたのエゴです。梅津先生の良さは野の花のような歌をかかれるところにあって・・・」
言葉が終わる前に北條は「君の方がエゴイストだよ」と言うのでした。
「自分好みの綺麗な短歌を書いてて欲しいんでしょ?美しいソプラノを聞きたいがために少年の成長を止める残酷さを感じるね」
図星で何も言えなくなる史子。
「梅津さん、自分の殻を破って初めて歌人は成長する。自己満足の歌は、もういらない。一人でも多くの人に伝える歌を書いて欲しい。梅津さん成長しないと。いつまでも同じじゃいられないんだ」
そう言って北條が貴司に出したお題が「相聞歌」
「伝えたいけど伝えられない思い。胸の奥で燃えている恋心。それを歌にする。みんな飢えてるんだよ、そういう歌に。情熱的な恋、経験あるでしょ?まあ無ければフィクションで」
ブログ
御園が書いた記事が新聞に掲載されました。「母娘が立て直した町工場」のタイトルで、大きく載っています。
はやり、記事に載ったのは、IWAKURAの女性たちのことだけでした。それを見て、男性従業員は不満を持っている人もいます。
「記念にどうぞ」
御園がやってきて、取材の時に撮影した写真をもらいました。その中には、男性従業員の写真もありました。その写真を見て顔を曇らせる舞。
「弊社のこと詳しく書いてくださってありがとうございます。ただ、男性社員のことが書かれてへんかったなって。IWAKURAは従業員みんなで立て直した会社です。母と私と女性の従業員だけが頑張ったみたいにって書いてあるの。。。」
舞が言い終る前に、御園が理由を話します。
「だって、そこがおもしろいと思ったんだもの。およそ工場で働きそうもない母と娘が、奮闘の末に工場を立て直した。女性の力が町工場を変えた。おもしろいじゃない」
御園は記者の立場でそう言いますが、舞は納得することができません。
「まだまだ男の人が多いモノづくりの世界で、女性が活躍してるってすごいことだよ。記事を読んで勇気がでた女性もいると思う」
それは舞にも理解できました。
「伝えたいことがあるなら、あなたが発信してみたら?今はいろいろな方法があるでしょ?SNSとかブログとか」
舞は考え込むのでした。
舞の目線
お好み焼き屋の梅津で、会社のみんなとIWAKURAが新聞に載ったお祝いをしました。
「けど、知って欲しいやないですか。俺らがどんな思いでネジ作ってるんか」
しかし、男性従業員の中には、そう不満を漏らす人もいました。
「あの、ちょっといいですか。あの、IWAKURAのブログ、作ってみませんか?うちの職人さんらがどんな思いでネジ作ってはんのか、一人一人のインタビューをブログに載せるんです。これまでのIWAKURAの歩みも、これからの夢もブログに書いて、全世界に発信してみませんか?」
舞が御園に言われたことを考え、みんなに発表しました。その提案にみんなやる気になって、大盛り上がりです。
そんな時、史子がやってきました。
「おばちゃん豚玉2枚お願いします。持ち帰りで」
貴司のための差し入れを買いに来たのでした。雪乃とは、もう仲良くなっています。
「貴司、どないな感じ?」
心配して聞く雪乃に「まだ歌できなくて大変そう」と答える史子。
舞は史子を見つめていました。そして、その目線にお母ちゃんは気づくのでした。
マウント
翌日、舞がデラシネに行くと、史子が店番をしていました。
「あの、貴司君、短歌できました?」
舞が史子にそう聞くと、史子は不満そうに言うのです。
「まだです。あの舞さん、そういうのはプレッシャーになるんですよ。たったの31文字やと思うかもしれませんけど、生み出すのものすごい苦しいんです。歌できたかっていちいち聞きに来られたら、先生もしんどいと思います」
史子の言うことは、もっともです。舞は史子に謝ります。
「すみません。あの、秋月さんはどうやって短歌の勉強しはったんですか?」
舞が聞くと、今度はよくぞ聞いてくれたとばかりに答えます。
「ええ短歌作るために必要なもの、何かわかります?孤独です。梅津先生の短歌を読むってことは、梅津先生の心に振れるってことで。世の中にギラギラした人間ばっかりやない、こんな優しい言葉をかけてくれる人がおるんやって胸を打たれました。そしたら、辛いことも乗り越えられて。梅津先生の短歌は私のお守りなんです」
史子はそう言うと、いつも持ち歩いている小さなノートを舞に見せました。そこには、貴司の短歌の脇に史子の感想が書かれています。
「先生と私は、同じぐらい深い孤独を抱えているんやと思います。せやから、お互いの言葉に癒される。先生が私の原稿読んでええ歌やってゆうてくれはった時、心と心が触れ合った気したんです」
そんな史子の言葉に舞は、涙をこらえるしかありませんでした。
私好きやで
夜、舞は久留美に電話で報告しました。久留美は仕事帰りで、柏木公園にいました。
「ほんまにええの、舞の気持ち、伝えへんまんまで」
舞は「ええ」とだけ答えました。
久留美はそんな舞に物足りない感じを抱えているようです。
そして、舞に「今日、星綺麗やで」と伝えて、電話を切りました。
舞は窓を開けると、そこには隣の家から顔を出している貴司がいました。
「今日七夕やで。あんな、歌集出されへんかもしれん。新しい歌、いっこもできへんねん。なんで短歌作ってるのか、わからんようになってしもた」
舞はどう答えていいかわからないものの、言葉を絞りだしまいた。
「星たちの 光あつめて 見えてきた この道を行く 明日の僕は」
これは、貴司が五島で初めて作った短歌です。
「この歌思い出すたんびに、あの時の景色が目の前に広がんねん。朝の砂浜で、そばに貴司君と久留美がおって。あの朝の気持ち、貴司君の歌で何べんも思い出せんねん。短歌にしたら、一瞬が永遠になるんやんな。私、貴司君の短歌、好きやで。秋月さんもゆうてはった、貴司君の短歌はお守りなんやって。ほな、お休み」
舞が窓を閉めようとすると、貴司が声を掛けます。
「舞ちゃん、ありがとう。お休み」
舞は窓を閉め、カーテンも閉めますが、その場から立ち去ることができませんでした。
貴司流相聞歌
翌朝、眠れない夜を過ごした舞は、ブログ用インタビューのために早朝から仕事に出かけました。
そんな時、柏木公園では、短歌を詠むことができず、悩む貴司。デラシネには、店番の史子と北條がきていました。
「え?梅津さんまだ1首も書けてないの?梅津さんの言語感覚ならさ、ちゃちゃっと書けそうだけどね」
そこは史子が貴司を擁護します。
「先生は1首ずつに魂を込められる方なので。私、魂の籠った梅津先生の恋の歌、楽しみなんです」
ただ、貴司は恋の歌を作ったことがないのが、北條には気がかりです。
「え?ありますよ、300首の中に1首だけ」
そう指摘された北條は、驚いて貴司の300首を見返します。史子は「これです」と指さしました。
「君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた」
しかし、北條にはこれが恋の歌には思えませんでした。何故かと史子に聞きます。
「本歌取りやからですよ。この歌の下敷きになっているのは、狭野弟上娘子の和歌やないですか?」
「君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも」
それは、別れざるを得なくなった夫ヘの思いを詠った歌でした。
「そうです。その和歌に詠まれた情熱的な恋心が、まるで隠しきれない炎のように梅津先生の歌に見え隠れしてるんです。したがって、君というのは恋の相手です」
その解釈に北條は驚くのでした。
インタビュー
「記念すべき1回目のブログは、笠巻さんのインタビューを載せたいと思っています」
笠巻を呼び、そう伝えると、あからさまに嫌そうな顔をする笠巻でした。
「笠巻さん、お願いします。IWAKURAで作ったネジは何十年も残ります。けど、ネジを作った職人さんの気持ちは残りません。私は、ほっといたら消えてしまうその気持ちを何とか残して伝えたいんです。IWAKURAをここまで支えてくれたのは、職人さん一人一人の気持ちやと思うから」
職人の中でも、笠巻には話しを聞きたい舞。
「笠巻さんは、祖父の代から、誰よりも長くIWAKURAを守ってくれはりました。どんな思い出があって、どんな気持ちで働いてきはったんか、記録に残させて欲しいんです」
舞の熱意に圧倒され、笠巻はインタビューを受けることにしました。そして、舞は入社当時の頃から聞きます。
「あれは、25の時やったから、もう44年前やな。従業員3人のちっちゃい工場やったけど、高度経済成長期でな。ネジは作れば作るだけうれたよって、機械は毎日フル稼働やった」
我儘
インタビューを終えた舞は、家でビーフシチュー作っています。そこにお母ちゃんが帰ってきました。
「お母ちゃん、ええブログになりそうやで」
舞の笑顔を見て、お母ちゃんは安心しました。
「よかった、元気そうや。最近、なんや沈んでたやろ。心配しててん。ビーフシチュー?」
舞は2時間かけて煮込み、ブランデーも入れたことを伝えます。
「2時間か、今日もまたデラシネ行けへんかったんやね」
お母ちゃんの言葉に固まる舞。
「貴司君、今大変な時やし。秋月さんもいてはるから」
そう言う舞に、お母ちゃんは今まで言ったことのないアドバイスをします。
「舞、もうちょっと我儘になったら?ほんまに人好きになる時なんか、一生のうちに何べんもあらへんねんで。そん時ぐらい、自分の気持ちのままに動いたらええねん。お母ちゃんな、お父ちゃんのこと好きになった時、自分の幸せしか見えてへんかった。我儘やったわ。せやけどな、お母ちゃんは後悔してへん」
そのお母ちゃんの言葉で、舞は背中を押された気がしました。そして、デラシネに向かいます。
しかし、梅津の前で史子とばったり会ってしまいました。
「梅津先生に御用ですか?」
そう聞かれた舞は「急ぎやないんで」と言って、家に帰ろうとします。
「舞さん、先生のことどう思ってはるんですか?ほんまにただの幼馴染ですか?私は、先生の自分の気持ちちゃんと伝えます」
そう言うと、史子はデラシネへと向かうのでした。
史子の告白
デラシネでは、貴司が短歌を書けずに苦悩していました。そこに史子がやってきます。
史子は、お好み焼きを差し入れですと手渡します。
「秋月さん、前にもゆうたけど、差し入れとかええで」
貴司はそう言って史子を諭しました。しかし、史子にできることは、差し入れぐらいしかありません。史子は勇気を振り絞って、貴司に思いを伝えます。
「先生、短歌できへんときって、しんどいですよね。真っ暗な地下に閉じ込められて、冷たい地面手探りして、言葉探してるみたいで。私、先生の灯になりたいです」
その言葉に立ち上がる貴司。
「ずっと、そばにおって、先生のこと明るくしたり温めたりしたいです」
しかし、貴司の答えは「ごめん」でした。史子は「悪いとこあったら直す」と、さらに貴司にすがります。
「悪いとこなんてないよ。僕な、秋月さんのことすごい歌人やと思ってる。一緒に短歌の話ししてたら、目の前が広がっていく気すんねん」
そう言いますが、答えは変わりません。
「そやのに・・・ダメなんですか?舞さんのことが好きやから?」
それには、貴司は何も答えないのでした。
マグマに蓋する
貴司は北條に頭を下げました。
「歌、作れませんでした」
北條は、300首の中から、相聞歌だと史子が指摘した歌を示します。
「本歌取りなの?恋心が隠れてる」
貴司はうなずきます。
「なんで隠すの。心の奥までさらけ出しなよ。そんな及び腰だから、僕が求めている短歌が作れないんだよ。人の心を揺さぶる、アツい短歌をね。自分でもわかってるんでしょ。そんな中途半端な気持ちで歌集は出せない。残念だけど」
そう言うと、北條は立ち去ろうとします。
「怖いんです。心の奥をさらけ出すの。昔から人とぶつかるのが怖くて」
貴司はそう言うのが精いっぱいでした。
「わかるよ。繊細な人間は得てして臆病だからね。人とぶつかり合わずにうわべだけの付き合いをしてればいいよ。そしたら、拒絶されることもないし、傷つくこともない。まあ、恋心は人に伝えられない。けどさ、もったいないよね。せっかくのマグマに蓋しちゃって」
貴司の中の才能、湧き上がる情熱を北條は「マグマ」と表現して、それを表に出さない貴司を批判するのでした。
引退を考えている
ブログを作成し、公開前恵に笠巻に確認を取ります。
「これ、笠巻さんのインタビューです。これを公開させていただきます。笠巻さんの思い、しっかり伝わると思います」
そう言われた笠巻は、何か満足そうです。
「ええ置き土産になるな。そろそろ引退しようかとおもてんねん。俺ももう年やしな。時の流れは誰にも止められへん」
舞は引き留めようとしますが、笠巻の意思は決まっていました。
それから数日後、昼食を食べながらぼーっとしてる舞。
「ブログ読んだで、良かったわ」
従業員に声を掛けられ待した。古くからいるアキラも、ブログを読んだようです。
「笠巻さんと長いこと一緒におんのに、知らん事多かったわ」
そして、引退を考えていることが話題になります。もうみんな知っていて、止められないことのようです。
背中を押される
デラシネで貴司は「白い蝶」という詩を読んでいました。それは、デラシネの元オーナーで、貴司の師ともいえる八木が書いた詩でした。
そこに北條がやってきました。酔っぱらってる様子で、千鳥足になっています。
「スランプの人発見」
心配する貴司。北条は貴司のことを「いくじなし」と表現しました。そして、酔った勢いで、なぜ書かないのかと聞きます。
「書かないんじゃなくて書けないんです」
「いるんじゃん大切な人がさ。その人の心に向かって、ど真ん中、ストレート、投げるつもりで書けよ。そういう歌が大勢の心を打つんだよ」
貴司の背中を押してくれたのは北條でした。
その頃、舞の家に史子がやってきました。部屋にあげる舞。
史子は、机に貴司が書いたたった1首の相聞歌が飾ってあるのを見つけます。
「これ、本歌取りなんですよ。元の歌は、情熱的な恋の歌です。梅津先生のほんまの気持ち、聞きに行ったらどうですか?私は、私は、私の歌を詠んで生きていきます」
そう言うと、史子は去っていきました。
そう言われた舞は、子供の頃から今までの貴司との思い出が、一気に思い出されました。舞の背中を押したのは、史子でした。
伝えたい思い
舞は貴司に会いにデラシネに行きました。しかし、デラシネは閉まっています。
探し回った舞は、柏木公園で貴司を見つけました。
「舞ちゃん、どないしたん?」
いつものように語り掛ける貴司に、舞は伝えます。
「会いたかった。会って、好きって言いたかった。怖かった」
舞の気持ちを知った貴司は、湧き上がる思いを伝えます。
「僕も怖かった。舞ちゃんと恋人になりたいなんて欲張ったら、今の幸せが消えそうで。けど、ずっと好きやった」
そう言うと、抱き合う二人。
「目を凝らす 見えない星を 見るように 一生かけて 君を知りたい」
詠めなかった歌が詠めるようになったのです。
最後に
お互いが伝えたいと思っていた思いが、いろいろな人の後押しによって、伝えることができました。
いいシーンでしたし、いい歌になりました。
そして、来週はもう結婚するようです。展開が早いな。幼馴染ですから、付き合わなくてもいいと言えばいいのかもしれません。
そして、悠人も登場して、なんだか久留美といい雰囲気になりそうです。
来週は楽しそうな雰囲気の予告で、期待してしまいます。