「風の海迷宮の岸」は戴極国(戴国)の話しです。
景国王・陽子の物語も面白いですが、戴国の話も面白いです。
第一弾として「風の海迷宮の岸」があります。
流される卵果
蓬山の捨身木に戴極国の麒麟の卵果が実ります。
そして、母親代わりとなる女怪・汕子が生まれ、蓬山は麒麟の誕生を待っていました。
しかし、突如発生した蝕に巻き込まれ、麒麟の卵果は流され行方不明になってしまいました。
人が里木に卵果がなって生まれるように、麒麟は蓬山にある捨身木に麒麟の卵果がなります。
雁国の麒麟・六太も流されて日本に生まれましたが、それから約400年後の話しになります。
流された日本は、現代の日本でした。
泰麒戻る
日本での名前は高里要。
10歳の時、身に覚えがない事で祖母に叱られて家から閉め出されてしまいます。
雪の降る庭でたたずんでいたところを、廉麟(漣極国の麒麟)の助力を得た汕子によって蓬山に連れ戻されました。
日本で人間として育った泰麒ですが、身の回りの世話をする女仙から「麒麟は人ではなく獣であり、獣の姿に転変する」や、「麒麟は天啓を受けて自らの主である王を選定する」と知らされます。
しかし、戻って来たばかりの泰麒は、どうしていいのかわかりません。
本来であれば、生まれながらにして麒麟であり、麒麟として生活しているうちに自然と身に着くもののようです。
そして、何の力も振るうことができず、麒麟としての自覚も持てませんでした。
景麒
女仙の長・碧霞玄君は景国から景麒を招き、麒麟の何たるかを泰麒へ教えさせようとします。
しかし、泰麒は生まれたときから人間の姿で、今も獣の姿に転変できません。景麒も転変の仕方を教えることができません。
なぜなら、それは教えられて身に着けるものではなく、自然と習得するものだからです。
そのことで、泰麒は「自分は麒麟の出来そこない」ではないかと思い悩んで泣いてしまいます。
麒麟として幼い泰麒を泣かせたことで、景麒は女仙から責められます。
景麒も反省し、泰麒に麒麟の能力や役割を伝えます。他にも、妖魔の折伏を実践してみせますが、結局泰麒には折伏することはできませんでした。
折伏は、麒麟にとって重要なことです。麒麟は慈愛の生物で、戦うことができません。例えば、妖魔などに襲われた時に身を守る術がないのです。
そのため、妖魔を僕として折伏することが必要になります。
昇山
景麒を慕っていましたが、景麒は慶国での仕事があります。この時はまだ、景国王は陽子の前の女王の時代です。
泰麒は麒麟としての自覚を持てないままでしたが、戴国に麒麟旗が掲げられます。
麒麟旗は、麒麟が王を選ぶことができるようになったという知らせです。
その旗を見た戴国の民で、王になることを望む者(昇山者)たちが泰麒に会うために続々と蓬山に集って来ます。
しかし、泰麒は王を選ぶ「天啓」がどんなものか判らないままです。
昇山者と対面する泰麒は、承州師将軍(戴国の州の軍の将軍)の李斎と知り合います。
他にも、禁軍左軍将軍(王直属の分の第一将軍)の驍宗には、恐怖に似たものを感じます。
しかし、昇山した人の中から王を選ぶということが、どうしても泰麒にはわかりませんでした。
昇山してきた人は、自分が王になると思っている人達です。しかし、天啓が示す人が、その中にいるとは限りません。
戴国の子供だったり、お年寄りだったり、卵果として日本に流されている可能性があります。
王の気配というのも、本来であれば麒麟はわかるものです。それを使って景麒は、陽子を探しました。しかし、泰麒には、王の気配がどういうものかもわかりませんでした。
饕餮とうてつ
泰麒は、度々李斎を訪れ、驍宗とも会話を交わすようになります。
そして、彼らが狩に出かけるというので、泰麒はついて行くことにします。
しかし、女仙達は反対です。せっかく戻った泰麒が、妖魔に傷つけられたり、殺められたりすることを心配していました。泰麒は、自分の身を守る術を持っていません。
とは言っても、一緒に行くのが州軍の将軍と禁軍の将軍です。女仙の反対を押し切って同行しました。
そして、狩りの最中に李斎が見つけた洞窟に入った3人は、内部に潜んでいた伝説級の妖魔・饕餮に襲われてしまいます。
饕餮の攻撃にケガをしてしまった驍宗と李斎。饕餮は、名のある将軍ですら太刀打ちできない程、恐ろしい妖魔です。
泰麒はひとりで対峙することになります。傷ついた二人を守るという強い思いから、泰麒は初めて折伏に成功します。そして、饕餮を使令に下すという前例のないことをやってのけます。
誓約
ケガが言えた驍宗と李斎が蓬山を去る日が訪れます。
驍宗は、「王になれなかったので、禁軍を辞め黄海(妖魔の住む領域)に入る」と聞きます。
蓬山に昇山できるのは、一生に一度だけです。泰麒に選ばれなかった驍宗は、もう王になることは諦めてしまったようです。
その時、二度と驍宗に会えないと思った泰麒は、離れたくないと思う感情が抑えきれずに走り出してしまいます。
気づくと、いつの間にか麒麟の獣の姿に転じていました。初めての転変です。
そして、驍宗の前まで行くと、王に選び誓約します。ただ、泰麒は「天啓が無いのに偽者の王を選んでしまった」と思い悩み後悔し続けます。
天勅を受ける儀式で、泰麒は罰を受けると思っていました。しかし、何事も無く儀式は終わりました。
景麒との再会
戴国へ下って王と宰輔の座に就くと、国そのものが偽りでできているように思えてしまいます。
泰麒の様子を伺いに載国の王宮を訪ねた景麒と再会し、不安げな様子を景麒に心配されてしまいます。そして泰麒は、「偽者の王を選んでしまった」と打ち明けます。
しばらくして、泰王即位の慶賀のため、驍宗と誼のある延王が戴国へやってきます。
延王と面会した泰麒は、延麒と景麒もいる前で、延王に対し叩頭礼をするよう驍宗から命じられます。
しかし、言われるまま叩頭しようとしますが、地に手をついたところでそれ以上体が動かなくなります。
強引に押し付けられて、叩頭しようとしますが、やはりできませんでした。
「麒麟は自らの主以外に叩頭できない」という事を身を以って知った泰麒。
自分が驍宗に感じた畏怖が、王を示す天啓であったことを理解しました。
感想
「風の海迷宮の岸」は、かわいらしい泰麒が印象的な物語です。
とっても真面目で、麒麟とは何かを探し求める姿は、応援したくなります。
驍宗と泰麒の関係も、すごく読んでいて心が温まります。
「風の海迷宮の岸」は十二国記シリーズの中でも、何度も読んでしまう作品です。