母と私の挑戦 は第16週のサブタイトルです。
この暗いトンネルはいつまで続くんでしょう?
第12週「翼を休める島」の時にリーマンショックの影響が描かれ、工場が大変な状況になりました。それから、年末年始を挟んで4週経ちましたが、どんどん悪い方向に進んで行っています。
お父ちゃんんが倒れ、亡くなり、リストラもありました。
今週こそは、光が見えてくるんでしょうか?
そんな第16週のまとめです。
主な登場人物
岩倉舞 福原遥 IWAKURA再建のために働く
梅津貴司 赤楚衛二 舞の幼馴染、旅人で歌人
望月久留美 山下美月 舞の幼馴染、看護師
才津祥子 高畑淳子 舞の祖母でめぐみの母
岩倉浩太 高橋克典 舞の父、故人
岩倉めぐみ 永作博美 舞の母、株式会社IWAKURA社長
岩倉悠人 横山裕 舞の兄、天才投資家
梅津勝 山口智充 貴司の父。浩太の幼馴染のお好み焼き屋
梅津雪乃 くわばたりえ 貴司の母。勝の妻
望月佳晴 松尾諭 久留美の父。元ラガーマン
笠巻久之 古舘寛治 IWAKURAのベテラン従業員
結城章 葵揚 IWAKURAの元従業員
山田紗江 大浦千佳 IWAKURAの合コン好き事務員
藤沢哲 榎田貴斗 IWAKURAのお気楽営業
土屋景子 二宮星 IWAKURAのネジ好き従業員
尾藤岳 中村凛太郎 IWAKURAの設計担当(仮)
第16週のストーリー
決意表明
朝、舞はスーツを着込み、自分の名刺を確認しました。そして、部屋に飾ってあるばらもん凧に行ってきますと言って出勤しました。
その朝は、お母ちゃんが社長になるという決意表明をする会議が行われました。
「おはようございます。皆さん、この度は経費削減と在庫削減にご協力いただき、ありがとうございました。人員整理も終わりました。その結果、信金さんに融資の返済期限を延長してもらえることになりました。返済までの猶予は半年。それまでに強固な収益基盤を作り上げて、経営を立て直さなあきません」
しかし、厳しい状況は変わりありません。
「そやから、営業に力を入れようと思ってます。藤沢くんと私と娘で、新規事業獲得していくつもりです」
従業員達は舞がパイロットになると思っていました。
「内定は辞退しました」
舞はそう簡潔に報告します。
「今のIWAKURAに足りないのは新規の仕事です。営業に人手が必要やと経営者として判断しました」
それには笠巻達従業員が驚きます。
「父が守ろうとしたこの工場のために、私もできることやりたいと思たんです。今はできへんことも、ちょとずつ覚えて、やれるようになりたい思ってます。せやから、お願いします。一緒に働かせて下さい」
そう舞が言いますが、従業員達の反応は冷たいものでした。
おばあちゃんへ報告
従業員達は、お母ちゃんや舞がいない所で噂話をしています。
「お嬢さん、午前中だけネジの梱包の仕事して、午後から営業の仕事行くってゆうてる」
「素人が仕事取って来れるほど、甘い仕事ちゃいまっせ」
「せやけど、人いませんやん。お嬢さんに頼らなあかんぐらい、やばいんですよ」
「あと半年か」
そんな話をしているとも知らず、舞が工場から帰ってくると、お母ちゃんはおばあちゃんに電話で報告していました。お母ちゃんは、舞が帰ってきたことに気づくと、電話を舞に代わります。
「めぐみは社長になるっち、無理ばしとらんか」
おばあちゃんは、お母ちゃんのことを心配しています。
「無理せんように私も気をつけてる。あんなばんば、私博多エアラインの内定、辞退してん。お母ちゃんと二人で工場立て直すって決めた」
一瞬絶句するおばあちゃんですが、それを悟られないように「そうねえ」と返事をしました。
「ごめんなばんば、パイロットになんの楽しみにしてくれてたのに」
しかし、おばあちゃんは舞の覚悟を肯定します。
「謝ることじゃなか。ようく決心したね」
アサヒのその後
そして、おばあちゃんは舞にアサヒの近況を話してくれました。
「そやった、舞。アサヒが今日、初めて星空クラブの友達ば連れてきたとよ。そん子に学校に来んかっちな誘われてな、アサヒ行く気になっちょっとさ」
舞にとっても嬉しい報告でした。アサヒが前に進んでいるように、舞も頑張る気持ちになりました。
苦戦
社長になったお母ちゃんは金融機関に出す資料に追われ、営業にまで手がまわりません。そのため、営業は藤沢と舞が担当します。
「営業先の会社をリストアップしてある。手分けしてあたってみよ」
そう言われ電話でアポを取ろうとする藤沢。特に教えられていませんが、舞も藤沢の真似をしてアポを取ろうとします。しかし、結果は全滅。リストにあった会社に全て電話しましたが、藤沢も舞もアポを取ることができませんでした。
「次の手考えなきゃあきませんね」
舞はそう言いますが、藤沢は直接会いに行くと舞に言うのでした。
「飛び込み営業ですか?」
藤沢はそうやと言うと、舞と手分けして営業に出かけることになりました。舞は、なんにも教えられず、一人で営業に行くことになりました。
当然、アポなしで訪問しても、担当者に会ってもらうことができません。
信用できへんのです
そんな中、カワチ鋲螺という会社に訪問すると、担当者に会うことができました。
「今日は、どないなご用件で?」
そう聞かれた舞は、新しい仕事をいただきたいとストレートに切り込みます。
「今まで経営に関わってへんかったお母さんが、社長になりはったんですわな。厳しいこと言いますけどな、そない簡単に信用できへんのですわ。今、ご自身の会社がどのレベルの仕事やったら引き受けられるのか、ちゃんと理解してはりますか?未経験者が工場やって行くって、どだい無理な話しなんですわ。ほな、これで」
そう言われてしまいました。しかし、カワチ鋲螺はお父ちゃんが困った時に試作品をやらせてくれた会社です。厳しい言葉の中にも、アドバイスが含まれていました。
舞が会社に戻ると、事務員の山田に言われてしまいます。
「で、言われっぱなしで帰ってきたんですか?」
舞は当然のことのように答えました。
「はい。言われた時はショックやったけど、よう考えたらその通りやなって。私もしっかり勉強して、うちのネジのことようわかった上で、営業できるようになりたいんです」
補習授業
「山田さん、転造加工と切削加工のコストの違い、わかります?」
事務員の山田に舞が聞きますが、山田にはわかりません。舞は笠巻に聞きに行くことにしました。
従業員達は、今からネジを勉強する舞に冷たい目線を送ります。しかし、笠巻は親身になって教えてくれました。
「ネジ山の作り方には大きく二つある。機械の中で材料転がして変形させる転造加工と、材料を削って作る切削加工な」
舞が授業を受けていると、そこにお母ちゃんもやってきて、一緒に授業を受けることにしました。
その補習授業の姿は、従業員達は不評です。
「笠巻さんもしんどいこっちゃ。素人に一から教えなあかん」
「その素人がうちの社長やからな、なさけないわ」
そんな従業員達の会話を聞いた土屋は、舞たちと一緒に授業を受けることにしました。
お兄ちゃんには関係ないやん
舞が一人で勉強していると、玄関の扉が開いた音がしました。お母ちゃんが帰ってきたと思って、出迎えに行くと、そこにいたのは悠人でした。舞は、悠人に内定を辞退したことを伝えました。
「はあ?ホンマに内定辞退したんか。アホちゃうか。ネジ計る前に航空会社と先の見えへん工場、天秤にかけてみろや」
そう言われ、舞は怒ります。
「お兄ちゃんには関係ないやん。何しにきたん?」
しかし、悠人は「ちょっとな」と言って、舞には話してくれません。そこにお母ちゃんが帰ってきました。帰りが遅かったお母ちゃんに悠人は何してたと聞きます。
「たまってた仕事片付けててん。昼間営業出てたから。新しい仕事がどないしてもいるねん。半年以内に経営改善させな、これ以上は融資の返済は待たれへんって信金さんに言われてるしな。せや、雪乃さんに梨もろてん。お父ちゃんにお供えしてあげて」
お母ちゃんは悠人に梨を渡しますが、悠人は「ええわ」と言って、仏壇に向かうことをしませんでした。
悠人の提案
悠人が拒否したので、お母ちゃんが仏壇に梨を供えて手を合わせます。
その姿を悠人は見ていました。
「やつれたな」
そう言うと、お母ちゃんに話があると言うのでした。悠人は、持ってきたパンフレットをお母ちゃんと舞に見せます。
「工場取り壊してマンションにせえへんか?初期投資は俺がする。ほんなら借金がなくなって、お袋はマンションの家賃収入で生活できる」
お母ちゃんは、悠人が考えてくれたことに嬉しそうです。悠人は「今より楽になるはずや」と言いますが、お母ちゃんの考えは違いしました。
「悠人、お母ちゃんな、楽やのうても工場続けたいねん」
そう言われた悠人は、営業でどれぐらいの仕事が取れてるかと聞きます。
「まだ取れてへんけど」
その返事に呆れる悠人。
「そんなんで半年後の経営どないするん?潰すんやったら早い方がええ。半年じたばたしても意味ないわ。連絡待ってんで」
それだけ言うと、悠人は出て行ってしまいました。
貴司からの手紙
悠人が出て行った後、舞はお母ちゃんに営業頑張ると宣言しました。そして、営業の自主練習です。
「うちのネジは品質がええんです。ネジの立ち上がりが違います。うちにある機械ですか?うちにある機械は・・・なんやったっけ・・・そうや、2ダイ3ブローや。かっこええな」
そんな練習をしても、そんなに簡単に仕事が取れるはずがありません。
「ただいまもどりました」
がっくり肩を落として事務所に戻ってくる舞。事務所には山田だけがいました。山田は、手を開いて、上向きにしていました。
「手どないしたんですか?」
舞がそう聞くと、山田はお気楽な返事をします。
「夜、合コンだからマニキュア乾かしてるです。お嬢さんこそどないしたんですか?」
舞のがっくりとした姿を見た山田が、そう聞きました。
「今日もぜんぜんあかんかって」
舞はそう答えました。
「お嬢さんって、要領悪いですよね?要領よかったら、この工場にけえへんか。パイロットになれるチャンス棄てて。私なんか、どっかに逃げる方法ばっか考えてますけどね。ほな、お先です」
そう言うと、気合入れて合コンに行ってしまいました。
舞は一人で家に帰りました。家の隣のお好み焼き屋の梅津は賑やかです。舞が家のポストを見ると、貴司からの絵葉書が入っていました。
その絵葉書には、貴司の短歌が書いてありました。
「君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた」
久留美の恋
舞はネジの勉強をしようとノーサイドに行きました。そうすると、オーナーが舞に合図をおくります。
オーナーが合図したのは、久留美が同じ病院の先生と、カウンターでデートしていたからです。舞は邪魔しないように、離れた所で見ていました。
そんな時、久留美が舞に気づいて、ヤガミ先生を紹介してくれました。
「お邪魔してしもて。またな」
舞はそう言うと、邪魔をしないように離れた場所でネジの勉強を始めました。舞も久留美もこのノーサイドでバイトした仲です。ニヤニヤが止まらないオーナーがやってきて、舞と一緒に嬉しそうにするのでした。
それからしばらくして、ヤガミが病院から呼び出しがきて、一人で帰ってしまいました。甲斐甲斐しく見送る久留美。ヤガミがいなくなると、舞が久留美に「いつからつきあってんの?」と聞きました。
「ずっと仕事仲間やと思っててんけど、春に告白されてん。で、一遍断った。もっともっと仕事できるようになりたいし、恋愛なんかしてる暇ないなって思って。ほんならヤガミ先生が友達でええからって。ご飯食べたり、勉強会してるうちに気いついて。毎日さよならゆうて別れるとき、何か胸がキュンってなるなって」
久留美は、お父ちゃんを無くした舞に気をつかって、話していませんでした。しかし、舞は「幸せ分けてもらえて、めっちゃ嬉しい」と嬉しい気持ちになったのでした。
赤字の要因と営業ツール
「藤沢くんちょっと来て。これな、イカルガ商事さんのネジ。単価が安すぎんねん」
お母ちゃんが藤沢を呼んで聞いたネジは、リーマンショックの時に安く引き受けたネジでした。そのネジが赤字を生み、会社の経営を圧迫していたのです。そのことを指摘され、落ち込む藤沢でした。
その頃、舞は笠巻に言われネジを探していました。探したネジを笠巻に渡します。
「これ太陽光発電の?まだ棄ててへんかったんですか?これでうちの会社えらい目にあったのに」
そう言われたネジですが、大事なネジなのです。
「せやな。けどな、うちの技術はこのネジに凝縮されてんねん。見てみいこの厳しい加工。これIWAKURAやからできたんやで。2ダイ3ブローでな」
笠巻がそう言うと、舞は得意げに説明します。
「素材を2回押し込んで3回打ち付ける機械ですよね」
教え子がちゃんと勉強していたことに笠巻も嬉しそうです。
「あの、このネジもろてもよろしいですか?IWAKURAの技術がどんだけ凄いかわかってもらえるかなっておもて」
舞は、そのIWAKURAの技術が詰まったネジを、営業のツールにすることにしました。
原因と対策
ネジの補習は、舞とお母ちゃんと土屋がメンバーです。そこに、藤沢も参加することにしました。
「特殊加工ネジは、金型代が大きく影響する。藤沢は甘く見積もったせいで赤字を出してしまった」
笠巻は赤字の原因をそう説明しました。
「今はこのネジ、3円80銭でイカルガさんに売ってんねんけど、これ金型ひとつで何本できます?」
お母ちゃんにそう聞かれた笠巻は、土屋に回答するように言います。
「5万本ってところですか?」
正解です。笠巻は「現場ようみてるな」と土屋を褒めました。
金型代だけで1本あたり1円20銭かかるということです。そこに固定費や材料費を足す必要があります。
翌朝、お母ちゃんは決断しました。
「4円50銭にする」
しかし、値上げ交渉が簡単に行くはずはありません。
「そりゃ簡単やあらへんやろうけど、しっかり交渉してくるわ」
舞とお母ちゃんは、気合を入れて出勤するのでした。
あんたのお父さん思い出しますわ
舞は、カワチ鋲螺に営業に行きました。
「こちらは、太陽光発電の機械のために作ったネジなんです。うちではこの形状を2ダイ3ブローで加工することができます。そやから、価格も安う押さえられるんです。それにこれ、頭の部分が非常に大きくて、ネジが極端に短いですよね。こういう製品ってバランスが悪すぎるから、丸ダイスで1本1本加工する会社が多いですけど、IWAKURAは独自技術を加えて生産性の高い平ダイスで加工することができるんです」
その話に食いつく担当。
「独自技術?」
舞は「それは、秘密です」と営業らしい答えをするのでした。
「ようわかりました。勉強しはったんですな。せやけど、お願いできる仕事はあらへんのですわ」
そう言って立ち去る担当を、舞は追いかけて食い下がります。
「あの、どんな小さい仕事でもかまいません。精一杯やらせてもらいますんで」
舞が頭を下げると、担当者はお父ちゃんが必死に頼み込む姿を重ね合わせました。
「なんや、あんたのお父さん、思い出しますわ」
しかし、新しい仕事をもらうことはできませんでした。
その時、空には飛行機が飛んでいました。
値上げ交渉
価格交渉では、お母ちゃんと藤沢がイカルガに行って交渉します。
「これからは4円50銭にさせてもらえませんやろか」
お母ちゃんがそう切り込みますが、反応は予想した通り鈍いものでした。
「急にそないなこと言われてもな。そもそも藤沢くんがこの値段でお願いしますって頼み込むさかいやな、お受けしたわけで。奥さんが社長さんになりはったって聞いて、どこまでやりはるか期待してはったんですけどな、いきなり値上げの申し入れですか。やっぱり主婦が家計見直すようなことしかできへんのですね」
その言葉にイラっとするお母ちゃん。しかし、冷静に反論しました。
「主婦が家庭守るように、社長は会社守らなあきません。材料費が高騰してる今、この値段で取引してたら会社を危険にさらすことになります。あと、3か月今のままやらせてもらいます。その間に、4円50銭より安う作れる会社を見つけられたら、そちらに頼んでいただいて結構です。けど、そんな会社ありますやろか。もちろん、一方的に値上げをお願いするつもりはありません。今後御社から新しいご依頼をいただいた際には、設計段階でコスト的にメリットのある提案をプラスアルファでさせてもらいます。新しい価格は、弊社の職人たちの持つ技術への正当な対価やと思っております」
そう言って、お母ちゃんは藤沢と一緒に頭を下げるのでした。
理解
藤沢は会社に戻ると、他の従業員達にお母ちゃんの値上げ交渉を説明します。
「カッコよかった。主婦が家庭を守るように会社を守らなあきません。言われた相手の顔、見せたかったなー。そんでね、うちの職人が持ってる技術への正当な対価じゃ、ワレ文句あんのけって」
しかし、最後は盛り過ぎました。
「ワレ?奥さんそんなガラ悪くないやろ」
従業員に言われ、藤沢は冷静になります。
「とにかく、一歩も引かず、パシッと決めてくれはったんです」
それを聞いて、従業員達はお母ちゃんのことを見直してくれたようです。
その頃、舞も事務所に戻ってきました。やけに嬉しそうに帰ってきた舞にお母ちゃんは「仕事、取れたん?」と聞きます。
しかし、舞は「ぜんぜん」と答えました。嬉しそうにしてたのは、一生懸命な姿がお父ちゃんを思い出すと言われたからでもあり、営業に手ごたえを感じ始めていたからかもしれません。
その時、電話がかかってきました。
「お嬢さん、カワチ鋲螺のモリモトさんです」
そう言われて代わった電話で、舞はびっくりして聞き返しました。
「そやから、IWAKURAさんに見積もりをお願いしたいんです。薄型テレビに使うネジなんですけどね、とりあえず見てもらえますか?」
舞は、すぐに出かけていきました。
期待と問題
舞がカワチ鋲螺から帰ってくると、みんなが食堂で待っていました。何かあったのかと聞く舞に、山田が答えます。
「お嬢さんが、初めて仕事取ったって話したら、みんな図面見るまで信じへんって」
そう言われた舞は、カバンから図面出して広げて見せます。
「はい、この通り、仕事いただきました!」
それには、従業員みんなが「おぉぉ」と感嘆の声をあげて、拍手が巻き起こります。
「数量も多いし、なかなかでっかい仕事やんか」
そう言われ得意げな舞。しかし、問題がありました。
「あの、試作の仕事もろても、設計はどうするんですか?設計できるの先代社長と結城さんだけでしょ?」
設計は、図面通りのネジを作るためにどんな工程で作っていくか決めることを言っています。その問題を打ち消したのが、尾藤でした。
「俺がやんねん。結城さん、辞める前に特訓してくれはたんや。俺がおらんくなったら、お前が設計やるんやでって。まあこの尾藤にどんと任してくれ」
そう胸を張るのでした。
アキラの恩返し
「失敗しました」
尾藤は、5万円もした金型をネジ1本作っただけで、壊してしまったというのです。
「しゃあない。塑性加工はいろんな条件がからむさかい、計算通りにいかんものや」
笠巻はそう言って尾藤を擁護します。しかし、アキラは計算通りにやっていました。
「結城は長いこと現場で経験積んで、職人としての腕を磨いたんや。お前も焦らんと、身に付けたらええねん」
そう言って慰めると、みんなは設計のできる人間を探し始めました。
そんな中、舞はアキラに電話しました。しかし、アキラは電話に出ず、留守番を聞くだけでした。
「アキラ兄ちゃん、舞です。あの設計のことで相談があって、アキラ兄ちゃん助けてもらえませんか?梅津で待ってます」
そして、舞は梅津で待っていますが、アキラはきませんでした。
アキラと連絡が取れず、別の設計できる人も見つからず、途方に暮れていました。
そこにやって来たのがアキラです。
「わからんことあったら、いつでも連絡してこいゆうたやろ。図面見してもらえませんか?」
アキラの申し出に躊躇するお母ちゃん。しかし、背に腹は代えられません。お母ちゃんはアキラに図面を見せることにしました。
「壊れた金型はあるか?ここの形状が難しかったんやな。この試作、俺に任せてもろてもいいですか?岩倉に恩返しさせて下さい」
アキラの申し出に頭を下げるお母ちゃんでした。
プライドちゅうもんがないのか
翌日、アキラに図面を渡したことを従業員に伝えます。
「結城に図面を渡した?アイツはここを辞めていった人間やで。お前にはプライドっちゅうもんがないのか」
尾藤が責められますが、舞はアキラに頼んだのは自分だと主張します。
「結城さん、自分の仕事が終わった後、無償で来てくれます。俺のせいで、来週の夜6時、作業する予定です。みなさん、手伝ってもらえませんか?」
尾藤はそう言って、従業員の力を借りたいと申し出ます。それに舞も頭を下げます。
「それやったら、結城をちゃんと雇ったらええがな」
「そんなんで品質が保てるとは思われへんがな」
そう言って立ち去る従業員の中で、手を挙げたのが山田でした。
「いいですよ。しばらく合コン、ないんで」
「私も残ります。試作やったことないけど」
「ぼくも」
「お前らだけ残ってもな。しゃーない、手伝ってやる。でも、夜中までやるのは許さんからな」
山田の発言から、藤沢、土屋、笠巻などが残ってくれることになりました。
アキラの本音
そして、アキラが来る日になりました。一部の従業員がアキラの到着を待っています。
「ご無沙汰してます」
そう言って入ってきたアキラ。
「よう来れたな。扇さん許してくれはったんやな」
聞く方からすれば、歓迎していないのかと思いました。しかし、みんなはアキラが来るのを待っていたのです。
そして、みんなで作業をします。すぐには上手く行きませんが、時間を忘れてみんな作業してくれました。
最後、アキラとお母ちゃん、舞が残りました。
「ありがとう。こんな遅うまで」
お母ちゃんが労いの言葉を掛けます。
「楽しいて、あっという間でした。仕事する楽しさみたいなん、久しぶり思い出しました。ここで、仲間とああだこうだゆうてネジ作り上げるの、やっぱり好きやなって」
そんなアキラの言葉に、舞は本音を瞑毛ます。
「戻ってきてもらえませんか?ああ、ごめんなさい、勝手なことゆうて」
それにアキラも応えます。
「ほな、俺も勝手なこと言うわ。ほんまは戻ってきたい」
いっぱしの経営者
家に帰って来た、お母ちゃんと舞。アキラに戻ってきてもらえたらなと考えていました。しかし、今のIWAKURAには、新しく人を雇うお金がありません。
お母ちゃんは、舞がお風呂に行くと、悠人に電話してみました。
そして、お母ちゃんは悠人に会いに行きました。
「で、投資の話し?」
そう切り出した悠人にお母ちゃんが答えます。
「そうや。今、自動車業界はリーマンの打撃から立ち直りつつある。しっかりとした技術と設備を持つIWAKURAは、これから伸びていく会社や。せやから悠人、工場を買い取ることでIWAKURAに投資して欲しい」
そんなことを言うお母ちゃんに驚く悠人。
「へえ、いっぱしの経営者みたいや」
そんな茶化す悠人にお母ちゃんは、真剣な顔で言います。
「経営者として頼んでんねん」
その気迫に押されたのか、悠人もしっかりビジネスとして話しをしました。
「わかった、買い取ったる。でも、これはビジネスや。支払が滞ったら、すぐ工場売り払うからな」
そして、二人は握手して、交渉は成立しました。
重たい責任
翌日、皆を集めてお母ちゃんが話しをします。
「IWAKURAを売ろうと思います。この土地と工場を売って、そのお金で借金全て返せます。それだけやなく、残ったお金を運転資金に充てられます。土地と工場を買ってくれた人に家賃払って、私たちはここで今まで通りネジを作り続けるんです」
そう宣言すると、従業員達はお母ちゃんに聞きます。
「そんな都合のええ買主、おったんですか」
お母ちゃんは「はい、見つけました。息子です」と答えました。
しかし、工場の経営に無関心だった悠人が、工場を続ける手伝いをするとは信じられません。
「息子さん、信じて大丈夫なんですか?」
その反応はお母ちゃんもわかっています。しかし、猶予してもらっている返済が迫っている今、工場を守るために必要な決断でした。
「その資金で足りなかった人材を雇うことができます。手当かて、もっと出せます。成長させたい。みなさんと一緒にIWAKURAを成長させていきたいと思ってます」
そう言って、お母ちゃんは会議を締めくくりました。
そして、舞と二人になると、お母ちゃんは自分の気持ちを打ち明けます。
「これまではな、従業員とその家族に責任があった。それが、投資してもらうことで、悠人への責任も生まれる。これまでより、重たい責任背負って工場守っていかなあかん」
それを聞いて、舞も一緒に頑張ることを誓うのでした。
アキラ復帰
納期まで1週間となり、連日連夜試作品づくりを行っていました。
工場からアキラの声が聞こえ、夜なのに従業員みんながいて、作業していました。
「社長、試作合格した後の量産スケジュール相談させて下さい」
そして、職人以外は夜食の差し入れを買ってきたりしています。
「今ここには、全部揃てる。ええレシピも機械も、職人もな。ここには全部詰まってる。従業員らと力合わせて進めてきた思い出も、これからの夢もや」
舞は、お父ちゃんと交わした最後の会話が甦ります。
そして、ついに試作品ができあがりました。
「大事に持って行き。IWAKURAの新しいネジや」
そう言って渡されたネジを舞は受け取りました。みんなで完成を喜んでいる輪から離れ、アキラは帰ろうとします。それを見たお母ちゃんが声を掛けました。
「アキラくん、ありがとう」
アキラはにっこりと笑うのでした。
そして、舞がカワチ鋲螺へ持っていった試作品は、無事合格しました。
「ほんで、早速大量注文いただいたんで、みなさんお願いします。それから、従業員が一人増えます」
そう言って紹介された人物はアキラでした。
「またよろしゅうお願いします」
明るい未来のために
舞は、おばあちゃんに電話しました。
「ほんでな、初めて取ってきた仕事がな、上手くいってん」
おばあちゃんも嬉しそうです。
「そうね。よかったねーぎばっとぞー」
舞の営業活動も、もっと頑張らないといけません。
そんなある日の夜、五島では送別会が行われていました。
「ざーまに綺麗か月やねー。むっちゃんも同じ月、みちょっとかな」
さくらがそんな感想を言っていましたが、さくらの彼氏のむっちゃんは海外にいて、同じ月はみてないかもしれません。
「祥子さん、みなさん、今までありがとうございました。おかげでアサヒが学校に行けるようになって」
そう挨拶したのは、アサヒの母・ミチルでした。ミチルはアサヒと一緒に移住体験していました。そして、アサヒが学校に通えるようになったことで、島に家を借りて、正式に移住することになったのです。移住先は、おばあちゃんの家のすぐ近くです。
「手紙書く」
アサヒは一緒に月を見ていた貴司にそう言いました。
「ありがとう。元気でな」
そんな二人を見て、村役場の信吾は宣言しました。
「都会で上手くやれん子、島で受け入れる仕組みば、ちゃんと作っていきたかとです」
それは、子供だけでなく、島の未来も明るくなる方法でした。
そして、貴司はアサヒが引っ越したのを見て、東大阪に帰りました。
デラシネ
東大阪では、貴司が帰って来たので、舞と久留美も集まりました。場所は、いつもの梅津です。
乾杯しようとすると、貴司の母・雪乃が新聞を持ってやってきました。
「貴司も乾杯したって。初めて新聞載ってん。じゃーん」
その新聞には貴司の投稿した短歌が載っていました。
「今月の新鋭歌人 梅津貴司
陽だまりの 方へ寝返り 打つように 昆布は水に ひらいていった」
それには舞も久留美も嬉しそうにしています。
貴司の短歌が掲載され、舞の仕事が充実し、久留美のプライベートも幸せそうです。そんなみんなの幸せを祝して、乾杯しました。
「そらよかったわ」
貴司の背後からやってきた人がいました。元デラシネ店主・八木でした。
旅に出ていたおっちゃんですが、貴司の短歌を見て帰ってきたのです。
「心にすっと飛び込む歌作れるようになったんか」
そう言われた貴司ですが、貴司が短歌を詠むようになったのはおっちゃんの影響です。
「ありがとう。おっちゃんのおかげや」
おっちゃんは貴司に鍵を渡しました。
「せやろ、頼んだで。デラシネの鍵や。これからはお前に任せることにしたわ。ええ風吹いてきたわ」
そう言うと、おっちゃんは立ち去りました。
報告
お母ちゃんは従業員を集めて、IWAKURAの新しいスタートを宣言しました。
「えらい心配かけましたけど、借金完済して、大きい仕事も受注しました。IWAKURAは新しいスタートを切ります。どんどん仕事受けて、IWAKURAのネジをいろんな機械につこてもらいたと思います。そのためにも、IWAKURAのチーム力を上げていきたい。この会社が良くなるためにどないしたらええか、皆さんにも考えて欲しいんです」
そう言うと、舞を指名します。舞は目安箱を準備していました。
「みなさん改善点やアイデアがあれば、何でも書いてここに入れて下さい」
そうやって、IWAKURAは長かった困難を乗り越えたのでした。
舞は、自分が受注したネジを仏壇に供えます。
「お父ちゃん、これな私が初めてとった仕事」
そこにお母ちゃんもやってきて、お父ちゃんに話しかけます。
「舞、すごいやろ。悠人も力かしてくれてん。アキラくんも戻ってきてくれた。浩太さんおったら、よっしゃ乾杯しよかってゆうてるところや。会いたいな。。。」
お母ちゃんが絞り出した言葉を受けて、舞もお父ちゃんに語り掛けます。
「私も。お父ちゃんとネジの話ししたい。教えて欲しいこともいっぱいある。見て欲しいことも、聞いて欲しいことも、増えてくばっかりや。けどな、なんやお父ちゃんに助けてもろた気がすんね」
そして、涙ぐむ二人。
「浩太さん、これからも見守っててな」
最後に
長かったリーマンの影響も、やっと乗り越えることができました。アキラも帰ってきて、これからどうなるのでしょう?
予告では、4年の歳月が過ぎるようです。2009年から4年だと、2013年です。
阪神淡路大震災を描かなかったように、東日本大震災も描かれません。それはそれでいいと思います。
舞は、パイロットではなく、「飛行機にIWAKURAのネジを載せたい」というおとうちゃんの夢を追うようです。
そして、久留美や貴司にも、動きがあるみたいです。
物語は終盤へ突入。あと2か月です。
パイロットの夢がどうなるのか、どう展開するのか楽しみです。